ファンミングパークのホープナイトメアドリーム

伊吹ひろし

第1話楽しい時間

「ハイヤー! ハッハッホー!」


マシュマロの螺旋状に絡まったツノを頭に生やした空色のユニコーンに跨り、頭が響く程の感高い奇声をまだ中学生の感じの少年は発していた。

何周回っただろう。とても楽しい。

陽気でメルヘンチックなBGMが少年の楽しい心をより弾ませてくれる。

興奮しすぎたのか。少年はユニコーンの尻を叩く動作をした。

それはカウボーイが馬を走らせる時と同じだ。


「ハイヤーシルバァアア!」


歯を剥き出しにしながらトチ狂った様な笑顔で言い放った。

全開で楽しんでいる少年を尻目にこのメルヘンチックな雰囲気がなくなるかの様に重い機械音がなった。そして遊具から女性の声が聞こえた。


『終了のお時間がやってきました。ユニコーンさんが少しずつ止まっていくので完全に止まったらゆっくりと降りてください。怪我がないように気おつけてお帰りください』


「もう終わりか…」


少年の寂しげな言葉と同時に楽しいお馬乗りは終わった。


「次はどれに乗ろうかな?」


馬から降りて、たくさんにあるアトラクションを見ながら少年『小森悠馬こもりゆうむ』は煌めきに満ちた目で言う。

小森は今日一人で遊園地『ファンミングパーク』へ来ていた。ホログラムやAIをあまり使わずに昔ながらを重視している。この遊園地がとても大好きで次はどれに乗ろうか迷っている。


「次はアレにしよう」


ジェットコースターを指差して言った。

目的の場所まで向かって勢いを任せて走り。

目的地に着いた。

「よし」と声を出して、シートベルトをすると鳥の形をしたコースターは動き出した。動きはゆっくりで少しずつ上昇していってる。

てっぺんまで登ると斜めに加速を上げて落ちていく

あまりの速さに少年小森の髪型は逆立ち、服が揺れて、目がしんどい。空気抵抗のせいだろう。ついつい目を細めてしまいそうだ、下手をすれば目にゴミが入りそうだ。それはかなり痛い。だが少年は目を見開いた。


「最高ゥゥゥゥウ!」


楽しくてたまらない。興奮が止まらない。

アドレナリンが上昇して止まない。ジェットコースターの速度により起きる風が身体中の肌にうけて涼しくて気持ちいい。

コースを進んでいるとどでかい緑色のフランシュタインがまるでこちらを見ているような目で大口を開けている。そのまま大口の中へ入った。口の中は薄暗く、一瞬で通り過ぎるものと思っていた。


ーー違う。予想とまったくもってちがったのだ。


一瞬で通り過ぎると思っていた口の中は想像よりも外へ出るまでが深かった。かなり暗いが小森の見た景色はとても綺麗で暗い中は星々がたくさんだ。煌めきに満ちた。それはまるでプラネタリウムにいるようだ。



ーー目の前に光が見えた瞬間。

小森は喉が震えるほどの大声を出して、落ちる。そのまま真っ直ぐに進み続けると上へと凄い速度でレールを回転しながら駆け上がっていく。

一番上まで行くと今度は自分の景色が逆さまとなり、加速し続けた。





ーー苦しげな表情でベンチに腰掛けて休憩した。


「うへぇ気持ち悪い……」


乗り物酔いを起こした。頭が微妙に重く、吐き気が凄い。吐物を吐き出したい思いだ。

当然の事だ。逆さま状態で加速し続けた後にそのまま自分自身が乗ってるコースターがくるくると回り続けてコースも何周も回り続けたのだ。

まるで海の中で螺旋状に流れる竜巻のように。


「……ゆっくりしよ」


気分が悪い時に海の中の竜巻を妄想してしまい、さらに気分が悪くなった。トイレへ駆け込もうと考えたがここで吐いてしまったら気持ちいいだろうが。

より一層に気分が悪くなるかもしれない。

そうなれば、せっかくの遊園地の楽しい思い出が汚い思い出に上書きされる。そう思いながら周りの景色を眺めた。たまには空を眺めながらぼーっとしていた。

これはこれで楽しい…いや気分が良いと思えた。

場所から流れるBGMや楽しそうにしている人の声が気分を落ち着かせたい今の小森には良かった。そういう楽しい雰囲気を感じながら空を眺めていたりすると気分が少しずつ良くなっていく。

時間が経つとすっかり良くなっていった。


「次はゆっくりとした乗り物にでも乗るか」


気分が良くなったばっかで激しいアトラクションに乗ればまた気分はさらに悪くなるかもしれない。

ここから落ち着ける電車の旅のアトラクションに乗うかと小森は思う。

そうと決めたらさっそくそこへ向かう。

少し笑みを浮かべて腕を少し大きく振りながら小走りで電車のアトラクションの方へ向かう。


ーーその後電車のアトラクションに乗り、緑豊かな花畑、やや遠くから見えるアトラクションに歩く人々。

緩やかな旅をしているような感覚になった。微笑を浮かべて心が穏やかになったようだった。

次にするのは乗ってる時に見かけた謎解き脱出ゲーム『ホープザナイトメアドリーム』に挑戦する事にした。最近できたもので評判がいいらしい。館の入り口に立ち、スタッフから同意書を渡された。色々と怪しい内容が書かれていたがそんなのは気にせず見ずにサインして同意した。館での説明を聞き、小学生が持つリコーダーサイズの黄色の笛を一つ渡されて中に入った。館に入った瞬間に大きな鍵が占められたような音がした。閉じ込められたのだ。

ゲームスタートだ。


「広いなぁ」


館の外装は普通の遊園地ではあり得ないぐらいの巨大さがある。最近できたとは思えないような年季を感じる。古いミステリー小説に出てくるような雰囲気の館だ。それこそこの遊園地に似合わないようなものだ。小森は入った時に同じものを感じた。それ以上かもしれない。それ以上の奇妙さを感じた。それ以上の恐怖を感じる。この館に何かがいるような感覚も感じる。

内装もどこか古く、一つのアトラクションとは思えないようなもので、まるで本当の館に入った様な感覚だった。一回も館なんて入った事もないのにだ。


「興奮してきたなぁ」


心拍数が上昇する。血流がより速くなり、体が暑くなる。小森のアドレナリンが上昇していってる

今、少年はわずかながらに非日常を感じている。それが小森を興奮させる理由だ。

笛を握りしめて慎重に館の中を捜索する。これがこのアトラクションの人気の所以という事だろう。

脱出ゲームのルールは簡単。化け物から逃げて館の謎を全て解いていくというものだ。ここまで見ればただのよくある脱出ゲームのように感じられるが、

ここからがこのゲーム特有の独特性が小森悠夢が興奮する理由だ。このゲームのコンセプトはまるでテレビゲームの世界に入った様な感覚になる。

まず館の謎だが、昔に有名な漫画家の男がいた。

奇妙さが凄く、どこか心温まる作品をたくさん描いて、一躍時の人になった。だが月日が経つにつれて、その漫画家は世間から受け入れなくなる。その理由が自分の作品がマンネリでその辺に良くあるものとして扱われていた。さらにはもう古いもの、面白みがないと言われる。漫画だけが全ての男は誰もが面白く斬新な漫画を読んでもらうべく。必死に模索して、最終的には魂のエネルギーが感じられて読んだ人の魂を弾丸で打ち込まれたようなそんなインパクト性の高い漫画を描くために。ある日の出来事。男は友人に誘われて、この館はやってきた。友人は面白い漫画を描いてもらう為だ。

男は館のある部屋は入ると突然、机に座り漫画を無我夢中で描いた。最後のページで男に異変が起きた。頭を右手で抉るような音を鳴らしながら掻き出した。目が血走り、笑みを浮かべた。そして口から大量の血を吐いた。漫画が汚れないように自分の下へと。そんな状態にも関わらずに。漫画を描き終わると倒れた。大の字になっていてその時にしてた表情は楽しみ終えた子供がするような純粋な笑顔に近いもので、そのまま眠るように死んだ。その後その館の主人の友人も自室で毒の入ったウイスキーを飲み自殺したと言う。それからこの館には化け物が出ると言う。館には入った者は全員出てこなくなる。

それがこのゲームの物語だ。とてつもなくもの恐ろしい内容だ。だが化け物を避けながら二人はどうして死んだのか。その謎を解いたときに言葉では言い合わせないようなラストが訪れるらしい。

このゲーム他にも面白い要素があり、時間無制限で何時間でも遊べるそうだ。化け物に捕まった時点でゲームオーバーだが。もしくは参加者自身の時間がなくなりそうな時に待たされた笛がある。この笛が唯一化け物を倒せるものである。そうこの脱出ゲームは追いかけてくる化け物を危害を加えたり倒すことができるのだ。まず軽めに笛を吹く。化け物は耳が良いので笛の音がした瞬間にものすごい速さで来る。化け物がやってきたら近くで笛を吹き、動きを止めることができる。1回目は止めるだけだが2回目は倒すことが出来る。ゲームは一応これでもクリアにはなるがその代わりにラストは見れなくなる。あくまで参加者自身の時間がなくなったときの消去法になる。自分の荷物も一応ゲームを有利に進める為に使っても良い。攻略の幅が無限に広がり、どうやってゲームクリアをするのかは参加者自身に委ねられる。

まず最初に行くべきところは主人が死んだ部屋か漫画家が死んだ部屋かどちらかだろう。死んでしまった二人の理由を解くのなら死んだ人間の部屋の中を調べるのがセオリーだ。小森悠夢はそう考えて、目的の部屋へ歩いた。入るときにスタッフから館の地図を渡された。中の捜索をしやすくするのに。化け物がどこへ出現しやすいのか、そのポイントも記されている。良心的と言えば良いのか。脱出ゲームが苦手な人間でもある程度はクリアできるようにしている。目的の部屋まで歩いてる間は館の中をある程度見ていた。地図だけを頼らずにどんなふうな部屋があるのか見る為だ。多くの部屋がある。その中でも気になった部屋があった。鍵を付けられている。鍵穴がない。変わった形だ。ユニコーンの絵が掘られている。どうやったって鍵は開けられないようにしてある。これを解かなければ開けなれない。ここがクリア必須の部屋だろうか。後で絶対に攻略するのに必須な物だと感じ取った。これは後にして少年は主人と漫画家の死亡した部屋へと向かった。まず最初に向かった部屋は主人の部屋だ。漫画家はともかく主人はどうして毒殺なんて事をしたのか。

その謎を先に解いた方が良いのではないのかと思ったのだ。それが館で起きた謎を一早くに解けるじゃないかと考えたのだ。主人が死亡した部屋に着いた。中は慎重に入ると。部屋の中は酒の匂いで充満していた。館の主人は相当な酒好きだったのだろう。設定をここまで念入りにするのかと小森悠夢は感心を覚えた。部屋の中を念入りに調べた。

色々と面白いものを見つけていく。自殺で使ったであろう毒薬。ラムネの様な形だ。

大事に飾られていたサイン色紙。

友人の漫画家のだろう。

漫画家の名前は『蔵元サガメ』と言うらしい。おそらく本名ではないだろう。サガメの『ガ』が十字架の様に書いていて一瞬わからなかった。友人である前に漫画家として尊敬していて大好きだった様だ。アイスピッケルも見つかった。毒で自殺する前に氷を割ってウイスキーに入れたのだろう。自殺する前にウイスキーを味わって飲んでいたのだろう。最後に見つけたのは高校時代の『アルバム』だ。名前が書いていた。きっと主人の名前だ。『安藤翼あんどうつばさ』それが主人の名前だ。

思い出の詰まった写真が飾られていた。特に目に入ったのは中の良さそうな男性二人の写真だった。きっとこの二人が安藤とサガメに違いない。

最後に『遺言書』を見つけた。自分自身に対して書いていただろうか。内容は喜劇的だった。サガメが嬉しそうに漫画を描いていたこと。その漫画を一番に早く読める事。友人がようやく元気になってくれそうな事。読んでいてこっちまで嬉しくなる様な内容だった。にもかかわらず。どうして自殺をした。ここまで喜びに溢れたような文章を書く人間が。何か相当な訳があったのか? それとも自殺と見せかけてサガメが漫画を面白く描く為に殺したのか? いくら考えてもしょうがない。この部屋ではもう何の手がかりも見つけられない気がした。次はサガメの部屋は向かった。歩いてサガメの部屋に着いた。部屋の中は荒れていた。椅子が壊れていた。タブレットのガラスが割れていて、暴れた様な有り様だ。一体どんなやり方で漫画を描いていたんだ? きっと部屋の意味を知れば謎の答えが大きくわかるかも知れない。そう考えてサガメの部屋の中を調べた。使い古されたペン。サガメ本人が描いたであろう漫画が一冊あった。

表紙には顔が不細工なユニコーンとくたびれた死んだ目の女性が笑顔で一緒にナイフとフォークを持ちワッフルを食べていた。グルメ漫画の様に見える。それも少々ブラックユーモア味がある。少し面白そうだと思った。他には一枚シールがあった。

緑色でKと書かれている。何かの意味を持つのか分からないが何か惹かれる。そのシールに目を離せなかった。カバンの中の財布に一枚入れた。何かの役に立つと思ったからだ。

もう何も無いだろうと考えながらも探していると。机の中に遺言書があった。こっちの内容は悲劇的だ。悲しみと自虐と呵責の念が溢れている。読んでいるこっちが悲しくなりそうだった。読むのを終わると共に手紙をしまい込んだ。


ーーここまででヒントらしいヒントは見つかっていない。さてどうする。小森悠夢は考えた。


「こうしよう」


地図を見て、二人が食事した食堂へと向かった。化け物がいる確率の高い部屋だ。逆にそこが一番謎を解ける所じゃないかと思いついた。今すぐに向かった。


ーー笛を持ちながら慎重にドアを開けた。化け物はいなかった。小森悠夢は警戒心を解く事なく部屋の中を慎重に探した。すると謎を解くための凄い物を見つけた。それは手紙だ。こう書いてあった。



『友よ、ごめん。私は愚かな事をしてしまった。あんな物さえ買わなければこんな事にはならなかったんだ」


後悔をした内容だ。この館で何があった? 少年は急激に恐怖心を覚えた。これはゲームではなく、本当に現実にいるようだ。小森の魂がもうこれ以上はしたくないと言っている。それでもやろうと決めた。他にはないか探した。すると鍵を見つけた。四葉のクローバーを形持った鍵だ。この鍵が何に使うのか少年には分からないが一応持っておく事にした。どこも探す必要は無くなったとかんじたのか他の部屋を探そうとした瞬間ーー




ーーキモチイィィィ。




子供のような声にも大人の声にも聞こえる声を聞いた。小森の汗は止まらなかった。無意識に胸の部分をしっかりと握りしめた。普通なら慎重に逃げ出す事だろう。何を血迷ったのか。小森は声のする部屋へ向かった。ゆっくりとドアの方を開けた。すると想像絶するおぞましい物を見た。




「キモチイイ! オイシイィ! ちゅパーン!ヒアワセエェン!」


化け物がいた。容姿は巨大で芋虫の様な見た目で頭の脳みそが出ている人の頭の形をしていた。

成人男性の上をのしかかり脳みそをしゃぶって喜んでいた。見ていた小森は思わず声を出して、胃の中の物を吐いてしまった。


(早くここから逃げな……)


小森は悲鳴を上げた。化け物がこちらを見ていた。


「新しい餌!」


そう言うとノソノソときた。もうすぐ小森に食いつこうとした。どうすれば良いか分からず考えると持っていた笛の存在を思い出して吹いた。

すると化け物は動きを止めた。アンドロイドの様に。すぐに小森は全速力で走った。




ーーなんとか逃げ切って見せた。小森自身ここまで早く逃げれるとは思っていなかった。






ーーなんとか逃げ切った。なんだあの化け物は? 

ありえない。今の現実を否定したかった。この遊園地のスタッフに恨み言を言ってやりたかった。だが少年はそんな事をしたって何も変わらないと分かり

すぐにあの化け物の攻略を考えた。どうすれば良い。持ってる笛で倒せば良いのか? 


「ダメだな」


小森は直感で感じとった。この笛で化け物を倒せば取り返しのつかない事が起きる気がする。今は直感を信じよう。化け物にバレない様に狭い部屋へ閉じこもっていた。どうすれば良い。どうすればあの化け物から逃げ切る事ができる。出口はさっき確認したが開けられなかった。だとすればあの錠前がない部屋が鍵になるのか。だがあの部屋も何か方法がないと開けられない。そんな気がした。それ以外にもどこか見落としている気がする。何かないか? 思い出せ。絶対にクリアできる方法があるはずだ。少し気分を変えようと立つとポケットからシールが出てきた。緑色のKのシールだ。このシールを見た瞬間に化け物の顔を思い出した。その化け物とこのシールが関係している可能性が高い。ある作戦を思いついた。その作戦は大変に馬鹿げている。普通の日常を過ごしていたら絶対に思いついてもやらない方法だろう。今は違う。なんとしてもあの化け物の動きを止めねばならない。それがこのゲームから脱出する唯一の方法だ。





































  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る