いざ登城、王城ブラスディア

「おっきい……!」


揺れる馬車の中、備え付けの窓から外の景色を見つめるマルクは思わず感嘆の声を洩らしていた。


マルク達を乗せて屋敷を出た馬車は、今まさに王城の門を潜ろうとしていた。リカルドの屋敷からでも荘厳な王城の外観は窺うことが出来たが、ここまで近くで目の当たりにすることは初めてであった。


見上げるような白亜の城は、まるで聳え立つ山のよう。その近づき難い威容は、まさに一国を支配する王が住まうものとして相応しいものであった。


「はっはっはっ、マルク君は王城に来るのは初めてだったね。ブラスディア王家十三代にも及ぶ歴史ある城だ。そりゃあ素晴らしいものだとも」


「ふん。マルクよ、このような見てくれだけのモノに感心するな。我にとってはそこらの岩山と変わらん。瞬く間に瓦礫の山に変えられるぞ」


「何で張り合ってるんですか……」


そんなことを言いながら馬車は巨大な門を潜り、庭園の前で停車する。先に立ったリカルドに続き、マルク達は馬車の外、城の敷地内に降り立った。


「さぁ、行くとしよう。予めマルク君達のことは話を通してあるが、ここは警備が厳しい。あまり私から離れないようにね」


「わ、わかりました」


歩き出したリカルドだったが、その足は城の中ではなく庭園の方向へと向かっていく。


「リカルドさん、お城は向こうですけど……」


「爺、遂に耄碌したか?」


「いやいや、そうではないよ。今日の御前試合は城の外で行われるんだ。こっちだ、付いてきてくれ」


「ああ、そうなんですね。行きましょう、レティシアさん」


城の中を見られないことは残念だが、リカルドの屋敷にある庭園を遥かに超える広さの庭園を見れるだけでも十分だ。リカルドの後に続き、マルクとレティシアも歩き出した。


庭園は季節の花々が咲き乱れ、恐らくこの辺りでは生息していない種類の花も植えられているようである。様々な土地の花が植えられていながら、決して調和を崩す事のない絶妙な景観である。


「わぁ……とても綺麗ですね、レティシアさん」


「花など見て何が楽しい?我は食える物以外に興味は湧かん」


「そんなこと言わないで下さいよ。せっかくこんなに綺麗なのに……あれ?」


ふとマルクが周囲を見渡すと、警戒している衛兵達の姿が目に入ってくる。そして、その衛兵達のいずれもが狼や小型のドラゴン、はたまた宙に浮いた剣や槍を引き連れている。間違いなく創魔だろう。


「もしかして、あの人達が連れているのって創魔ですか?」


「ああ、そうだとも。ここの衛兵達は皆、男爵や子爵の子息が大半だからね。皆、警護のために自身の創魔を使役しているんだよ」


「わぁ……いろんな創魔がいっぱいですね!」


創魔それぞれに創喚者の個々性が現れており、そこはまるで創作物の披露会のよう。マルクはまるで動物園にでもやってきたかのようにしきりに周囲を見回している。


「アレがモノの役に立つのか?どれもこれも、ただ見栄えだけのカカシと変わらんように思えるがな。これでは今回の相手の程度が知れる」


「はっはっはっ、キミから見れば誰でもそう見えるだろう。だが、王城の警備を任されている者達は先帝陛下以前より信の厚い家系ばかりだ。いざとなれば、自身の命すら顧みない勇敢な者達だよ」


確かに、その隙の無い立ち振る舞いは歴戦の猛者を彷彿とさせる。マルク達に先立って歩き出したリカルドの姿が目に入るや否や、踵を合わせ、背筋を真っ直ぐに敬礼をする。


「こ、これは、リカルド様ッ!」


「はっはっ、楽にしていい。今日は私的な用件で赴いたのでな」


「ほう、ただの物好きな好好爺と思ったが、なかなか慕われているようではないか」


「だ、ダメですよレティシアさんっ!」


「リカルド様に対し、無礼だぞ貴様ッ!」


マルクが止めるも既に遅く、一国の公爵相手に憮然と言い放つレティシアに衛兵の持つ槍、そして彼の創魔なのだろう灰色のワーウルフの爪牙が向けられる。


普通ならば危機的状況と言って過言ではないのだが、当の本人は涼しい顔。むしろ挑発的な眼差しすら送っていたのだが、それを制するようにリカルドが割って入った。


「彼女達のことは気にしないで欲しい。彼らは私の友人であり、息子達でもあるのだからね」


「り、リカルド様がそう仰るのであれば……では、失礼致します」


何処か釈然としない様子のまま、衛兵は創魔を連れて去っていく。リカルドの仲裁が無ければ、間違いなく大騒動になっていたことだろう。


「ふぅ……もう、ダメですよレティシアさん。変な事言わないようにしてください」


「変な事とは心外だな。全て事実ではないか」


「大丈夫だよ、マルク君。レティシア君の性格は十分に熟知しているつもりだ。キミも本気で言ってはいないのだろう?」


「……ふん」


リカルドの言葉に、レティシアは視線を逸らす。それが間違いであれば、彼女なら必ず否定する。そうしないということは、リカルドの言葉が事実であることに他ならない。


「レティシアさんって素直じゃないんですから……」


「貴様が言うな、マルク。貴様の強情さも大概だぞ。そのような寝言を宣う口はこれか?」


「いひゃっ!?やっ、いひゃいれすよ!」


気分を損ねてしまったか、レティシアから頬を摘まれるマルク。まるで緊張感の無い様子に思わずリカルドも苦笑いを浮かべていたが、そこへ真っ直ぐに近付いてくる人物の姿があった。

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イマジナリー・サモナー 〜描いたものが召喚出来る、神絵師少年の冒険譚〜 Phantom @_Fhantom_

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