怪奇!殺戮オランウー団の謎!!!

カポラーデック坂本

沙録愛梨の冒険

──100匹目の猿、という都市伝説がある。昔、あるニホンザルが芋洗いを覚えた。それはやがて同じ地域のニホンザルにも伝播し、文化として受け継がれ……そして100匹目を越えたとき、不思議なことが起こった。


 全く遠方の、全く接触のなかったはずのコミュニティのニホンザルたちにもまた、その芋洗いが発現したのである。生命同士のシンクロ……この背後にこそ生命進化の秘密が秘められていると、研究が行われた……そして、人は知ってはならない、恐るべき真実を知ってしまったのである!


 この物語はそんな真実に立ち向かう運命を背負ったある少女が通う高校から始まる……




「ははははは、クリーム明太子バーガーは本当にうめーなー!」


「こら沙録ー、授業中に大声で喋りながら堂々ファストフードを食べるなー」


 宮崎県M市M高。どこにでも当たり前にある授業風景がそこには広がっていた。


「んだとキムセンこらー。お前一年へのセクハラがバレてもうすぐクビになる身だろうがー。あたしに偉そうに言えた義理じゃねえだろバーカバーカー、ははははは」


「クビっつったかてめえこらぁああああああああああああ!!!なんでオレがセクハラしたことがバレてんだこらぁあああああ!!クラスの前でバラしやがって許せねえ上等だこの不良少女わからせぐぶおおおおおおおおおおおお」


 その瞬間!掃除器具入れから長い腕が伸びて木村教諭の首を捻りきる!!


「うおおおおおキムセンーーー!!?な、なんだーあのデカいモップはーーー!!?」


「オラ……オラ……オラ……」


 沙録愛梨にモップと呼ばれたその茶色く不気味な生き物がニタリと笑みを見せ、木村教諭の首から滴る血をすすりあげる、明白な知性を持った行動であった。


「さ……殺戮オランウータンだ!!」


 級長の守谷のその声にクラスは騒然となる。


「殺戮オランウータン!?なんだそりゃあ!」


「嘘愛梨、知らないの!?毎日ニュースでやってたでしょ!?」


「あ、ああ……あたしは動画配信サイトで毎日名作映画耐久同時視聴配信を最近はやってたから……世の中のことにはちょっと……」


「君の配信業とか知らないよ!最近、世界中で他の生き物を殺す殺戮オランウータンが大量発生して治安を破壊しているんだ!すでに世界中で死者は十億を越えている!!!そんな事も知らずに君は学校に通っていたのか!?」


「マジかよ!むしろなんでそんな大変なときに普通に学校やってんだよ!休校にしろ休校!」


「ええいそんなことはどうでもいい!逃げるんだみんな!殺戮オランウータンがぐぼおおおおおおおおおおおお」


 避難を促すも虚しく守谷の四肢が殺戮オランウータンに引きちぎられていく!


「学級長ーーーーーーー!!!ちくしょう、みんなやつから離れろ!早く学校の外に……」

「い、いやーーーーー!!!外を見て……オランウータンが街中に!!」

「さ、最近は出てないって聞いたのに……」

「ママー怖いよおおおおおお!!!」


 確かに、学校はすでに殺戮オランウータンに包囲されていた。その密度たるや、殺戮オランウータンが観測される前に地球上で確認されていたオランウータンの全てを集めてもここまで醜怪たる光景にはならないであろう、と思わせるものである。


「な、なんでこんなクソ田舎の学校にこんなにオランウータンどもが……畜生!逃げ場はないってのか!」


「オラオララ~ついに見つけたオラよ我が仇敵~!!!そのきれいな首をよこすータン~!!」


 そう知的な声を上げたのは最初に木村教諭を縊り殺したオランウータンである。オランウータンがしゃべるという現実離れした光景に、愛梨は明太子クリームバーガーを落としてしまった。


「うおおこいつ喋れるのか!?しかも仇敵!?あたしが!?」

「しゃべ……「ら」れるだ……ら抜き言葉を使うな……」

「いや首だけでしょうもない注意のためにしゃべるなよキムセン!」


 木村教諭はちょっと口うるさい国語教師であった。なお、付け加えると「喋れる」はら抜き言葉ではない。


「愛梨ー、これに乗るんじゃー!」


 声が響いた刹那、窓の外に豪快なプロペラ音を鳴り響かせながらヘリコプターが舞い降りる。操縦席に座っているのは愛梨の近所で生物学の研究をしている教授、ワトソン5世である。


「ワトソンのじじい!!どういうことだ!?しかしあたしだけ逃げるわけには……」


「こいつらの狙いはおぬしじゃ愛梨!おぬしさえ逃げればこやつらは他のものは襲わん!」


「えっいやキムセンと学級長襲われてんだけど……」


「いくんだ沙録くんーーーー!!!そうしたらボクたちだけでも君を犠牲に助かるかもしれないーーー!!!」


 四肢をもがれた守谷が本音を絶叫する。


「本音が汚いしどう見てもお前は助からねえよ!!ちきしょうー迷ってる暇はねえなこりゃ!んじゃいくぞワトソンのじじい!」


 愛梨が乗り込むとヘリコプターは上昇し高空に逃れる。


「くそーなんなんだこりゃ……おいじじい!説明はちゃんとしてくれるんだろうな!」

「ああ、ここなら落ち着いて説明できるのう」

「いや落ち着くのは無理だろ……」

「ともあれ話すとしよう。最近世界を揺るがしておる殺戮オランウータンのことは知っておるのう?あれほど大ニュースなんじゃからまさか知らぬ訳あるまい。もう、世間の常識社会の当たり前じゃからなあ!」


「配信生活にうつつを抜かしていたのはあたしが悪かったからやめてくれ。世界中に人を殺すオランウータンが大量発生したんだろう?」


「そうじゃ……やつらは突然人類への反乱を宣言し、森に、海に、街に、軍事施設までも現れ、大殺戮をはじめおった。一年前のことだ」


 流石に一年間全くニュースを見なかった自分はおかしいのでは?と愛梨は内心反省した。


「しかし妙だな……オランウータンって言えば、そもそもインドネシアとマレーシアにしか今は住んでないんだろ?どんなに数をかき集めたって人間様にかなうわけがねえ。いや、そもそもどうして突然オランウータンが殺戮なんてことを……」


「やれやれ疑問疑問ばかりでお主はご先祖様に恥ずかしくないと思わんのか!しかし答えてやろう。問その一オランウータンがなぜこんなに多いのか!奴らは人に変装して人間社会に潜んでおったのだ」


「化け……え?なんて?」


「ちょっと前の大統領とかも実はオランウータンじゃったんじゃぞ。タイミングを狙って一斉に蜂起すれば社会を混乱させるなどわけないわい。明快な論理的結論じゃ!」


「論理だけ整えるのは詭弁にありがちな特徴だってじじい知ってたか?」


「じゃが事実じゃ。問その2!オランウータンに突如芽生えた殺戮性について!100匹の猿現象、というのを知っておるか?」


「知ってるけど……上の方の地の文で解説してるから、解説は手短にできねえか?」

「スキップじゃ!」


 100匹目の猿の説明はスキップされた。


「馬鹿な!あれは創作都市伝説だったはずだろじじい!それが今回の件となんの関係があるってんだ!」


ワトソン5世は首を振った。


「都市伝説じゃなかったのじゃよ。あとから創作都市伝説ということに……「された」のじゃ!」


「都市伝説にされた……?なんのためにだよ」


「元々この現象は人類の進化というミステリーを解き明かすヒントにもなると研究が進められておった。その研究チームにわしもいた……わしらは芋洗いのニホンザル以外にも同じようなことが起きてはいまいか様々な生物を調査しておった。そこで発見したのが……」


「殺戮行動に目覚めたオランウータンか!」


「そうじゃ!わしらの発見したオランウータンは人間を引き裂くことに喜びを見出し、それどころか人を殺せば殺すほど飛躍的に知能が上がっていったのじゃ!」


「知能が……上がっただと!?」


「愛梨よ、そもそも人間はなぜ今のように賢くなったのだと思う?」


「えっ……何だ突然に。そうだなあ、先公は言語の獲得とか火の発明とか、道具を持ってからとかいろいろ説をあげてたような……」


「そう……人間の脳の肥大化はまさに人を人たらしめる道具や技術、文化によって加速されたもの……ならば、オランウータンが「殺戮文化」によってその知能を進化させたとして……なんの不思議がある?」


「……!(すげえ不思議な気はするがリアクションする雰囲気だからここは黙っとくか!)」


「まるでやつらは人類を進化の頂点から追い落とすかのように、人を殺し、そしてその殺戮行為によって能力を上げておる!まるで星に次の霊長の長に選ばれたかのようになぁーーーーっ!!」


「め、めちゃくちゃ厄介な特性じゃねえか……何か、何か手はないのか!」


「殺せば殺すほど強くなる……この現象の根幹にあるのは100匹目の猿現象を成り立たせていると言われる、シンクロニシティーっ!やつらは共振により殺戮の経験値を共有し種として進化しようと目論んでおる!我々はこの殺戮オランウータンの集団を……オランウー団と名付けた!!!」


「後世の歴史にその名前でずっと残っていくっていう自覚と責任背負ってその名前つけたのか?」


「そしてやつらに対抗する手段……これもある!このオランウー団の中核には……シンクロニシティの起点となる始原にして頂点となる殺戮オランウータンがいることをわしらは突き止めた!」


「ボスがいるってことか……まさか!あたしを仇敵だといったあの!?」


「オラオラオラ……そのとおり……オララララーーーーー!!」


 瞬間!ヘリを強い衝撃が襲う!愛梨はヘリの外に、高空であるにも関わらず平然と窓に張り付くオランウータンを見た!


「うわあああ!なんだこれは!てめえどうやってここに……うわっ!」


 ボス殺戮オランウータンの下には、無数のオランウータンが積み重なって塔を作っていた!ワトソン5世博士が叫ぶ!


「これは……オランウータワー!!!」

「うるせえよ!」


そのオランウータワーをブランコのように降ることでオランウータワーから殺戮オランウータンを射出!!殺戮オランウー弾としたのである!!!


「お前もやかましいわ!って言ってる場合じゃなうおおおおおおおおおおお!!!」


あえなくヘリは学校の裏山の森へと墜落した。大爆発が響くも、奇跡的に生還し立ち上がるワトソン5世と愛梨……それを殺戮オランウータンの群れが取り囲んだ!


「オラッタ~ン。ようやく見つけたオラよオラの仇敵ぃ。積年の恨みを今こそ晴らす時が来ータン」


「またそれか……仇敵ってのはなんのことだ!あたしはお前みたいな醜いモップは知らねえ!」


「やはりか……始まりのオランウータン……「モルグ街のオランウータン」よ!」


「なに、モルグ街!……ってことは、こいつがあの!」


「オラオラオララ。そのとおりオラ。オラこそオランウータンたちに知恵と殺戮を与えし始祖、最初に人を殺したあのオランウータン。そして……貴様のご先祖、シャーロック・ホームズの推理によって街を追われた恨みを今日まで抱いて生きていたオランウータンだオラァアアアアア!!」


「……!!」


「聞いたな愛梨よ。やつの言うとおりじゃ。やつはお主のご先祖様である初代シャーロック・ホームズによりその殺戮を阻止され、今日まで隠れて生きてきた。本来、やつは始まりのオランウータンであるがゆえに、やつが倒されれば殺戮オランウータンの進化は巻き戻る危険性を負う……そのリスクを負ってやつはここに来たのじゃ!お主と決着をつけるために!」


「………………………………」


「オラオラオラ……我を脅かすシャーロックの血筋……それさえ殺戮してしまえばその知能はオラのものータン……貴様を倒してここでオランウー団の世界征服を……!」


 愛梨は大きく深呼吸し、叫んだ。


「モルグ街の殺人事件を解決したのはシャーロック・ホームズじゃねーーーーーーよ!!!!!!!!」



「え」


「え」


「……え?」


「えじゃねえよ!お前は当事者だしじじいもご先祖様の記録は読んだだろ!オランウータンが犯人の事件なんてホームズは解決してねえだろ!


「い、いや、オラ、そのときはまだそこまで賢くなかったんで探偵の名前はその時は……あれ?」


「うちのご先祖様はイギリス人だしモルグ街はフランスだ間抜け!記憶あやふやすぎるだろ!何が知性だ!」


「おかしいのう、まだらに染まった殺戮オランウータンが事件の凶器だった手記を確かに……」


「惜しい!いや惜しくない!哺乳類かそうじゃないかでぜんぜん違う!」


「ひ、人違いだっタンーーーーーー!?いや!ここまで来たら後には引けないオラ!オラオラ殺戮チョップーーーー!!!」


 殺戮オランウータンの猛攻を愛梨は武術で華麗にさばき反撃する!!


「うおおバリツ!バリツ!蛇拳に犬拳ーーーー!!」


「ぐぎゃああああああああああーーーーーーーーーー!」


「そ……そうか!オランウータンの長い手に絡みつくような蛇拳は相性抜群じゃったんじゃー!!!」


「よっしゃー勝った!なんか知らんが他のオランウータンも大人しくなったぜー!!」


 かくして、人類は救われた。本日、ここに記された記録はあるいは極めて信じがたいと映るかもしれない。しかし、全ての不可能を除外して最後に残った事実……今もなお人類が反映していることこそが、どれほど奇妙であっても、この記録を真実足らしめているのである。

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