その世界は本当にゲームだったのか?
最終的に彼女は別勢力の想定していた『行動』を取ることはなかった。それを行っても意味がないと考えたためである。
しかし、彼女がこのゲームとの出会いを二次創作と考えることはない。仮にシオンがゲームだけの存在で架空の人物だとしても……。
ユーザーたちがSNSの炎上行為を悪に対する鉄槌と勘違いして拡散していき、それによって様々な存在に対して悲劇が広まるようであれば。
その彼女であったが、ノートパソコンの前で悩んでいたのである。キーボードで文字を打ち込んでいた手も、若干止まっているように見えた。
(何かを訴えるためには、何かを犠牲にするべきなのか。それとも……)
彼女が悩んでいたのは画面に表示されているものにあった。それは、ゲーム画面ではない。
だからと言ってまとめサイトのページでもなければ、掲示板、SNSの入力画面でもなかった。
その正体は、何とテキストエデイターである。つまり、彼女は今まで『パルクール・ブレイブ』を題材とした二次創作を書いていたのだ。
しかし、WEB小説サイトでは二次創作の投稿が認められていない。だからこそ、彼女は悩んでいたといっても過言ではないだろう。
「SNS炎上がもたらすもの、それを教えるためにはどうすれば……」
他人の作品を介して伝えるのと、全くの作者オリジナルで訴えるのではレベルが違いすぎるだろう。
それでも、彼女はSNS炎上が起こす悲劇を伝えようと考えていた。このままでは、SNS炎上が本当の意味で武力よりも力を持ち、次第に……という危険性も否定できない。
(それなら……)
先ほどまで書いていたテキストを一時保存し、彼女は新規でテキストエデイターを立ち上げなおす。
そして、今まで見てきたSNS炎上や様々な事例をもとにして、ストーリーの土台となるものを書き始めたのである。
今やWEB小説は一次創作オンリーと言っていいほどに創作小説サイトが戦国時代といいほどに多くなり、それこそ二次創作の夢小説やカップリング目当ての小説といったものよりも規模を広げていた。
だからこそ、彼女は一次創作でSNS炎上が起こす悲劇を伝え、一人でも多くに炎上に加担するのをやめてほしいと願っていた。
彼女の起こしている行動は、間違いなくSNS上では『バズる』行為なのは間違いないだろう。
しかし、そうでもしなければSNS炎上を根絶することは不可能と考えたのかもしれない。何としても、SNS炎上が起こす悲劇が何なのかを伝えないと……。
小学校でもSNSのマナー等を教えるような時代になりつつあるような時代なのに、炎上行為を行うものは日々増えているといってもいい。
何故、炎上行為を行うのか? 彼らは炎上を犯罪行為と認識していないのか? 炎上行為が『バズる』為に必要な行為と考えているのか?
まずは、そうした考えが間違いであることを認識させないといけないのだ。全てはSNS炎上をこの世界からなくすために。
「小説のタイトル、どうするべきなのかなぁ……」
彼女はタイトルに悩む。いくら訴えることは決まっても、作品タイトルが無題では誰の目にも止まらない。
無題というタイトルの作品は存在するかもしれないが、あまりにも多いようなタイトルでは逆に読まれないのも目に見えている。
そこで、彼女はタイトルを考えようと、ネットの記事をチェックすると……。
『イースポーツが今年の世界競技大会に変わって開催か?』
やはりというか、炎上目的か『バズり』目的のフェイクニュースが目に入った。こうしたニュースでさえ、彼女にとってはネタの一つとして昇華出来るほどのレベルになっている。
そこで、彼女は作品タイトルを決定した。そのタイトルこそ……。
【バズりたくない女性ゲーマーの非日常】
このタイトルだった。主人公はゲーマーで小説家、オタクという訳ではないが……という設定まで決まっている。
そして、彼女は『バズり』たくない一方でSNS炎上を止めようと苦悩する……ある意味でも非日常という世界にいる女性だ。
体格は若干ぽっちゃりぎみで、それでも服装はしっかりしている。色々と自分を若干反映したような設定が出来ていく。
しかし、こうした人物に現実でいるはずがない……そう考えた彼女だが、思わぬ盲点に気づいてしまう。
(矛盾を抱えているタイトルだ)
主人公は『バズり』たくないのに、タイトルは明らかに『バズり』を狙ったようなものである。
明らかに寒いと判断される上、読者受けも悪いだろう。それでも決めたタイトルを下手に変えたくない理由はあった。
(しかし、タイトルを今のタイミングで変えたら……)
メディアミックスでタイトルを変えるような作品はあるが、この作品はコンテストで受賞したような作品ではない。
コンテストに出したとして……『バズる』ような作品と認知されるかどうかは、まだわからないのだから。
バズりたくない女性ゲーマーの非日常【改訂版】 アーカーシャチャンネル @akari-novel
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