たまには馬鹿になれ!!

ポンポン帝国

たまには馬鹿になれ!!

「お前よ、真面目なのはわかるけど、たまには馬鹿にならなきゃ手に入れたいもんは手に入らないんだぜ?」


 俺の悪友からの一言に、俺の脳天にセ○サターンが突き刺さった。いや、実際には突き刺さってないけどね? まぁそれくらいの衝撃だったんだ。今までの俺は真面目にコツコツ、門番から、馬の糞掃除まで、雑用だろうが、汚れ仕事だろうが、それがたとえ評価されようがされまいが、一切関係なく、それはもう一生懸命働いてきた。


 そしてある日、城で働いている内に出会ってしまった。そう、聖女様だ! 『ニホン』ってとこから来たらしいんだけど、それがもう可愛かった。全てを吸い込むような透きとおった瞳。そして弾けるようにぷっくりとした唇。修道服からも溢れそうなほどなおっぱい。修道服なのにおへそを見れるようにした製作者は誰だ! ほんとにありがとう!! そして誰にでも優しい、慈愛に満ち溢れた笑顔。そんな完璧な聖女様に、俺はすっかり一目惚れしてしまった。だが、俺は所詮、一兵卒に過ぎない。仕事一筋でやってきた為、女性関係は今まで一度もなし。デートすらしたことがないのだ。


 そんな淡い? 恋心を心の内に潜め、モジモジしていた俺に、悪友が先程の一言をガツンと言ってくれたのだ。


「おい、あれで潜めてたのか? 聖女様以外、みんな、お前の気持ち知ってると思うぞ?」


「うそだろ、おい」


 何だよ、俺のマイ・ハートはいつの間にかみんなにバレてしまってたのか。


「真面目なままの方がよかったか……?」


「ははは、冗談はよせよ。マイ・ブラザー。お前のおかげで俺は目覚めたんだ」


「処刑だけはされんなよ?」


 俺はもう我慢するのをやめたんだ。たった一度の人生なんだから、たまには馬鹿になってもいいよな!!


 そんな俺だが、聖女様にただ、胸の内を爆発させるつもりはない。実は、聖女様には婚約者がいる。それも我が国の王子。この婚約がお互いに幸せなものであれば、俺もこの恋心を諦められたかもしれない。だが、我が国の王子、一兵卒が言っていいかわからないが、自他ともに認めるクソだ。馬糞以下である。泣かせた女は数しれず。時折、城下に行っては女を持ち帰ってくる真正のクソだ。王子の隠し子だけで村が一つ出来るんじゃないか? って位の絶倫王子なのだ。そんな馬糞王子があんなに可憐な聖女様に手を出さないはずがなかった。王様に頼んで、教会との協議した上で、やっと婚約にたどり着けたって訳だ。


 そして、それが決まってからの聖女様の表情がよろしくない。あんなに太陽のように明るかった笑顔は鳴りを潜め、馬糞王子に呼ばれる度に、辛そうにしながら馬糞王子の部屋に入っているみたいだった。幸いにも結婚するまでは一線を超えることを許されていない為、最悪の事態にはなっていないようだったが、このままでは時間の問題なのは間違いない。


 そこで俺は行動に移る。まずは城下で聞き取り調査だ。馬糞王子が城下で何をしていたのか正確に知る必要がある。これは一世一代の賭けだ。万全を期す必要があるのだ。


「奥さん、大根一本くれ」


「はいよ!」


「あと、馬糞王子の弱味を教えてくれ」


「ふざけてんなら帰りな!」


 なぜだ。買い物をしたのに誰も情報をくれない。さっきから買い物した物だけが増える一方じゃないか。こんな時は、悪友に相談だっ!














「よく捕まらなかったな」


「はは、褒めるなよ」


「褒めてねぇよ」


 そんな他愛のない会話をしながら、今回の計画を相談する。


「おい、本当にそんな事するつもりなのかよ」


「あぁ、これしか聖女様を救う方法はない」


「覚悟は決めてるんだな」


「あぁ」


 そうさ、覚悟なんて真面目を捨てた地点で、とっくに決めているんだ。聖女様を救う為、そしてあわよくば、俺の気持ちを伝えるにはこれしかない。


「わかったよ。俺も協力出来る限りはしてやる」


「恩に着るぜ、悪友」


 さぁ、行動開始だ!!

















 そして遂にやってきたしまった、聖女様と馬糞王子の結婚式。ここまでは計画通りに事を運べたと思う。馬糞王子を落としつつ、聖女様に気持ちを伝える。最高難易度ともいえるミッションだが、今の俺には怖いもんなんてものはないんだ。なんたって、愛があるのだから。


 そんな今の俺は、一番の特等席を確保している。みんなはどこだと思う?


 そう、神父様を拉致って入れ替わったんだ。準備は全て悪友がやってくれ、思ったより簡単に入れ替われてしまった。神父様には悪いことをしたと思っている。あとで給料の三ヶ月分、お布施しておこう。幸いにも聖女様は上の空なので入れ替わりに気付いていない。馬糞王子にいたってはこっちを見ていない。


 そして始まった結婚式。順調に式は進行し、二人は俺の前へ。適当に祝福(馬糞王子への呪い)を言って、そのまま指輪交換の時間になった。


 遂にこの時がきた。まずは聖女様が馬糞王子の薬指に指輪をはめる。しっかりはめたのを確認し、今度は馬糞王子が聖女様の薬指に指輪をはめた。


 そして誓いの言葉。


「汝は、この女を妻とし、良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も、共に歩み、他の者に依らず、死が二人を分かつまで、愛を誓い、妻を想い、妻のみに添うことを、神聖なる婚姻の契約のもとに、誓いますか?」


 最も言いたくなかった言葉。だけど、今だけはこれを言いたかった。


「さっさと誓うから、こんなだりぃ式をさっさと終わらせて、聖女とはやくヤらせろ。とりあえずは今からやるキスだな! 嫌がる姿がまたそそるぜ」


 馬糞王子の言葉に場が静まる。さぁ、馬糞王子。退場の時間だぜ?













 それではここで、なぜ、馬糞王子からこんな本音が漏れ出てしまったのか。それを説明したいと思う。それは先程、結婚指輪としてはめた指輪である、『真言の指輪』をはめたからだ。本当はそんな仰々しい指輪ではなく、王族に相応しい指輪をはめる予定だった。わりぃ馬糞王子、今回の計画の資金用に売っちまったんだ。結構そのお金で助かったわ。これも悪友の知恵である。ホントおっかない男だ。


 そしてこの『真言の指輪』は、今見ている通り、嘘を付けなくなるのだ。これだけの一品だ。そんじょそこらで売っている物ではない。そう、この指輪を手に入れるまでの道のりは長く、そして険しかった。


 まず、この『真言の指輪』を所持しているのが今代の魔王だった。その『真言の指輪』を入手する為には魔王のところへ行き、誠心誠意、頼むしかないと思った。その為には、手ぶらではいけない。その日の為に、最高のプレゼントを用意した。


 魔王が最も喜ぶであろうプレゼント。それはなんだと思う?


 そう、勇者の『聖剣』だ。我が国には、歴代の勇者が使った『聖剣』が安置されている。選ばれし者にしか抜けない『聖剣』。勿論、俺でも抜けなかった。そこで俺は考えた。台座ごと持って行けばいいじゃん、と。


 そこからの行動ははやかった。毎晩のように城に忍び込み、台座の底部分を少しずつ削る。普段、触る事すら許されない『聖剣』の違和感に、誰も気づかなかったみたいだ。『聖剣』を守る者として恥ずかしい事だと思う。しっかり管理しろと言いたい。


 そして、おおよそ三ヶ月。漸く台座ごと切り離す事に成功した『聖剣』を持って、そのまま魔王のいる大陸へ。紆余曲折あって無事、魔王城に潜入。そこで待ち受けていたのはなんと、のじゃロリ魔王だった。


「何者じゃ! 妾を誰だと思っておるのじゃ。魔王の御前であるのじゃ!!」


 無い胸をそらしながら偉ぶるのじゃロリ魔王。のじゃの使い方がちょっと可愛くて愛でたくなる。おっと、そんな事をしている場合ではない。早速だが、手土産の台座付き『聖剣』を渡し、交渉へ。


 引き攣った顔をしていたのじゃロリ魔王は、最初の内、断固として拒否していた。けど、一週間ほど寝かさせないで交渉した結果、涙目になりながら貸してくれた。ホント優しい魔王様。俺の真摯な態度に泣くほど感動するなんて、嬉しい事だね。


 お礼に「ちっぱいも可愛いよ」って言ったら極大魔法を撃ち込まれて殺されかけた。魔王城が半壊していたけど大丈夫だったのか。全く、照れ屋さんなんだから。とまぁ平和的にのじゃロリ魔王から『真言の指輪』を借り受ける事が出来たのだ。










 そして時は今に戻る。馬糞王子の言葉で場は騒然としてきた。ふ、まだこれじゃ足りないだろ。


「それでは汝に問う。汝は、この女を大切な妻として一生大事にするか?」


「はっ、んな訳ねぇじゃねぇか。満足するまでヤったらポイだよ。俺は一人の女なんかで満足しねぇんだよ。っておい!」


 はいはい、みなさん聞きましたか? この馬糞王子のクズっぷり。今日来てるのは国内だけではなく、諸外国のお偉いさんもたくさん来ている。その中には聖女様に助けてもらった国もあり、青筋を立てながらその話を聞いていた。


「おい、今の言葉は本当なのか!?」


 思わず胸ぐらを掴んで離さない他国の王子様。おいおい、おまえさん聖女様に惚れてるな。けど、渡さないぜ。


「当たり前だろ。しかもこいつ中々身持ちがかてぇんだ。そんな女を俺色に染めてぇんだよ。っておい、勝手に口が動きやがってっ! どうなってやがる!?」


 ははは! 最高に混沌カオスになってきたぞ!! ここでもう更に爆弾投下だ。


「では、汝に更に問う。この国の王に何をしている?」


 これが悪友が見つけてきた、最大級の爆弾だ!


「な、何って何もしてな、……あのクソ親父はうるせえからよ、毎晩飲む酒に少しずつ毒を入れてやったんだ。これで死んじまえば俺が王だ。もっと自由に出来るってもんよ!!」


「おい、どういう事だ! 儂の体調が最近、悪かった原因はお前だったのか!! おい、近衛兵よ、ひっ捕らえろ!!」


 ここから先はもうひっちゃかめっちゃか。結婚式どころではなくなってしまった。そして俺がその隙に危ないからといって聖女様を連れ出す事に成功。やっと二人きりになれた。


「聖女様、ここまでくれば安全でございます」


「あ、ありがとうございます。ってあれ、あなたは教会の神父様ではない?」


 流石、聖女様。きちんと見れば偽物かどうかすぐわかってしまったようだ。


「そのとおりでございます。実は今日のこの騒ぎ、全部俺がやりました」


 俺は聖女様に嘘を付きたくない。


「っ!! な、なぜこんな事を??」


 怪しいとは思っても、流石に俺がやったとまでは考えないよね。そして聖女様の驚くその姿も可愛い。だが、今はその可愛さに見惚れるだけではダメだ。俺の気持ちを伝える、唯一のチャンスが出来たのだから。


「俺は……、聖女様が好きです。もしあの馬糞王子と聖女様が好き同士であれば、邪魔しなかった。だけど実際は、そうではありませんよね? 俺は、あなたの笑顔を守りたかった。そして今のこの状況を救いたかった。聖女様、あなたは『ニホン』という場所に帰りたいのですよね? 俺は、その手助けがしたい」


「な、なぜその事を!?」


「俺の最高の悪友がこの情報を手に入れてくれました。俺はそれを聞いた時、初めて聖女様の気持ちがわかった気がしました。よく考えてみれば、女性が一人、いきなり訳もわからない場所に喚び出されるなんて、本当に辛かったですよね。気づくのが遅くなってしまい、すみませんでした。そしてそれに気づけたからこそ、あなたを救いたいって思ったんです」


 それを聞いた聖女様は、その場に崩れだして泣き出してしまった。おそらくずっと我慢していたんだろう。暫くすると気持ちが落ち着いたのか、真っ赤になった目でこちらを見てきた。


「取り乱してしまい、すみませんでした。そんな事言ってくれる方はあなたが初めてでしたので……。そうです、私は今でも日本に帰りたいです。家族に会いたい。無事でいるか確かめたい。そんな気持ちをずっと隠してきました」


 そこからはずっと溜めていたであろう気持ちを全部俺に吐き出してくれた。『ニホン』というところが故郷で、そこでは家族がきっと探している事。そこで学生をしていた事。聖女様の口から出た言葉じゃなければとても信じられない話ばかりだったが、聖女様が言った言葉だから全部信じた。


「それで、私達はこれからどうするのですか……?」


「はい、これからですが、魔王のところへ行こうかと思います」


「ま、魔王のところですか??」


「そうです。実は俺と魔王って友達なんですよ! 魔法に詳しいそうなので、そこで帰る方法を一緒に研究出来ればと思っています。幸いにも、こちらに来た時の『転移陣』は、紙に写してきました。これがあれば魔王も研究を進める事が出来ると言っていたので、いつになるかはわかりませんが、きっと帰る事が出来ますよ!」


 これはあらかじめ、魔王に確認した事だ。「こんなちびっこじゃ出来ないだろ」って言ったら「妾に不可能はないのじゃ!」って言ってたからきっと出来るはずだ。


「そ、そうなのですね。それとあの……」


 聖女様が急にモジモジし始めた。どうしたんだ?


「えっと、ですね? 先程、好きと言われた事なのですが……」


「え? あ、そうですね! お、俺は聖女様が好きです!!」


「ひゃうっ!! け、けど、私が日本に帰ってしまったらもう会えないのですよ?」


 何だ、そんな事を心配してたのか。


「勿論、聖女様のお気持ち次第ですが……。もし、帰る事が出来る様になった時、俺と一緒にいたいって思ってくれるのでしたら、俺も一緒に行かせてください! なので、この告白の返事は、その時まで待つので急がなくても大丈夫でしゅ」


 あ、最後の大事なところで噛んでしまった。恥ずかしい……。


「ふふ、わかりました。それでは、帰る為にもそのお友達の魔王さんのところまで行きますか。……一緒に帰れたらいいですね」


 最後の台詞は声が小さくて聞こえなかったけど、とにかく聖女様がやっと笑ってくれた。俺はその笑顔が見たかったんだ。けど、まだこんなもんじゃ足りない。俺は、聖女様の最高の笑顔が見たいんだ。


「では行きましょう」


「はい!」


 俺達は魔王のところへ行く。そしていつか、聖女様を『ニホン』へ帰すんだ。確かに、確実に帰れるようになるとは限らないけど、今回の事で、これだけは言える。「たまには馬鹿になれ!!」ってさ!! 俺はこのまま馬鹿になったつもりで頑張るよ。そして聖女様と『ニホン』に帰って、一緒に幸せになるんだ!!

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