―44― また、外れッ!

 対面には、父さんが剣を構えていた。

 そして、父さんがスキルを発動させる。


「〈身体能力強化〉〈攻撃力上昇〉〈脚力強化〉」


 イマノルも同じことをやっていたな。

 まぁ、剣聖にとってはこれがセオリーなんだろう。


「〈エターナル・スラッシュ〉」


 そして、さらにスキルを発動させた。

 すると、父親の体から目映い光が放たれる。さらには、父親の握っていた剣が光をまとい、巨大な大剣へと変化する。

 その上で、一瞬で俺に接敵からの斬撃。


「〈パリイ〉」


 寸前のところで〈パリイ〉を使って、攻撃をナイフで受け流す。

 とはいえ、安心はできない。

 父親はさらなる攻撃を繰り出そうと、大剣を振り上げる。


 ふと、昔の記憶が蘇る。

 父さんはよく俺を相手に木剣を使って稽古をしてくれた。


「ユレン、お前は筋がいい。だから、将来はいい剣聖になれるはずだ」


 そう言って、俺のことをよく褒めてくれた。

 稽古をたくさんしてきたので、父さんの実力はよくわかっている。

 父さんがそれなりに強いことは俺が一番知っている。

 だから、父さんを信頼することにしよう。

 そう方針を決めた俺は、父さんの次の一撃がフェイントであると決めつけた。父さんほどの実力なら、馬鹿正直に攻撃してこないと踏んだのだ。

 だから、この攻撃はあえてよけない。

 注意すべきは、フェイントの後に繰り出す攻撃。

 読み通り、父さんの大振りの攻撃はフェイントだった。

 俺に当たりそうになる直前でとまり、一瞬で蹴りの攻撃へと切り替わる。

 読みが当たった。

 もし、フェイントを読んでいなければ、蹴られたに違いない。だから、俺は蹴りをかわし、足をあげたことでバランスをわずかに崩した父親を押し倒すように、ナイフで突き刺す。


「ぐはっ」


 と、父親は呻き声をあげながら、後ろに倒れる。

 一応、ダメージを与えたがダメージ量が微量なせいだろう父親はまだ戦うことができそうだ。


「ふんっ、レベル1の攻撃なんて、当たっても痛くもかゆくもないわ!」


 と、父親は強気な発言をするが、事実ではあるんだろう。

 どうしても、レベル1の俺が与えられるダメージというのは少なくなってしまう。


「いいねぇ、やっぱそうできゃ、つまらない」


 相手としては十分すぎる。

 だから、もう少しだけ本気を出そう。

 そう言って、〈アイテムボックス〉から取り出した注射器を自分の腕に刺した。

 中に入っているのは猛毒。

 これで、確実に猛毒状態になれる。

 これでスキル〈苛辣毒刃からつどぐじん〉が発動する。

 効果はクリティカル攻撃の威力が大幅に上昇するというもの。

 そして、俺にはもう一つスキル〈終焉の篝火かがりび〉が存在する。

〈終焉の篝火かがりび〉はHPが30%を切ると発動し、その効果はクリティカル攻撃の威力が倍増するというもの。

 猛毒状態のため、毒でHPが徐々に減っていく。

 この二つのスキルが組み合わさることで、まれに発生するクリティカル攻撃の威力がとんでもないことになる。

 

「父さん、昔みたいに剣と剣だけで戦おうか」


 剣以外の武器は使わないと勝手に決める。

 まぁ、俺が使っているのはナイフだが、ナイフも剣の一種のようなもんだろう。

 他の武器を使わないのに、深い理由はない。

 その方がおもしろいと思ったから。


「ふんっ、お前ごとき簡単に捻り潰してやるわ」

「キヒッ、それじゃあ、俺と遊ぼうかッ!」


 それから、俺と父さんの激しい剣撃が繰り広げられた。

 俺は父さんと稽古していたから、父さんの癖がなんとなくわかる。けれど、それは向こうも同じだ。

 父さんも俺の癖をある程度把握しているに違いない。

 だから、攻撃をお互い読み合い、時には裏をかいて剣をふるう。


 ただ、俺のほうが一枚上手だった。

 俺は父さんの攻撃をことごとく受け流し、俺は時々、父さんに攻撃を与えていた。


「まだかっ!?」


 俺は叫ぶ。

 まだ、クリティカル攻撃は発生しないのか!? もう、何度も父さんには攻撃を加えている。なのに、さっきから、クリティカルではない普通の攻撃ばかりだ。

 普通の攻撃では父さんの防御力を破ることができない。

 だから、クリティカル攻撃が出るまで俺は父さんの攻撃をすべてよける必要がある。

 なぜなら、俺はレベル1だ。

 レベル1の防御力は紙以下なので、一撃でもくらうと致命傷になりかねない。


「まだかっ!?」


 だから、早くクリティカル攻撃が出ろよ、という願いをこめて剣をふるう。

 毒ダメージだって、こっちにはあるんだ。

 剣をかわし続けていたら、いつかは毒ダメージで先に死んでしまう。


「死ねぇッ!」


 父さんも負けじと剣をふるう。

 時間が経てば経つほど、体力が落ちてくるせいか攻撃が雑になってくる。

 だから、今の父さんの攻撃をかわすのは容易い。

 だが、それは俺にも言えることだ。

 さっきから、猛毒が体を侵食してきているせいで、動きが鈍くなってきている。


「また、外れかっ!?」


 父さんに斬りつけながら、そう叫ぶ。

 あと、どのくらい俺は立っていられる?

 恐らく、毒のせいであと三十秒も立っていられないに違いない。

 残り三十秒で、あと何回父さんに攻撃する機会がある? 多く見積もって三回だ。

 残り三回の攻撃のうち、どれか一つでもクリティカル攻撃にならないと俺の敗北だ。


「いいねぇ、ドキドキしてきた」


 どうしようもない緊張感。

 この緊張感が俺に興奮をもたらしてくれる。


「キヒヒッ」


 だから、笑った。

 あぁ、今、この瞬間がとても愛おしい。


「まずは一撃目ッッ!!」


 そう言って、父さんにナイフで斬りつける。

 父さんはわずかによろめくだけで、すぐに戦いの体勢に戻る。


「外れたッ!」


 だから、すかさず切り替えて次の攻撃を浴びせる。


「また、外れッ!」


 そして、次の攻撃の準備にとりかかる。

 あぁ、毒が全身にまわってきた。数秒後には、俺は毒で死ぬに違いない!

 だから、これが最後の攻撃――ッ!!


「グボバッッ!!」


 斬りつけた瞬間、父さんは大きく背中を曲げて仰け反る。そして、大きく後方に吹き飛ばされていく。

 どうみても、これは――


「当たったッ!」


 とはいえ、安心している暇はない。

 解毒剤を急いで打たないと。

 だから、〈アイテムボックス〉から解毒剤が入った注射器を取り出し、自分に打つ。

 ふぅ、これでひとまず安心だ。

 そう思うと、全身から力が抜けて、その場に崩れ落ちる。

 そして、そのまま仰向けに地面を転がった。


「ユレン様ッ!」


 ふと、使用人が俺のことを心配して駆け寄ってくるのが音でわかった。

 見上げた空は快晴だった。

 気分は最高だ。


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