第7話

 フウロがゴーレムと戦闘を開始した同時刻、ティーレはある屋敷に訪れていた。

 馬車が2台入るんじゃないかというくらい広い廊下を歩いている。


「相変わらず大きい屋敷ですね」


「ほっほっほ、主人が窮屈な思いをしないように作りましたからな」


 ティーレに返事をしたのは、この屋敷の執事であるサバンバ・バンバ。膨よかな体型をしており、穏やかな性格も合わさって屋敷からはマスコットとして愛されているお爺さんだ。

 ティーレの前を歩いていたサバンバが立ち止まる。目的の部屋に着いたのだ。


「ささ、こちらが主人の部屋です」


「サバンバさん、ありがとうございます。ローレン!入るわよ〜!」


「お〜いいぞ〜」


 部屋の主から許可が降りたので、ティーレが部屋を開けるとそこにはだらしなく寝転がっている赤髪の男。勇者であるローレン・バイツがいた。


「流石にだらけすぎじゃないかしら?」


「だって魔王を倒してゆっくりできるんだぜ?そりゃあだらけるだろ」


「ほっほ、主人らしい理由ですな。では私はこれで失礼しますぞ。ほっほっほ」


 サバンバは二人に気を使って、自慢の脂肪を揺らしながら部屋を出て行った。


「で、今日は何のようだ?もう帰っても良いんだぞ?」


「フウ君とグフィンちゃんが駆け落ちしたわ」


「詳しく」


 気づいたらティーレの前に、寝転がっていたはずのローレンが椅子に座っていた。ご丁寧にティーレの分も用意してある。

 ティーレはローレンに今朝の出来事から一つ一つ順に説明した。説明を受けたローレンはプルプルと震えた後、ティーレに怒鳴る。


「お前のせいだろうが!ふざけんな!!!!くそっ、フウロもフウロだ‥‥グフィンと二人っきりだ?聖剣のサビにしてやる!!」


 ローレンが憤慨している理由はただ一つ。ローレンはグフィンに恋をしている。つまり、グフィンと二人きりになっているフウロが羨ましいという醜い嫉妬が原因だ。

 ローレンの発した言葉に、今度はティーレが静かに怒る。


「最後のは聞き捨てならないわね。確かに私が悪いけどフウ君は悪くないわ。そもそもローレンがグフィンちゃんをさっさと落とさないから悪いのよ。グフィンちゃんがフウ君と二人っきりなのを思い出したらイライラしてきたわ。グフィンちゃんに天国への切符ライジングヘヴンでもぶっ放そうかしら」


「は?そんなことする前にお前とフウロを聖剣でバラすぞ?」


「やる気?そんなに天国に導かれたいの?」


 二人の魔力が高まり合い、屋敷とその近辺が揺れる。サバンバの脂肪も揺れる。

 揺れた影響で部屋の家具が倒れたことにより、二人は冷静になった。


「‥‥一旦落ち着きましょうか」


「‥‥‥そうだな」


「「‥‥‥」」


「「無理だ(わ)ぁぁぁ!!!」」


 二人は同時に頭を抱えた。冷静になればなる程フウロとグフィンの事を考えてしまうからだ。


「ローレン、貴方のことだからグフィンの位置を把握できる魔道具があるんでしょ。貸しなさい」


「あるけど嫌だね。俺が二人のところに行く」


「グフィンちゃんに魔道具のことをバラすわよ」


「早く居場所を突き止めるぞ!ちょっと待ってろ、相棒!」


 ローレンは何事もなかったかのように急いで物置の中を漁り出した。

 ティーレはゴミを見るような冷たい目でローレンを見つめる。ローレンが物置を漁って数分後、ローレンはティーレの前に探知機のような物を置いた。


「暫く使ってなかったから探すのに時間がかかったぜ」


「早く使いましょう」


 ローレンが魔道具に魔力を流すと魔道具の画面が光だし、とある場所を示した。


「ここは‥‥グフィンの家か?」


「私は確かに二人が転移したのを見たわよ?」


「‥‥‥違う服を着てたか、フウロがグフィンに触れた際に魔道具が落ちたかの2択だ」


「黒いローブを着ていたわ」


「‥‥‥後者だ」


「終わったわね‥‥‥」


 フウロとグフィンの居場所が分からず落ち込むティーレとローレン。

 直後、ローレンは何かを思い出したかのように頭を上げた。


「いや、まだ手は残ってるぞ!」


「本当!?」


「グフィンに何かあった時の為に盗聴の魔道具を付けておいたんだ!勿論、黒いローブにな!あれは熱と寒さに弱い代わりにそう簡単に外れない魔道具だ!」


「ローレン‥‥‥」


 しれっと犯罪を犯している元パーティメンバーに言葉を失ったティーレ。

 ローレンはそんなティーレを見て焦ったように言い訳を言い始める。


「いや、違うんだ。俺達やフウロと違ってグフィンは体力がないから魔力が切れたら何もできない。もしもの為に盗聴の魔道具を付けた訳であって別にグフィンが風呂に入っている想像を具体的にしたいからとか変な男に絡まれていないかとか女の子との恋バナでどんな話をしているかとか決して私情で付けたんじゃあない。パーティメンバーとして付けただけだ。つまり問題なし」


「貴方には脱帽したわ。私にも同じ魔道具をちょうだい」


「同士よ。任せておけ」


「流石世界の英雄、勇者様ね。懐が深いわ」


(しかしフウロも可哀想だな。こんな重い女に好かれるなんて)


(グフィンちゃん可哀想‥‥‥こんな変態に好かれているなんて)


 まさに類は友を呼ぶとはこういう事だ。二人は爽やかな笑みを浮かべ、固い握手をする。また、フウロのプライバシーが消える決定的瞬間だった。

 ローレンは再び物置を漁り、ティーレの前に魔道具を持ってきた。


「最近使っていなかったから調子が悪いな。でも最後の会話は残っているぞ!」


「早く聞きましょう!」


 ローレンが再び魔道具に魔力を流す。

 途切れ途切れだが、フウロとグフィンの会話が聞こえてきた。


『新婚‥‥‥に‥‥‥よ。その‥‥‥私がやって‥‥‥‥わ』


『良い‥‥!?楽し‥‥‥るわ!』


『そ‥‥‥、私達の仲‥‥』


『‥‥か!』


「「‥‥‥」」


 少しの会話だが、二人は心に大きなダメージを負っていた。情報量の多さに思わず黙り込むローレンとティーレ。


「しん‥‥」


「こん‥‥?」


「うぉぉぉぉぉ脳が破壊されるぅぅぅ!!!グフィィィィン!」


「嘘よ嘘よ嘘よ嘘よ嘘よ嘘よ嘘よ嘘よ。嘘よね、フウ君?私のことが好きじゃなかったの?何で?私が振ったから?何で何で何で何で何で‥‥‥」


 漸く頭の処理が追いついたのか、床を転がりながら発狂するローレン。ハイライトが消えた目でブツブツと壊れたティーレ。どちらも世界の英雄と思えない姿だった。


「ハァッハァ‥‥ティーレ、一つ分かったことがある」


「言ってみなさい」


「魔道具の調子が悪かったとはいえ、あんなに音が途切れるのはおかしい」


「‥‥そうね」


「最初に言ったよな?あれは熱と寒さに弱いと、そして微かに聞こえた強い風の音とモンスターの声。そんな条件が揃っているのはあの場所しかない」


「まさか!」


「そう、そのまさかだ!」


「「フォスカル雪原!」」


 奇跡的に正解を導き出したローレンとティーレ。二人は居場所が分かり満面の笑みになる。


「そうと決まれば早速向かおう」


「そうね、ここからだと早くても1週間と少しはかかってしまうわ」


「準備は行く途中でもできる。行くぞ!」


「ええ!」


 今、フウロとグフィンに変態とヤンデレ魔の手が迫ろうとしていた。

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剣聖は聖女と付き合いたい〜剣聖は何十回振られても成功するまで諦めない〜 愚弟 @gutei

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