第2話終わりの時間

化け物は餌を求めた。とても美味しそうな匂いをしていた。食べ応えがありそうだ。とても楽しみしだ。舌なめずりしながら徘徊している。時にはドアを突き破って部屋の中を確認しながら餌は何処にいるのかを楽しみながら探した。




ーー突然笛の音がした。とても嫌な音だ。この音を聞くととてつもない苦痛を感じる。死ぬ様な感覚になるような。笛の音をした方へ全速力で向かった。部屋の前へ立った。この部屋に食べ応えのある餌がいる。喜びながらドアを突き破った。目の前には笛を持った少年がいた。近づいたら笛を吹こうとしているのだ。怒りの感情が込み上げた。それをされる前に少年の脳みそを食べるんだ。ジャンプして、少年へ飛びかかった。少年は笛を吹こうとしている。


ーー今がチャンスだ! 化け物は尻尾を使って餌の腹を殴った。少年は攻撃を受けてぶっ飛んだ。これで終わりだと化け物は思った。次の瞬間ーー



ーー小森は笛で化け物の目を貫いた。化け物は動揺して叫んだ。小森は隙をつき、シールを化け物に貼り付けた。化け物の動きが止まった。


「良かった」


作戦は単純だった。まず笛で誘き出して化け物が来たら自分を食べようとするだろう。隠し持っていたアイスピッケルで下を刺した後隙をついて頭にシールを貼ろうとしたが化け物は頭が良かったせいでぶっ飛んだ。

失敗した。ピッケルが離れていたからだ。もう終わりだと思った時に笛を思い出した。化け物の目を貫けてシールを貼り付けた。なぜKのシールを貼り付けたのか? なぜなら化け物の頭にKの文字があったからだ。貼り付ければいけると思った。賭けだったがなんとか上手くいった。

一安心したいところだがまずはこの館から脱出するんだ。この館からの脱出の仕方は理解した。

例の部屋の前へ来た。どうやってもこの鍵は開く事はできない様に見える。実は違う。この鍵はしっかりと錠前がついてる。それは違う。絵を外した。

そうユニコーンの絵は最初っからシールだったのだ

シールの裏には鍵穴を見つけた。クローバーの鍵を差し込み開いた。これでようやく脱出できると喜びドアを開けた。目の前の光が眩しかった。





ーー全てを思い出した。


僕は中学生じゃない。28の大人だ。漫画家倉坂サガメは僕だ。人と喋るのは苦手だった。相手と喋るといつも相手を不機嫌にさせていた。孤立していった学校が毎日しんどかった。

悲しかった。苦しかった。だから別の学校では物静かになった。漫画に出てくる様なモブを演じきった。そのおかげか。そういう事はされなくなった。そのかわりに孤独になった。一応は学校の行事で相手をされる事はあるがそれ以外ではない。便利なあまり物。そんなキャラクターを演じ続けた。

絵を描くのが大好きで話を考えるのも大好きだった。いつもそればかりを書いていた。中学生に上がった頃か。世間を知らなそうな同級生に僕の絵は見られた。するとその同級生は言ってくれた。素晴らしい絵だと褒めてくれた。

だから漫画家を目指した。必死に頑張って高校の時に漫画家になった。次々と作品を描き、その中でも一冊の漫画の作風を評価され、面白いと多くの人々が言ってくれた。一躍時の人になった。僕の作品展が開催される程だった。僕の描く漫画が人々の支えになっている。とても心地がよかった。僕は確かにここにいる。生きてるんだとそう思っていた。後に親友になったその同級生も僕も僕の事を応援してくれた。

26歳になるまでは。ある時から僕は作品を描きたくても描けなくなった。ネット上では僕はもう古い、飽きたと描いていた。そんな事はないと信じられなかったがすぐに現実を思い知った。その一年後に次々と大物作家が現れて、また一年後には僕の作品の存在が薄くなり、存在が忘れられかけていく。

怖くなった。完全に忘れられたら自分という存在が消えてしまう。もう孤独なのは嫌だった。アシスタントもこんな僕を冷たい目で見るのではないか。

親友も僕の事を見捨てるのではないかと思う様になっていた。そんな事は無いはずなのに。被害妄想がひどい。考えなくなる様に僕は必死に色々な作品を描いた。どれもそれも似ていて全然面白くなかった。焦りを感じた僕は色々と勉強して、色々な景色を見まくった。それなのにも関わらずに何も得られなかった。何も作風に活かせなかった。恐怖心がさらに僕を苦しめた。このままではいけないと思った。コンビニバイトをする事にした。そうすれば作風にも響いて、素晴らしい作品が描けるんじゃないかと思った。あわよくば人とコミュニュケーションをとって克服出来るんじゃないかと思った。全ては上手くいく。そう思っていた。結果は最悪だった。仕事も全て覚えられずにいつも注意されて、人とも上手く喋れなかった。気まずくなり辞めた。さらに苦しくなって快楽へと落ちていった。快楽に身を任せれば何か良い話が浮かぶんじゃないかと思った。そんな事はできるはずないのに。ときどき親友が僕の事を心配して電話をかけてくれた。親友に僕は大丈夫だと言って、元気に振る舞った。僕の現状を知られたら余計な心配をされるんじゃないかと思った。

現実逃避をした。ゲームをやり、アニメを見て笑いながら大量のお酒を飲みまくった。

頭が痛くなればスマホを見てダラダラ過ごす。そんな毎日を過ごしていた。貯金も減っていった頃に外に散歩をしていた時に仲良くしてい人と出会った。その漫画家は僕の苦しさを見抜いた。ある物を売ってきた。緑色のシールだった。そのシールを額に貼ると気分が良くなり、無限のようにアイデアが溢れるらしい。これしか無いと思った僕はすぐに買った。値段の方はかなり張ったが。これでまた面白い話が書けるなら良いと思えた。早速貼ると気分が良くなり興奮した。読み切りの半分を描き終えた。友達に連絡をした。そしたら僕を家へ招待してくれた。今日は夜に時間の余裕があるからとか。

嬉しくなり、残りの半分を描ききろうとした。読んでもらう為だ。きっと喜ぶだろう。さっきのシールをもう一度貼り直した。そしたらさらに興奮して

ラストの1ページを書こうとした瞬間に目の前が赤く見えた。やばいと感じとって最後を描こうとしたが倒れてしまった。そして今までの出来事が起きた。この世界は多分僕が作り出した現実逃避の世界だ。あの世界で親友が自殺したのは彼の心を傷つけたからだ。その罪悪感からあんな事を想像してしまった。お酒を飲みすぎたからあんな死なせ方をさせてしまったんだろう。なぜあんな化け物が出てきたのかは分からない。『シール』の影響だろうか。

理由はどうであれ僕はとてつもない重い事をしてしまったのだ。知らなかったとはいえ。数多くの人を裏切った事になる。体が重くなってきた。もうすぐ起きるのか。その時には警察に全ての事を話そう。そして罪を償って生きていくんだ。この先の人生は辛く、楽しい事なんて少ない事になるだろうが責任を果たさねばならないな。


ーーそんな時に目の前の子供が話しかけてきた。


「そんな事はやめてよ。ずっとここにいれば良いじゃん。あの館に入らずに……毎日遊園地で遊べば楽しいよ…」


僕の無意識から出た人格の一部か。目の前の子に優しく喋る。


「ごめんね。僕だってそうしたいけどできないんだ。もう『終わりの時間』がやってきたんだ」


子供は泣いた。そうして景色は暗くなった。




ーー目を覚ますと病室にいた。体があまり動かなかった。長い間寝ていたような気がした。一ヶ月ぐらいか。安藤が横で泣きそうな顔で僕の手を握りしめた。


「……何やったんだバカ!」


泣いてしまった。あのシールの事を知っていたんだ。今の安藤にこれしか言えなかった。


「ごめん……」

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