第20話 婚約➂
そうして二人は少しの間くっついていたけれど、この後シルヴィアの父であるデイヴィットに会う約束がある為、二人は離れた。
「シルヴィ、僕は今から閣下と話をしに行くのだけれど、一緒に来てくれる?」
「わかりましたわ。ご一緒致します」
ルークとシルヴィアはデイヴィットの執務室へ向かう。
デイヴィットの執務室はローランズ公爵邸の三階にあり、シルヴィアの部屋からは少し離れている。
執務室のドアをノックして、入室の許可が下りたので二人は入室する。
「閣下、シルヴィア嬢には婚約を同意して頂けました」
「シルヴィ。私は昨日の時点でルーク殿から婚約について話を聞いていて、シルヴィの親として婚約を了承している。だから、もしシルヴィが私の意向を気にしているのなら、私の意向としては二人の婚約は了承ということだ」
「わかりましたわ、お父様」
シルヴィアは自分の父が婚約を同意済みで安堵する。
「それで早速だが、婚約の書類にサインをする。ルーク殿に連れてきてもらった王宮の役人の方はこの部屋に待機してもらっていたから、すぐ始められる」
デイビッドの指示で使用人が役人に声をかける。
役人はルークと同じ年頃の青年だ。
役人の立ち合いの下、書類のサインすべき箇所にデイヴィットとルークがそれぞれ自分の名前をサインする。
それを役人が回収し、不備がないか確認した後、立会人のサインを入れる箇所に名前をサインして書類は完成する。
婚約の書類はそれぞれの家の当主がサインし、立会人――どちらの家とも三親等以内の親族ではない第三者であれば問題はないが、大体は王宮の役人が選ばれることが多い――のサインが入ったものが有効であるとみなされる。
完成した書類は、最終的に王城の貴族籍を扱う部署に提出して、受理してもらう必要がある。
こうして、婚約の書類は無事完成する。
デイヴィットは午後からの外出に備えて準備をする必要があり、一同は解散することになった。
執務室を出て、ルークとシルヴィアと役人の青年は応接室に場所を移し、話をする。
「クリス、今日は僕の為に来てくれてありがとう。助かったよ」
「あなたとは旧知の仲ですし、多少の無茶はしてでも来ますよ。それにあなたが婚約しようとしているのが誰なのか個人的に興味がありましたので」
「シルヴィ、紹介するね。彼はクリス・オーウェン。オーウェン侯爵家の三男で僕と同い年の幼馴染兼親友だよ。因みにクリスは既婚者で、奥さんはクリスの元部下のマーガレット・ハリス伯爵令嬢」
クリスはダークチョコレートのような焦げ茶髪に若葉のような緑色の瞳の青年で、銀縁の眼鏡をかけている知的な雰囲気の男性である。
ルークほどは美男子ではないけれど、世間一般には十分に美男子の分類に含まれる。
「初めまして、オーウェン様。私はシルヴィア・ローランズと申します。この度ご縁があってルークと婚約することとなりました。オーウェン侯爵家というとあなたのお父様は財務大臣のクライヴ・オーウェン侯爵閣下ですの?」
「ご挨拶ありがとうございます、シルヴィア嬢。ルークから紹介預かりましたクリス・オーウェンと申します。貴女の仰る通り、父は財務大臣です。父の職場である王宮には幼少期から何かと出入りしておりましたので、自ずとルークと知り合い、友人関係になりました。ルークと7歳の時に出会ってそれ以来ずっと付き合いが続いています。今は昔ほどは会えていないけれど、それでも都合が合えば三、四ヶ月に一度くらいは会う仲です」
「7歳の時からだなんて本当に長い付き合いですのね。私にはそのような友人なんていないから少し羨ましいですわ」
(私に近づく人なんて取り巻きになって美味しい思いをしたいか、近づいたところで私を陥れようと画策するのが見え見えとかで、仲の良い友達になんてなれそうにない令嬢ばかり。お互いがお互いを利用し、利用し合うのが貴族社会だからそれが完全に悪いとは言わないけれど、一人くらいは気のおけない友人が欲しいですわ)
「今までのシルヴィの境遇を考えると仕方ない部分もあるけれど、これから先にいい友人との出会いがあるかもしれないから今後に期待しよう。クリスの奥さんのマーガレット夫人も誘って、今度4人で王都のレストランにでも行こうね。……という訳でクリス。君と夫人の都合が良い日を連絡してね」
「わかりました。予定が決まり次第、連絡しますね。では、私はそろそろお暇させて頂きます。またお二人に会う日を楽しみにしていますね。今日はあまり時間が取れなかったけれど、今度会う時はルークの昔話をするから乞うご期待を」
クリスはそう告げて、応接室から退室して、執事ジョナスの案内で玄関まで向かい、ローランズ公爵邸を後にした。
婚約破棄されてヤケ酒したらお忍び中の王弟殿下が釣れました 朝霞 花純 @Ouka-K
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