―45― エピローグ
その後、父さんと俺はお互い回復するまで休んだ。
そして、どちらも快調になった頃には、すでに日が落ちていた。
「俺の負けだ……」
書斎には、対面に座っていた父さんが言葉を漏らす。
ついでに、俺の後ろに、拘束している暗殺ギルドのリーダーがいる。
俺に負けたせいだろうか。
今の父さんはひどく弱々しく見える。
「お前の言い分を全面的に認める。確かに、俺はお前を拉致するように暗殺ギルドに依頼した」
まさか、父さんのほうから認めてくるとはな。
「今、国は暗殺ギルドと繋がりのあった貴族を次々と捕らえています。恐らく、父さんも直に捕まるでしょう」
「あぁ、だろうな」
あっさりと認める。
「ユレン、一つだけ頼みを聞いてくれんか?」
「……聞くだけならいいですけど」
頼みとは一体なんだろうか? 一応、聞くだけ聞いてやろう。
「俺が捕らえられたら、このメルカデル家の威信は地に落ちる」
「それはそうでしょうね」
「お前が、メルカデル家の次期当主としてこの家を立て直してくれないか?」
まさか、俺に当主になってくれ、と頼むとはな。
俺を実家から追放した人物の口から出た言葉とはとても思えない。
「この家を継ぐのは、弟のイマノルですよ」
「だ、だがっ、お前が当主になったほうがきっとうまくいくはずだ!」
「それは、イマノルのことを侮りすぎている。俺を追い出したときと、同じ過ちをまたなさるおつもりですか?」
そう言われると、父さんはなにも言い返せなかったようで、言葉を詰まらせていた。
「さて、俺はこの男を衛兵に引き取って貰う仕事が残っているので、そろそろおいとまさせていただきます」
「ま、待ってくれ!」
俺が立ち上がって帰るそぶりをすると、父さんがそう言って引き止めた。
「俺が悪かった!」
そこには、頭を下げる父さんがいた。
「この通り謝るから、やはり、お前がこの家を継いでくれ!!」
まさか、ここまでプライドをかなぐり捨てて俺に頭を下げるとは。
今朝までの父さんなら考えられない態度に、俺は驚いていた。
「父さん、一つ誤解があるんですよ」
だから、俺は父さんに自分の思いを素直に話すことにした。
「俺は父さんにお礼を言いたかったんです。俺を家から追い出してくれてありがとうとね。だから、この家に戻るつもりは毛ほどもないんですよ」
「ど、どうしてだ……?」
「だって、貴族として縛られるより、冒険者として自由に生きるほうが楽しいんでね」
そう言うと、父さんは愕然とした表情をして固まっていた。
それを見て、俺は書斎から出て行った。
「兄さん、本当に行ってしまうのかい?」
廊下を出ると、そこには俺のことを待っていたように弟のイマノルがいた。
「まさか、お前まで俺のことを引き止めようとはしないよな」
「少しはその気はあったけど、少し会話が聞こえてね。だから、言っても無駄なんだろ?」
「そうか、わかっているならいいんだ。この家のことはお前に任せた。だから、精々がんばってくれ」
「言われなくてもそのつもりだ」
「なら、いいんだ」
メルカデル家にとって、これから色々と大変なことが起きるに違いない。
けど、イマノルならきっと乗り越えてくれるだろう。
だから、俺は自分の好きなように生きていこう。
◆
「それで、次の目的地にはなにがあるんだ」
大きな狐の姿になったフィーニャをつれて、俺たちは隣町へとむかっていた。
すでに、暗殺ギルドのリーダーを衛兵に引き渡し、父さんのせいでできなかった換金も無事済ませたし、やるべきことは全て終えた。
「ダンジョンがあるんだよ」
「ダンジョンなら、前の街にもあっただろう」
確かに、今までいた街にも新しくできたばかりのダンジョンがあった。
「それと比べものにならないぐらいの大きなダンジョンがあるんだよ」
「ほう、楽しみだのう」
そんな会話をしながら、俺とフィーニャは次の街へと向かうのだった。
―完―
◆◆
【あとがき】
ひとまず完結です。
気が向いたら続きかくかもしれません。
★いただけると幸いです。
何卒、よろしくお願いします。
レベル1で挑む縛りプレイ! 北川ニキタ @kamon
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