理不尽な地獄を生き抜く為に

@bazuri-tai

第1話 日常

「どうしてこうなった…」

 自分の置かれた地獄のような状況を噛み締めながら、俺はぽつりと呟いた。



「え?今なんか言った?」

 地面に倒れた誠に向かって竜也が声をかけた。

「何も言ってないよ…」

 よろよろと立ち上がる誠に亮一の無慈悲な一言が浴びせられる。

「さっさと立てよ!練習の時間無くなるだろw」

 立った途端に右腕に鈍い衝撃が走り、サッカーボールが転がった。

 ここは校舎の裏。別の建物に面しており、生徒もあまり来ないこの場所で、誠はいじめを受けていた。

 きっかけは些細な事だった。竜也がイラついていた時に肩がぶつかってしまっただけのはずが、あの時から地獄の日々が始まってしまった。

 今日のようにボールをぶつけられる直接的なものから、走り込みだと言われパシリをさせられたり、フットワークの練習と言われボクシングの真似をして殴られたりした。

 本日二回目となる顔面へのシュートをもらい、地面に倒れた所で、午後の始まりを告げる予鈴が聞こえてきた。

「あー!今日もスッキリしたwこれで今日の部活も絶好調だわw」

「サンドバッグくんに感謝だわーw」

「キーパーの練習だからゴールくんじゃね?w」

「うっせw上手くねーしw」

 3人が談笑しながら去っていく後ろ姿を眺めていると、戻ってきた和人がおもむろに手を出した。

「忘れてたわwはい、今日の分w」

 緩慢な動きで財布を出すと、引ったくるようにして受け取った和人が中身を抜いて、

「明日も忘れんなよーw」

と言うが早いか、財布を放り投げ2人の元に駆けていった。

「お前ひでえなwあるだけ全部抜くとかw」

「いいんだよw練習付き合ってやってるし、正当な報酬でーすw」

「あいつ金持ちだし別に困んねーだろw部活帰り飯行こうぜ!w」

「いやー、今日も人の不幸で飯が美味い!」

「不幸じゃなくて金だけどなw」

「だから上手くねーってw」

 誠は、三人の姿が見えなくなってから、傷む体を引きずるように動かし、財布を拾うと教室へ戻るのだった。

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