月の裏側 第七章・真実

ソフィアはリザベルの言う通り基地船の廊下を歩き教会堂まで向かっていた。


向かっている中、頭の中で色々なことを整理していた。


あの時、あの戦場で自分は目が赤かった。まるでリザベルと同じように。


そして今まで感じたこともないような恐ろしい力を持っていることを誰にも言われなくてもわかった。


大袈裟で馬鹿馬鹿しいが、神のような力を持っているというのだろうか。


でも自分にはまだ、どういうことなのかわからない。


黙々と歩いていると縦に長い扉の前に着いた。


『………ふぅ』


ソフィアはひと呼吸おいて扉の取っ手に手をかけた。


『ギィ…………』


扉を開けると鈍い音がしそして奥の方にリザベルが赤い十字架を眺めながら背を向けて立っていた。


『…少佐殿』


『来たか、ソフィア』


リザベルは背中を見せながら振り向かずに言葉を続ける。


『突然だが、どうしてゼンゲル人は戦争をしたと思う?』


『………………』


『私達の魂を奪い殺すためだ、私の姉、マリーもそうだった』


ソフィアは彼女の口からマリーという名前が出てくるとは思わなかった。


マリーと言えば夢の中で出てきた少女だ。あの女の子はリザベルの姉というのだろうか。


『ゼンゲル人は魂を扱うことが出来るだろ?それで彼女を十字架の磔にして魂を奪い火炙りにしたんだ』


リザベル話を続ける。


『リトアリア人はマリーの死体を見て何をしたと思う?奴らはな、彼女の死体を見たら咄嗟に証拠隠滅を図りマリーの墓も作らずそのまま私がこの世界へと連れてかれた』


『その…どういう…』


『まだ理解できないのか?まぁ、そうだろうな』


リザベルがそう言うと一瞬静寂が訪れた。


『……私達はこの国に崇められていたんだよ』


『……え』


そう言われた途端、無意識に疑問の声を出してしまった。


『前に教会を見に行っただろう?あれは私達だよ』


ソフィアは呆気に取られた。


『私達は血が繋がっていてマリー、私、そしてソフィアと代を継いでどんどん布教し信仰していく。そうやってリトアリア共和国は経済の安定と平和、そして欲しいものをみんな沢山手に入れた』


頭が真っ白で何を考えていいか分からない。リザベルと血が繋がっている?そんなの信じられない。


それにあの教会では確か、エリーゼも信仰していた。それに言っていた『なんでも願いが叶う』と。


最初に月の裏側で言っていた研究とはなんだったんだ。


リザベルに勢いよく疑問を投げた。


『じゃあ…!私がリトアリア共和国に研究されているって言うのは…』


『…ふっ』


リザベル嘲笑うように声を出した。


『そんなの、全部嘘だよ』


何も、これ以上考えたくなかった。


『私達にはこの世界の自然を動かすくらいの力を持っているんだ』


嫌だ。どうしてこんなことにならないといけないんだ。


『だがゼンゲル人は私達に力があることが気に食わなかった。要は私達みたいな生き物が多大な力を持つなと言いたいんだろう』


ソフィアの手は大きく震えていた。リトアリア人に崇められるためにここに来たなんて。


『そしてゼンゲル人の中で一番私達をこの世から抹消したいと思っているのはマリウス・アンシュッツという男だ』


『…マリウス大佐?』


ソフィアは震えた声でそう言った。


『そうだ。一緒に会議もしただろう?だから顔も知っているはずだ、奴がマリーを殺したようなものだよ』


ソフィアは混乱しながら彼女の背中をひたすら見ているとリザベルの手元には真っ赤なペンダントが輝いていた。


『それは…』


ソフィアは無意識にそう言ってしまっていた。


『これか?これは…マリーがくれたんだ。このペンダントで真実を私に教えてくれた』


そうリザベルが言うと彼女はゆっくり視線をこちらに向けてくる。


ソフィアが見た彼女の目はこの世のものとは思えないくらい真っ赤な目だった。


『マリーは、散々苦しんだ上にゼンゲル人に魂を破壊されリトアリア人にも使い捨てられた…私はそんな彼女を少しでも浮かばせてあげたいんだ』


『…………………』


『その手伝いを少尉はしてくれるか?』


ソフィアは何を答えればいいかわからなかった。


ただ言えるのはリザベルはこの国とあの一族を破壊しようとしていることだけ。


そのことを頭に巡らせればめぐらすほどどんどん自分が恐ろしくなってしょうがなかった。


沈黙が流れていると『コツコツ』とリザベルの足音が奥から近づいてくる。


自分は怖くて床を見ていたのでリザベルを直視出来なかった。


リザベルが自分の目の前まで来ると唐突に抱きしめてきた。


『……これ以上何かを失いたくはない。だからソフィア一緒についてきてくれないか』


リザベルに抱きしめられても何も言えなかった。自分は何を答えればいいのだろうか。


リザベルは体を離すと言葉を続けた。


『…少しだけ時間をやろう、それまでに答えを出してほしい』


リザベルはそう言うとソフィアを横切って行ってしまった。

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