母追い
Yumemi
母追い
僕には親がいる。
当たり前かもしれないが、世の中にはそう感じない人も少なからず存在する。
「行ってくるね〜。あっ、ご飯ラップしてあるからちゃんと食べるんだよ〜。あと鍵閉めといてね〜」
《バタン》
僕ら家族は
母1人子1人のいわゆる母子家庭だ。
物心つく前に母は離婚。親とも縁を切っており僕はおばあちゃんなるものを知らない。勿論、おじいも口うるさい
そんな家庭で育ち、まあ今思えば決して裕福ではなかった生活だったが、
ずっとそれで育ってきた身からすればなんら問題は無かった。
それよりか、母との思い返す度頬が緩むような楽しい思い出で満ち溢れていた。
小学生になって自覚する父という存在の当たり前な認識。
時に
中学生になると、初めて出来た友達を家に連れてきた時の母の慌てようと、嬉しそうに飲み物を出す顔は今でも鮮明に蘇る。
高校の入学式では、並んで写真に映る母の赤くなった瞳で造った笑顔は僕の1番お気に入りの写真だ。
卒業後、中学の頃の友達の話を母はよく聞いてくる。その度怒鳴って部屋の扉を強く閉めてしまった事を後悔した。
毎回、扉の前に置かれた一言の添えられた置き手紙と薫る味噌汁の暖かい匂いに
僕は涙が止まらなく溢れ出した。
今となっても分からない、母の苦労。
それ程までに息子に悟られぬようにと徹底して送った毎日。
明るく少し大き過ぎる声と、瞼裏に思い起こされる母の顔は全て笑っている程、
僕に向けられた数えられない数の優しい笑顔。
朝、顔を洗い。
僕はある小説家の一文が頭に浮かぶ。
「親に向けるのは願望。子供に向けられるのは希望」
長生きしてほしい。元気で健康に過ごしてほしい。幸せでいてほしい。
親に向けたこれらの言葉は全て願望であり願い。
長生きしてほしい。元気で健康に育ってほしい。幸せになってほしい。
子供に向けられたこれらの言葉も願望とも見て取れる。
しかし、たった一つ違うのは親から子へと向けられた《未来》は子から親へと向けられたそれとは非にならないと、その小説家は言う。
小説家はその文面の中で、その願望や希望のせいで胸を苦しくする人もいると言う事に深く頭を悩ませていたのが、今も印象深く胸に残っている。
まあ、何が言いたいかというと
僕は、子から親へと向けられたそれとは非にならないと言う事に対し
今も尚、強く反発の意思が湧き上がるという事。
それは僕の育った家庭や環境で大きく世間差が生まれるのは当然だと
分かっていながらも、僕はここで大きく“そうではない”と声を遺す。
最後に、
「親に向けるのは願望。子供に向けられるのは希望」
これになぞって未来を語るのならば、
僕は——
子供など“要らない”。
母追い Yumemi @6yuMemi9
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