第2話
さて、ここからが私がこれを書くきっかけとなった出来事、私と彼の高校生活について話していこうと思う。彼とは高校で再び同じクラスに入った。3年間だ。私達の学校は、所謂進学校と言うやつで、そのほとんどが大学に進学する、そんな高校であった。しかし地方進学校であったので、あくまで自称という程度であったように思う。
中学時代、後半は彼とはほとんど交流もなく、かなり遠ざかっていた。しかし高校でクラスが一緒になり、生活を密接にするようになってから再び仲がよくなった。彼は変わらず優秀であった。中学の時、クラスが離れていても彼の名声が耳に入ってきていたが、そのまま彼は高校でも瞬く間にクラスのトップとして文句なく認められるようになった。彼は人格的に優れた人物であった。クラスの誰とも一定の交友関係を持ち、誰からも慕われているため、私から見ると完璧な人物であった。小学校の頃から感じていた彼の自尊心、プライド、失敗を恐れる心は間違いなく彼の中で増大していて、それが彼の完璧な態度を支えているように感じた。
高校一年生、彼と私はクラス内で親友と誰からも認めてもらえる関係であった。他愛ないことをいつも話していたし、お互いに近すぎるほどの関係をなんとも思っていなかった。勉強ではもちろん彼の方が上だったが、私も比較的勉強が出来ると言われる部類に入っていたと思う。故に私は彼に追いつくために頑張り、彼は学年でのトップクラスを維持するために頑張り、まさしく切磋琢磨していたのではないかと思う。
ほころびが生じ始めたのは、進路のせいだろうか。高校2年生、夏頃からだったように思う。私達は周りより早く、進路を考え始めた。周りに大学を決めている人はいなかったが、それでも私達は互いに相談しながらおのおの一つの大学を決めた。それぞれの志望校は私達にとってはまだレベルが高いものであったため、高校2年生の後半からかなり本気で勉強に気持ちを集中させていたと思う。彼の目指す大学は日本のトップレベルだった。私の目指していたところはそれより一つランクが低いと言われていた大学であった。彼と私は毎日、放課後は図書館に行って黙々と勉強した。
それがいつからか関係がほころび始めていたのだ。人の心を察するのが得意だった私は、彼の気持ちの変化にも敏感に気づいた。彼は表面上は以前と変わらない付き合いを保っていたが、次第にそれをうっとうしいと感じるようになったのではないかと思う。トップを目指している彼にとって、私の目指している大学、他の友人らの目標は論外だったのだろう。だから私達はいつからか彼に気を遣うようになった。簡単に言うと、最低限の付き合いのみをするようになった。特に私にとってはそれは大きな変化であった。彼がいるのが普通だった生活が一変してしまったからだ。大して彼は、そんな私達の変化について気づいていないようだった。私達と絡んでいた時間さえも当たり前のように勉強に傾倒していた。私にはそれが憎く感じた。これまでの私達との関わりは必要だったのではなく、関わりたいから関わっていたのでもなく、私達の、私アプローチに応じていただけだったからだと知ってしまったからだ。
私はそれでも彼との関係を保ちたいと思い、何度か二人のことについて彼と話そうとした。しかしすぐに諦めた。d
「自分のやりたいこと、行きたいところと、それに向けて何をすべきかわかっているのに、それを頑張らないって愚かじゃない?」
と彼はこれしか言わなかったからだ。彼の言わんとしているところはわかった。直接は言われなかったが、勉強に集中するために、私や周りの存在がうっとうしくなってきたのだろう。私が彼に対し注いできた時間は何だったのかと思う。これまで築いてきた友情も、大学のためには小さなものでしかなかったのだ。私は当時、夢を見ていたのかもしれない、彼といつまでもこの関係が続けられる、続いていくという。それからの私は彼とは離れて生活を送るようになった。勉強にいそしみつつ、高校2年生のうちは彼ほど勉強を頑張れなかったため、他の友達との時間を大切にしながら高校生活を楽しんだ。
彼は結局その年の大学には落ちてしまったようで、その後浪人したのか、就職や別の道を選んだのか、私は知らない。彼のことだからきっとうまくやっているだろうと思う。私はと言えば、大学に無事に入り、今は一介の社会人である。今となっては、彼が正しかったのか、判断できない。しかし、私は彼に夢を見ていて、現実は違って、私の時間が無駄になったと今私が考えていると言うことだけは事実である。
虚構と現実 @alumikan
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