雪山で出会ったふたりの、「記憶」に残る物語
- ★★★ Excellent!!!
雪と静けさに包まれた山の中で、偶然出会った少年と忍びの少女。
この物語は、派手な出会いや劇的な言葉から始まるわけではなく、痛みや戸惑い、言葉にしきれない感情が、少しずつ積み重なっていくところから始まります。
読んでいて印象に残るのは、登場人物たちがとても「未完成」なまま描かれていることです。
強さも弱さも、誇りも迷いも、どれか一つに割り切られず、そのままの形で物語の中に置かれています。
だからこそ、誰かを責めるでも、持ち上げるでもなく、ただ「そういう気持ちになることもあるよね」と、自然に寄り添える感覚がありました。
忍びや武家、戦乱の時代といった要素はありながらも、物語の中心にあるのは、人と人が向き合ったときに生まれる、小さなすれ違いや、言葉にできなかった想いです。
それらが、雪の音や焚き火の揺らぎのように静かに描かれていて、読み進めるほどに、空気ごと物語に引き込まれていきました。
この先、彼らがどんな道を選び、どこに行き着くのかはまだ分かりません。
ただ、この出会いは確かにあって、確かに始まって、確かに続いていく。
そんな余韻を大切に味わいたい作品でした。