第2話 よくある話

 家に帰ると母さんが駆け寄ってきた

「あんたどうしたの⁈服泥だらけじゃない!」

「なんでもないよ、転んだだけ」

心配をかけたくなかったので嘘をつく、いつもの事だ。

「それならいいけど…、怪我には気をつけなさいよ」

「分かってるって」

 母さんの口癖だ。僕が小さい頃に大怪我をしてかららしいが、正直覚えてない。

「今日はお父さんも帰ってきてるわよ、ご飯にするから早く着替えていらっしゃい」

「なんかあったの?」

「お仕事が一区切りついたから帰ったらしいわ、まったく…帰る前に連絡くらいくれればいいのに」

「ははは…」

「それと慎二がまたテストで学年一位取ったって、凄いわねえ」

「そっか…」

 こういう時素直に喜べない自分が嫌いだ。

「お腹空いてないから後で食べるよ」

「そう?冷めないうちに食べなさいよー」

 部屋に戻ってベッドに倒れ込む。

 父さんは大手製薬会社の社長であまり家にいない。家に帰っても部屋に籠って仕事ばかりしている。今も大きな仕事をしているらしい。

 今日みたいに顔を見れる日はなかなかないけど、出来ればあまり顔を合わせたくない。

 親子仲はかなり悪いを通り越して無関心。

 食事中、弟の慎二と学校のことを話すことはあるが、僕との会話はほとんどない。

 家族団欒のはずの時間は、自分には一切期待されていないことを再確認する時間になっていた。

 ダメな兄と出来た弟で扱いに差が出るなんて、よくある話だ。

 でも、学校にも家にも居場所のない僕はどうしたらいいんだろう。

 そんなことをぼうっと考えながら僕はまぶたを閉じた。

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理不尽な地獄を生き抜く為に @bazuri-tai

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