EP16「本好きのいない街」
「ほんにありがとうね!仕入れでちょっとトラブルがあったさかい。あんさん達いて助かったわぁ」
「まかしときぃ!」
ぴのが商品の酒をグビっと呑んで、柄杓を得意げに掲げてみせる。
「ばぅあ!」
りあのお決まりの喃語に飴ちゃんがピクリと身構えた。
「おばちゃん。ぴのさぁ。香水探してんねん。お店知らんー?」
「それならそこの角を曲がった所にある、お守り売ってはるお店の隣がそうやった気がするなぁ」
おばちゃんの説明を聞き終えるや否や、りあが走り出した。
「りあちゃー?ぴのも行くー?」
「ぴにょいらん!すぐ迷子なるでしょ!」
「なんなん!」
小声でぶつくさ言うぴのに被せるように、少し肩の力が抜けた飴ちゃんが気を取り直しておばちゃんに話しかけた。
「おばちゃん。この辺でオススメの宿ってどこ?」
「オススメの宿ねぇ。ちょっと騒がしくてもいいんなら、この通りをずーっと行ったところにある『かすたまぁず』がオススメやねぇ。朝晩2食付きで、その人数で泊まって……銀貨2枚ってとこやない?あんたがた達が獣人のお店を気にしないなら、やけども」
「じゅっ獣人!……こほん。ですか」
「あらまっ。やっぱりよその人には合わんかしらん」
「いえいえいえいえいえ!!ん゛んっ!ところでこの街には大きな図書館があるって聞いたんですが」
「としょかんんん〜?…………あ、あぁ。確かに図書館あるさねぇ。でも図書館行って何すんだい?……あんた達もしかして……文字が読めんのかい?」
「オム読めるよ!」
オムライスが鼻息荒く、割り込んで来た。
「へぇぇえ。ほいだらば図書館はねぇ………」
おばちゃんの案内の通りに道を進んでいくと賑やかな街は一転して静かな様相に成り代わった。
背の高い建物が並び始め、明るかった道は影を作り始めた。
6人の会話も自然と途切れがちになる。
ふと6人の足が止まり、目の前には大きな建物がそびえ立っていた。
「入りましょうか」
咲の言葉にオムライスと桜が大袈裟に息を呑んだ。
「これ、は、……ちょっ……と」
ジリがため息を押し殺すような絶望の声をあげた。
「酷いとかそういう次元じゃなくない?さっきまでの皆の俺の扱いが可愛く見えるわ」
今まで持っていた荷物を置いた桜の左手首が、紙をめくる音だけが響くべき空間に金属音を立てる。
「あぁ……文字読めるの?って……そういう……」
深い溜息と共に、辺りを見回した。
棚には、本が乱雑に仕舞われている。
ひと目見て分かったのは、半分以上の本が背表紙の文字が逆さまに棚に納まっていたからだ。
これでは分類などされていそうも無い。
閲覧机の上に積まれた本は8割が図鑑や絵本である。
飴ちゃんがひとつ大きく息をついて、よしっと手を叩いた。
「咲ちゃんそっちとそっちの棚。よろしく。ジリは2階。桜はここ。うちはとりあえず全体見て回るわ。オムはそこの絵本片付けて。ぴのちゃは……図書館の中にはおってな?」
「まかしとき!」
ぴのとオムライスがピッと敬礼をすると6人はそれぞれに動き出した。
New game 木花 桜 @konohanasakura0212
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