オマケが好きな男
男は機嫌が良かった。小うるさい妻は買物に出掛けたし、赤ん坊は羽根布団にくるまり、おとなしく眠っていた。しんと静かな部屋で、これまで集めた様々なコレクションを目の前にすると、いつもとたんに幸せな気分になるのだ。
それらは殆どが、オマケの景品だった。
子供時代に定期購読していた雑誌の付録はすばらしかった。組み立て式の地球儀や金閣寺のミニチュア、薄っぺらな紙で作られた可愛らしい絵柄のトランプやカルタ、なかには犯人を捜す為の探偵道具一式などもあり、製作者の涙ぐましい創意工夫がひしひしと感じられる物が多かった。
シリーズ物の怪獣シールが付いていた菓子は、その全部を揃えるまでに、どれだけ店に通ったかわからない。男は今でも、色褪せたボロボロのシールを見ると、思わず胸に熱いものがこみあげてくるのだった。
グリコのキャラメルは、男の子用と女の子用にオマケが分かれていたが、別段こだわらずに収集した。男の子用にはロボットやミニカーの類、女の子用にはままごとグッズや綺麗なアクセサリーが入っていた。どれもこれも夢あふれるものばかりで、懐かしい昔の思い出がそのひとつひとつに、ぎっしり詰まっているのだ・・・
時は流れ、男も大人になり結婚をした。本当は、もっと長く独身生活を楽しむ予定だったが、一年前に恋人から妊娠を告げられ急に結婚する気になったのだ。
男はコレクションの傍らですやすや眠っている赤ん坊に、甘い声でささやいた。
「今までいろいろ集めてきたけど、何といってもオマケの一番はおまえだよ」
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