第2話 同族狩りの吸血鬼

16,534人。

これは、1年間に日本国内で吸血鬼に殺された人々の数。


吸血鬼は、人間として日常にその身を潜めながら、闇に紛れて人を襲う。

そうして、多くの人々の血を喰らい、その命を奪ってきた。


そんな吸血鬼から人々を守るのがハンター。

人でありながら魔力を扱うことのできる我々は、吸血鬼を狩り続ける。

吸血鬼が人間の血を求め続ける限り……


***


哀は、片手に持ったスマートフォンの画面を頼りに町の中を進んでいっていた。

辿り着いたのは住宅街。一軒家とマンションが道に沿って均等の感覚で並んでいる。

その中を彼女は、スマートフォンの画面と周りの家を交互に見ながら進んでいく。

その内に、彼女は赤い屋根の一軒家を見つけた。

周りの家と大して変わらない、至って普通のこの家の敷地に、彼女は足を踏み入れる。

そして、玄関の扉の前に立ち、インターフォンを鳴らす。

すると、扉がほんの少しだけ開いて、その隙間から一人の少年が哀の方をうかがい見た。

桃色のショートカットのその少年は、哀と同じ中学生くらいの見た目であり、哀と同じ中学校の制服を身にまとっている。

哀と同級生のようだが、腰に差した柄に十字架の紋章の入った刀をみるに、ただの同級生という訳ではなさそうだった。


「おせえんだよ、哀。何してたんだ」


扉の向こうにいるのが哀であるとことに気付くと、

彼は髪色と同じ桃色の鋭い瞳をより鋭くして、哀のことを睨みつける。


「しょうがないじゃないですか、百花さん。

 色々あったんですよ」


彼のそんな様子に、哀は悪びれた様子もなく平然としてそう答えた。


「お前がやらかして隊長に怒られるのはお前じゃなくて、俺なんだよ。

 少しは反省しろよ」


少年はそういって、あきれたような大きなため息をつく。

彼の名前は、百花ひゃくばな かおる

哀と同じくハンターであり、彼女の同僚だった。


「とにかく、中に入れ。話はそれからだ」


彼は険しい顔でそう言って、扉を大きく開き、哀を家の中へと招き入れる。

そこは、彼女が外観から想像していたよりも広々とした空間だった。

白い大理石の玄関から磨き上げられたフローリングの廊下が奥へ奥へと続いている。

左の方には数枚の扉が、右の方には2階と地下へと続く階段が並んでいた。


「例の人は奥にいる」


少年の言葉を聞いた哀は、履いていたローファーを適当に脱ぎ捨て、玄関を上がる。

そして、まっすぐ廊下を進み、つきあたりの扉を開けた。

リビングらしいその部屋には、すでに複数の人がいた。

年齢も性別も異なる彼らは、薙刀や拳銃などの各々物騒なものを携えている。

そして、彼らは部屋の中心にある皮張りの赤いソファーを囲うように立っていた。

そのソファーには、一人の白髪の老人が座っている。

彼は、薄紫色の目を伏せ俯いていた。まるで、何かに怯えているように。


「全員そろいました」


哀を追って、百花が部屋に入ってきた。

彼の声に、その場にいた全員が彼の方へと顔を向ける。

老人もゆっくりと顔を上げ、弱々しく少年を見つめた。


「ご安心ください。あなたの命は、オレ達ハンターが必ず守ります」


老人の様子に気付いた百花は、彼に優しく声をかける。

老人の周りを囲んだ人々も彼の言葉に大きく頷く。

そう、彼らはハンター。哀と百花と同じハンターだった。


「ありがとう」


老人は、百花の言葉にそう返すと、こわばった表情を少し和らげる。


「あなた方が守ってくださるのですね……

 吸血鬼……いえ、「同族狩り」から」


そして、静かにそう言った。

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弱虫吸血鬼と泣き虫ハンター たきのこ @kinokoaisiteru

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