勝つとて、失うとて
国に還り、誰とも口を利かず、コウロゼンは部屋にいた。何度か両親が訪ねてきたが、応えられなかった。だが、クジャクアオの仕えが来たので、部屋の中から返答した。
「コウロゼン様、この度はご愁傷さまです。我々も何と言っていいか‥。」
戸の近くまで来て、廊下で話す声に聞き覚えがあった。以前、集いでコウロゼンの帯の結び目を嘲笑った仕えである。
「クジャクアオ様が亡くなられたのでお話することがあります。」
思わず立ち上がって、戸の内側に立つ。外側にいる仕えがまた話しだす。
「クジャクアオ様はご自身の運命を、何年も前から決めていました。最初に我々が命じられたのはコウロゼン様に・・・ひどい態度をとることです。」
彼の詫びる声が耳に入ってくるのを感じながら、コウロゼンは茫然としていた。自分の最期を止められないように、悲しまれないように、クジャクアオは‥
「そしてクジャクアオ様ご自身もコウロゼン様にそのような態度をとりはじめました。元々折り合いがいいとは言えませんでしたが‥」
コウロゼンはそれがなにを指すかわかっていた。学舎で行われた研究発表だ。あの時ほど彼女に強い憎しみを感じたことはない。朦朧としながら、仕えが戸の前から離れていく足音が響いた。いつからクジャクアオは計画していたのだろう。推測するに、国の情勢を見、軍の指揮官の中で不満が噴出するのを感じる中でこの国が長く持たないことを察したのだ。いつかの戦で、自分たち姉弟が自ら戦を指揮しなければならないことを知っていた。そして今回の戦が、「その時」だったのだ。さすがに彼女にも、大軍の指揮官の誰が、いつ寝返るのかを知り、それを阻止することはできなかったのだろう。
嗚呼、勝ったのに、なんと虚しいことか。敵も、味方も、そしてクジャクアオも。なんと多くの命が失われたことだろう。戦とはなんと愚かなものだろう。他国を攻め、自分たちのものにする計画に力を注いでいた数カ月前の自分に吐き気を覚えた。クジャクアオの最期の言葉が蘇る。
『勝つのだ、弟よ。』
去年、彼女はコウロゼンを家族ではないと言った。何年、クジャクアオは嫌われるために演じていたのだろう。思わず戸を開け、走り出した。屋敷を駆け抜けた。鳥が鳴いている。
「父上!」
衰弱していた息子が、肩で息をしながら呼びかけてきたことに驚きつつ、ギンススタケはこちらをしっかりと見据えた。
「私は、この国を守ります。もう誰も死なせません。」
父親の目がかすかに見開かれる。息を吸い、はっきりと告げた。
「私は、『姉上』を超えます。」
春の訪れを、陽の暖かさが告げていた。
勝つとて、失うとて @KAMY4
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