その5(2021/10/31)

 ……………‼


 後日。…ではないが、数時間後。秋の日差しは釣瓶落としともいう(ハロウィーン的に言えばもう冬なわけだが)、すっかり日も暮れて、…なんだ、一件落着とも言い切れない、もやもやとしかしない、解決とはとても言い切れないのだが…


 とにかく、は済んだ。

 師匠に報告する必要性はそこまで無いが、しかし繋ちゃんの姿をした「彼女」が何故あんなことを言い出したのか。そうしたことについては、師匠に聞くのが早いだろう。


「いや、まあ…結果、というか、今回何をしたのかという事だったが…」


 今、顔を合わせているのは、俺、齋兜、琴梨ちゃん、御咲ちゃん…の四人だ。


「繋ちゃんは…今日の彼女が、そもそも偽物だったという結論に落ち着くな」


「…いや、何だったんですか本当にー!!!?」


 牙をむき出しにしていかる琴梨ちゃん。


「そんなことはこっちが聞きたいくらいだ…多分、俺が琴梨ちゃんの家を訪れようとした時、繋ちゃん、もとい、「彼女」がついて来ようとしなかったのはそういう事だろう」


「本物と接近することになるから、ですか」


「ああ。…だが、彼女の目的はというと本当にわからない。今日は珍しく、塑斗河に感謝しなければいけないようだ」


 ………。


鬼火ウィルオウィスプ。ほとんどジャック・オー・ランタンと同じ存在と言ってもいいが、しかし、ジャック・オー・ランタン自体定義が別れる所であるので、君たちが遭遇したものについてのみ教えてあげよう。


 …昔々、ヨーロッパあたりの、まあ…仮にイギリスとでも言っておけばしっくりくるだろうか。ともかく、キリスト教の信仰の言い伝えのひとつだ。ウィルという男は、生前悪行を繰り返し、恨みで殺されることになる。そうした時、当然こいつは地獄へ行くと思われるものだが、しかし審判を下す聖ペテロを言葉巧みに騙して再び人間として生まれ変わることに成功した。だが、生前と同じく二度目の人生でも悪行を繰り返した結果、もはや地獄へも天国へ行くことも許されなくなったウィルは、冥界とも現世ともつかない場所を彷徨うこととなる。キリスト教においては、天国や地獄といった死者の行き先がはっきりとしているから、地縛霊のようにどこへいるわけでもなく漂い続ける怨霊というのはわりと珍しい話だ。

 …さて、この上なく自業自得ではあるんだが、それを哀れに思った悪魔が、轟々と燃える地獄の石炭の欠片を一つ手渡した。真っ暗闇の中の、唯一の明りとなるようにね。この火が伝説上のそれとなったわけだが…ああ、言いたい事はわかる。君たちが行き逢ったのは死神の姿をした「何か」であって、こんな鬼火とは限らない。ただ、この鬼火は、もしくはジャック・オー・ランタンは、「道案内をする」という特質がある。そこで底なし沼への、とんでもない災いへ導くこともあれば、時には正しい道へ導くこともあるそうだ。気まぐれにね。


 鋏の話だと、今日の死神は、肯定するべきことを肯定したり、やたらと褒めてくれたりしたらしいが…、その結果、間違った問題の、間違った解決法へ導かれたそうで…くくく、なんというか、鋏の鋏たる所が出たといった感じだねえ。……………いやあ、反省を促さない訳ではないが、説教垂れるほどではないかな、むしろ、そういう純真さこそが怪奇現象の有象無象どもに好かれる部分でもあるからさ。騙されるだけでいいなら疑う気持ちも持たなくていいんじゃないか」


「何も言えねえ…」


「本当にそうかね?」


「え……あ、今回の偽繋ちゃんの目的は、何だったのかということなら…」


「ほう」


「彼女?…が、俺を間違った道へ案内したのは事実だが、しかし、この季節にすることとしての道理としては、間違っていなかった。…あの鬼火は、俺たちにハロウィーンの何たるかを教えたかっただけだった」


「…この鬼火伝説には、結構たくさん別名があってね。代表的なものだと、愚者火イグニスファトゥスと言って…まあ、なんといっても、愚かだね、君たちの逢った死神もどきは。ハロウィーンを知らない現代の若者どもに教え込んでやるがためだけに、それに関する飾り付けを荒らして回ろうとした…だなんて」


ただただ困惑しかなかった上に、大して派手な争いもなく、たった一つの見どころとして、世にも珍しい死神の偽物を見れたというだけで、お蔵入り回避した、2010年のハロウィーンだった。




※本作品にはモデルとなった実際の人物や地名は存在しますが、

この作品はフィクションであり、実際の人物、団体、事件等には一切の関係もございません。


【季節特別編・イグニス・ファトゥス おわり】




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A.L.Extra!! 【ニヒスカスピンオフ】 慎み深いもんじゃ @enomototomone0918anoradio

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