<AFTER TALK>
「いやーかけりやさん、ナイスランです!お疲れ様でした!!」
「laughlaughさんありがとうございます、コマンド打ち間違えとかなくてよかったあ……今すごく脱力してます」
画面は、既にエンディングが流れ終わっている。一回もまともな戦闘をしていないので、キャラクターは初期装備のまま、エンディングムービーに出てきたキャラは今回殆ど会っていない。まともにプレイすれば40時間程度はかかるのだから、本来の方法で25分なんて短時間に収めるのは無理である。
「何をしてもいいのでとにかく素早くクリアする」……そんなルールだからこそ、僕は今回本体に負荷をかけるような相当無茶なプレイをしていた。結果は予定よりも早い自己ベスト。なかなかいい記録が出たんじゃないだろうか。
「まあ、コマンド打ち込んでる最中のかけりやさんには話しかけられず、僕も細かいことよくわからないので言及できなかったんですが、結局あれって何やってたんです?」
「あ、じゃあちょっとそこだけもう一回やりますね。laughlaughさん、まだ時間ありますよね?」
「大丈夫、だと思います!ってあー……始める前から気になってましたが、ご丁寧にバグらせる直前のデータが……」
そう、どうせ早く終わるだろうと思っていたので、専用のデータを作ってあった。大体20分程度進めてあるそのデータは、まだゲームを壊し始める直前のタイミングで止めてある。起動をすると、話の序盤、村のはずれの畑に出るようになっている。もう時間を気にしなくてもいいので、精神的にも負担はない。畑の柵の角を向いたままのキャラクターを操作しながら、僕は簡単に自分のやったことの解説を開始した。
「まず、この柵に向かってお父さんの遺品の盾を捨てます」
「捨てちゃうんですか?!」
「はい、このゲーム、捨てるとアイテムを目の前に置くんです。本来目の前に物があると置けないと表示されるはずが、斜めを向いていると警告せずに無理やり置けてしまいます。で、柵の角に……」
「あ、なんかめり込みましたね、謎の玉が。盾じゃ……ないですね完全に」
画面では、柵の上に謎の宝玉が鎮座していた。本来あり得ない操作をしているため、画像データの呼び出しがちょっとずれて、先のパワーアップアイテムの画像が表示されるのだ。今ようやくコメントを確認してみると、「それ中盤の敵の重要アイテムなんですけどねえ」「畑の柵に負けて恥ずかしくないのこの幹部」「モズ乙」……噴き出しそうなパワーワードが並ぶ。タイムアタックをしているときはこんな悠長に画面を見ていないので、後でアーカイブは確認しよう。
「で、これを取ると……実はワープアイテムなんですが、さっきのでマップの呼び出し……具体的にはアドレス値ですね。それが完全にずれちゃってるので、画面が、こう」
「うわーーーーさっきの一瞬だけ見えた酷い奴!なんですかこれちょっとサブいぼ出る!!一応このゲームかわいいキャラクターで推してるのに!」
laughlaughさんの悲鳴が響き、チャット欄も唇のスタンプがずらっと並んでいる。それもそのはず、何やら泉のような場所に飛ばされているのだが、床がマグマに浮かぶ唇という前衛芸術と化しているからだ。
「あはは、これ一応中盤のステージである夢の世界に出てるはずなんですが……床のテクスチャがちょっとマグマとザコ敵の口部分混ざっちゃってるんですよね」
「いやー……失敗したらゲーム本体ごと壊れますって始める前に話してましたが、そりゃもうダメでしょこれ…………」
「で、本当はこの場所色々オブジェクトが立っているんですが、表示データを正しく呼び出せてないので見えないんですね。見えないオブジェクトに当たったらゲームクラッシュするので、避けるように床を踏んでいきます。やってることはここからほぼ変わらないので単調なんですが、最後、絶対皆さんにゆっくり見てもらいたいんですよ」
カチカチと、記憶通りにキャラクターを進めて奥の王様の首に体当たりをする。次は少女、村人と剣が混ざった何か、主人公の家の時計……。とにかく特定のルートを通ってどんどんワープしていく。そのたびに床のテクスチャはガチャガチャと切り替わり、遂には何も呼び出せずノイズが残っていた。「夢に出そう」などとコメントをもらいつつ、最後に飛ばされた先は草原と神殿が混ざった空間。
……そこに、このプレイをしたかった理由のソイツがいた。
「えーとさっきはすぐに体当たりしてゲームのエンディング呼び出しちゃったんですが、これ見てくださいよ、凄くないですか?」
「あ!これゲーム雑誌で小さく載ってたやつじゃないですか、幻のプロトタイプ版の主人公!」
「データ弄ってるうちに、未使用データがゲームに埋まってるのは知ってたんですけどね。ちょうどエンディングを呼び出すアドレス値が奇跡的にこのキャラと一致するんですよ。もうこれ気づいた時脳汁ほんっとやばくて……エモくないですか?エンディングに高速で連れてってくれるのが幻のキャラなんですよ?」
画面の中央には、自分が今動かしている主人公に似た、剣士のようなキャラクター。このゲーム、紆余曲折を経て開発されたゲームなので実は最初の発表とキャラや雰囲気ががらりと違う。プロトタイプ中でも主人公は最初に作られたらしく、キャラデータだけは完成していたらしい。
何かの気まぐれで保存されたままだったデータを、今こうして大勢の前で披露している。それが製作者の意図に沿うかどうかはよくわからないが、あるなら日の目を見た方がいいし、何より知らないものに出会うのは楽しいのだ。
「かけりやさん、これ、キャラクターなら話しかけたりとかできるんですか?」
「あー……この方法だと別のキャラの会話データ呼び出しちゃうんでそれはできないんです。でも唯一この呼び出し方だと、こう、隣に並べるんですよ。他だと遠くにちょっと出現させる事しかできないんで」
自分の操作キャラクターを、ソイツの隣に並べる。要所要所のパーツが似ている、制作過程における兄弟のような存在。呼び出し方が重篤なバグの上に成り立っているので褒められた物じゃないが、チャット欄の感嘆とlaughlaughさんの急に語彙力のなくなった感想は、間違いなくプラスの感情の元引き起こされたものだ。
……ああ、やってよかったなあ。何よりやっぱり楽しいなあ。後半の言葉は口を突いて出ていたらしく、そりゃそうでしょうよ、とlaughlaughさんから力強い返答が返ってきた。
ふと、時計を見ると次のゲームへのバトンタッチ時間が近づいていた。
「……あ、また同じエンディング見るのも何なんで、この画面で終わりにしたいと思います」
「はーい、じゃあかけりやさんのチャレンジはここで終了ということで、次の人にバトンタッチをしたいと思います!配信ご覧の皆さんもありがとうございました!あと今回の方法、もちろん、メーカー『非推奨』ですからね!試す場合は自己責任でどうかお願いします!!」
最後に明るく閉めるlaughlaughさんのコメントの後ろで、隠しキャラクターの周りを回り続ける。自分のやるべきことが終わった疲れの中、僕はぼんやりと「今度は普通にプレイしよう」などと考えていた。
パディング・エンカウント 蒼天 隼輝 @S_Souten
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