幽霊坂のナニガシさん!

Haige

第1話 ケイイチ

蒸し暑さが残る九月 都内某所


女子高生A「ねえ知ってる?幽霊坂を一人で歩くと青白い顔の女の人に出会うんだって」

女子高生B「怖っ」

女子高生C「名前はなんていうの?花子さん?」

女子高生A「何とかさんだったかな?」

女子高生BC「なにそれ~(笑)」


***


壁時計が昼の11時45分を指し、佐藤ケイイチはパソコンの前でランチの選択に悩んでいた。


ケイイチは山手線某駅近くの物流会社で働いている。駅周辺にはたくさんの飲食店があるが、最近はどこも行きつくしてしまい、新しいランチのスポットを探していた。そこで、駅で手に入れたイタリアンレストランのチラシを思い出し、ネットで詳細を調べてみることにした。少し距離はあるが評判も良さそうだし、今日はそこでランチを楽しむことに決めた。


正午を指す1分前、ケイイチは急いで席を立ちレストランへ向かった。スマートフォンの地図アプリによると、会社からイタリアンレストランまで徒歩13分と表示された。このままでは時間が足りない。おすすめルート以外の道を探すことにした。


「このルートなら近道できるな。通ったことはないが大丈夫だろう」とケイイチは自信を持った。


道路を渡ると公園に長い階段が現れた。まだまだ夏のような暑さが残っており、階段を上る間にケイイチの額に汗がにじんだ。薄手のジャケットを脱いで、さらに急ぎ足で階段を登り切った。周囲を見渡したケイイチは一息つき、再び歩き始める。


レストランへの近道になる細い坂道を見つけたケイイチは足早になっていた。

「この坂道を降りて、左に曲がればお店に着くはずだ」


昼間でも人通りはほとんどなく、坂道には静寂が漂っていた。ケイイチは不思議な空気を感じながら歩き続けた。周囲を見渡すと、古いアパートやマンション、お寺が立ち並び、道を横切ったのはサラリーマンと道路工事の作業員だけで人影はなかった。


坂を下り終え目的のレストランに到着したケイイチは安堵した。

「近道して正解だったな。おすすめルートにこだわらなくてよかった」


店内は満席で賑わっていたが、運良くカウンター席に座ることができたのはラッキーだ。メニューを見たケイイチはすぐさま本日のパスタ「イベリコ豚とマッシュルームのパスタ」を注文した。いつも迷わず直感に従って注文することが多い。じっくりメニューを考えてしまうと、逆に選べなくなってしまうからだ。彼は優柔不断の裏返しとも言えるこの習慣を大切にしている。


しばらく待つと出来立てのパスタが運ばれてきた。ケイイチは慣れた手つきでフォークでパスタをくるくると巻き、熱々のイベリコ豚とマッシュルームの香りが口の中に広がった。


「美味い!階段を上がるのは大変だったけど来てよかった」


パスタを食べ終わったケイイチが時計を見ると12時35分を過ぎていた。


「のんびりし過ぎた。急いで戻らないと」


急いで会計を済ませ同じ道で戻ることにした。来るときは気づかなかったが、ふと坂の入口に立てられた立札に目を留めた。


「ゆうれいざか…?」


木の立札には「幽霊坂」と書かれていた。ケイイチは下りの際には気づかなかったが、坂道の雰囲気が違うことに気づいた。焦りと胸騒ぎが混ざり合っていたが、急がなければならないという思いと共に、直感を信じてこの坂道を登ることにした。


「幽霊なんて存在しないさ。午後の仕事が始まるから急がないと」


ケイイチは息を整え、足早に坂道を上り始めた。道の両側にはお寺の壁がそびえ立ち、静寂で厳かな雰囲気が漂っていた。しかし、こちらとあちらを隔てるように、何かが存在しているような気がした。


ケイイチは一歩一歩と坂道を登り、舗装されたリング上のくぼみを数えながら歩いた。「いち、に、さん、し...」。しかし、坂道の中腹に差し掛かると、彼の目に異変が映った。


「さっき来るときこんな小屋があったっけ?」


お寺の入口には子供が入れそうな小さな小屋があり、側には赤い旗が数本立っていた。ぼんやりと赤い灯りが小屋から漏れている。ケイイチは引き寄せられるように光る赤い灯りをのぞき込んだ。すると、小屋の中には真っ白に顔を塗られたお地蔵様がいた。一瞬、彼の胸は激しく鼓動したが、「なんだ、お地蔵様か」と大きく息を吐いた。


再び坂道を登り始めると、周囲は冷たい空気に包まれ、坂道が彼を引き寄せるように感じた。


そして、ケイイチの耳に冷たい風がささやかれた。

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