第9話 彼女の名は咲

あずさの家はとても懐かしく、それでいてとても落ち着く場所だった。

「ねぇ、あずさ。キッチン借りてもいい?」

「え?いいけど…何か作るの?ていうか、作れるの?あずさ、料理とか得意ってわけじゃなかったよね?」

「まぁね。どうしてもあずさと一緒に食べたいお菓子があって、それを作りたくて。小麦粉とかも少し使っていい?」

「うん、いいよ」

私はあずさの家に入ってすぐに、使用許可を得たキッチンへと向かった。

今朝、咲さんに作り方を教えてもらったお菓子を作るためだ。

あずさと一緒に食べたいから教わったのだ。今が絶好の機会だろう。

咲さんほど完璧に作れる自信はないけど、私もそれなりには美味しく作れるようになったと自負している。

邪魔しちゃ悪いからと、あずさは自部屋にいる。別に邪魔なんかじゃないんだけど。むしろ、隣にいて欲しかったんだけど。

早くあずさに食べさせたいな、驚いてくれるかな、なんて思いながら咲さん特製クッキーを丁寧に作る。

あんなに美味しいのに、制作時間はさほどかからないため、すぐに完成した。こんなお菓子を作った咲さんはすごい。

私はすぐさまクッキーをお皿に盛って、あずさの部屋へと持っていく。

「お待たせ!私が作った特製クッキーだよ!」

「優、クッキーなんて作れたのね。見せて見せて!」

見せない理由なんて無い。私はすぐにお皿を机に置いて、あずさに見せた。

クッキーを見たあずさは、特に何か声を上げたり感想を述べたりするわけではなく、ただぽかーんとしていた。

「ん?あずさ、どうかしたの?」




「…いや、私のお母さんがこのお菓子作るの得意だったから」

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ハロウィンの終わる時には 幸郷裕志 @slimelove0208

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