美しい顔


 ある田舎町に、美人で名高い姉妹が暮らしていました。

 姉はバラの花のごとく華やかでしたが、我が儘な性格でした。一方妹はひっそりと物静かな娘で、谷間の白百合のようでした。

 二人のうちどちらかが町のミス代表として、都会に行くことになり、その決定は半年先の住民投票に委ねられることになりました。

 それからというもの。姉は一日中、鏡とにらめっこで、美顔と瘦身の研究に余念がなく妹に敵対心をあらわにしました。が、妹は以前とさほど変わらない生活をおくっていました。

 そんな二人のもとに、ある日、差出人不明の手紙が届いたのです。


「妹は姉より美しい、町の代表は妹だ」


という文面に、姉は激怒し、八つ当たりされた妹は困り果てた様子でした。

 同様の内容の手紙がそれからも毎日郵送されました。


「妹は姉の百倍も美しい。姉はすみやかに辞退せよ」


と徐々にエスカレートしていき、姉はヒステリーを起こし、妹をいじめるようになりました。美に対する執着はますます激しくなり、食は細く、寝る間も惜しんで化粧品や衣装選びに時間を費やしました。

 半年間そのような日々が過ぎ、ついに投票日がやってきました。

 広場に集まった住民達の前に、装いをこらした姉妹の姿が現れました。すると、どうでしょう。どよめきにも似た歓声があがり、人々の視線を集めたのは妹の方でした。

 清楚でありながら、若々しく生き生きとした彼女の白いドレス姿に、皆ため息をついて見とれました。その隣にいる赤いドレスを着た姉は、顔色も悪く身体もやつれ、急に老けてしまったかのようでした。

 そういう具合いで、代表はあっさりと妹に決まってしまい、姉は地団駄を踏んでくやしがりました。その顔は怒りと嫉妬で、みけんにシワが寄り、かつての美貌が失われていました。


「こんなにうまくいくなんてね・・手紙に動揺して変になるとは思ってたけど予想以上の効果だったわ・・姉さんどうか悪く思わないでね」


 妹は唇を結んだまま、小さな笑顔を浮かべました。純真な仮面の奥に、悪魔の邪悪さを秘めた、恐ろしいほど美しい顔だった。

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ショートの世界にWelcome オダ 暁 @odaakatuki

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