本編
第48話 チャラ男は近づく。
「ねーそーっらくんっ!!」
池永由良もとい、今は俺の幼馴染、
「何だよ立夏。そんな近づくなよ」
態度は嫌がっているが、本心はそこまで嫌がっていないという設定。まぁ、演じるのはそこまで難しくないし、もともと高校生だからいつも通り振る舞うだけでいいのだが。
そして、そんなこんなで高校に到着し、教室へ向かう。前に撮った場面のちょうど半年ほど後のシーンだ。ここから本筋が始まると言っても過言ではない。
そして幾度かカットを挟んだ後。
「あ、空君っ!」
元気な掛け声。俺が廊下を立夏と歩いている時に、チャラ男演じる石田
石田文彦は何の言葉も発することなく、一歩引いて俺たちを見ている。
「何だよ。気持ち悪いな、話しかけないでくれよ」
「あっ、ごめん。あ、今日の晩御飯どうする?」
「今そんなこと聞くなよ。いつもなんでも良いっていってるだろ」
俺はそうセリフを捨て、去ろうとしたとき。
「おい」
「ねぇ」
と男女二人の声。
「何だよ立夏。それと……だれかわかんねぇ奴」
立夏は身長差から上目遣いで問いただし、石田文彦は威圧するように距離を詰めてくる。立夏の、由良さんの顔が近すぎて一瞬我に返りそうになるが、何とか耐える。
立夏にはデコピンを返し、刻一刻と近づいてくるう工藤にガンを飛ばし返す。
「お前、凜に対してなんなんだその態度。えぇ?」
びりびりと肌に感じる威圧。演技なのか、私情から引っ張り出した演技なのか、前の出来事があるから何ともわからない。が。
「あ? お前もいきなりなんだよ」
どちらも引かない。引けない。台本にそう書いてあったからわかってはいるものの、足が竦む。こういう事には慣れていないつけが回ってきた。
「ちょ、ちょっと! やめなよ!」
「そ、そうだよ空!!」
にらみ合いつつも俺は立夏に、工藤は凜に引っ張られる。
「ちっ。行くぞ立夏」
俺はまだ睨みを利かせながらその場を去る。そして、カットが入った。
※
手汗がすごい。
滝のように流れ出た手汗は未だに止まることを知らない。
「お疲れ様です!」
由良さんが満面の笑みを浮かべながら水の入ったペットボトルを手渡してくれた。吹き出る手汗でペットボトルを落としそうになるが寸でのところで何とかキャッチする。
「……一夜君、大丈夫ですか?」
さぞかし心配そうな表情を浮かべながら頭をこくりと傾ける由良さん。
「あ、だ、大丈夫ですよ」
実際はあんな事、と言うかそもそもこんな役するのが初めてだから、さっきから動悸がすごい。
まぁ、それがきちんと役に入り切れない証であって、もっとやれることがあるという事なのだろうけど。
まぁ、今も場面的にはまだまだ序盤。そこまで行き急がなくても良いだろう。これから完成度をあげていけばいいし。
そう思いながら喉を潤したその時。
「ふー疲れましたね! 舞さん!」
「あ、うん。そうだね」
控室へと入ってくる先ほどの二人。舞さんとチャラ男だ。チャラ男は俺を見るならごみを見るように一瞥してきたが、気にしない。
「あっ! 由良たんもいるじゃん! やっほー!」
「え。あ。はぁ」
由良たん……前々から親しかったのだろうな。きっと。
なぜか控室の場が少し気まずくも感じる。
だが、そんなことを気にする身振りも無く舞さんと由良さんがメイクに向かう。
元から椅子に座っていた俺も特にすることがないので台本を開こうとしたその時。
「やっほー」
乱雑に椅子を引いて、俺の隣に座るチャラ男。
「……なんですか?」
「何ですかって、共演者だからそりゃ話しかけるときもあるよー。ね? さっきビビり散らかしてた陣堂一夜くん?」
これでもかと口角をあげながら、さぞかし愉快そうな笑顔を浮かべるチャラ男。
「……だから何ですか? それとああいうことは慣れていないので」
「ぷっ。だっさぁ。それでも本当に男か? お前」
「…………」
「コネでちょろっと夏花出たくらいでイキがるなよ? ほんと、これだから陰キャは」
「……え?」
「何だよ。その反応。どーせ、このオーディションでいい役取るために実績を残したかったんだろ? ニュークリだからできる荒業だな。はっ」
「さっきから何ですか? それに僕のことはまだしも僕の事務所を馬鹿にするのはどうなんですか?」
「あーこわいこわい。さすが事務所の力でこの役を勝ち取っただけあるな。へっ」
「ちょっ——」
「ま、さっきの見てる限り大した演技じゃないし。まぁ、せいぜい頑張ってー」
そう言い残して去ってゆくチャラ男。ヘラりとしたその笑みはメイクをしている二人に向けられていた。
デブでいじめられっ子の俺、美人女優とお近づきになるために痩せて俳優目指します。〜ところで美少女アイドルや売れっ子女優と仲良くなれたんですが、距離が近すぎませんか? 和橋 @WabashiAsei
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