赤色の殺人鬼
アリエのムラサキ
赤色の殺人鬼
生きているだけでもすごいことだ。
まだ、物心ついて間もない頃に、父が私によく言っていた言葉だ。
物心ついて間もない子供に言う言葉じゃないだろうと野暮なことを今振り返ってみて思うけれど。
父が目の前で高層マンションの屋上から飛び降りて、父だった肉塊が高層マンション前の歩道に飛び散った。ごめんなと一言だけ残して飛び降りて、何が起きたのか頭が追いつかなくて、気づいたら父が死んでいた。時間が過ぎて、警察の取り調べが終わって、家に帰って来る途中で、ただただ狂った笑いをケタケタとあげながら涙を流していた。雨でも降っていたら、涙じゃなくて雨だと言えたのに。残念。
これを気に、私のすべてが壊れてしまった。
家族もぐちゃぐちゃ、お前がいなければと母親に精神的暴力とか、物理的な暴力をされた。
弟には、お前が殺したんだ、お前も死ねよと何回も言われた。軽蔑と殺意両方がごちゃごちゃに混じった目でこちらを見て。
学校なんか特にひどかった。先生だけは少し優しくしてくれたけど、それも一部だけで。それ以外はこちらを避けるようになった。同級生も後輩も、人殺しだとか死神だとか、何なら殺人鬼だとか言うやつもいた。私、別に殺してないんだけど?
いじめとか言う姑息なことをする奴らも出てきた。ケラケラ笑いながら人のかばんを三階の窓から放り捨てる、トイレの個室に閉じ込められた挙げ句大量の水を流し込まれてビショビショになる、集団リンチにあと一歩でレイプもされるところだった。殺人鬼とか言ってるくせにその殺人鬼とヤるのか。とんだヤリチンか。
人は追い詰められると、メンタルを壊す。自殺にだって走ってしまう。私は意地汚く生きようとしたから、感情を完璧に消した。というかただの他人が被害にあっているようにしか感じられなくなった。むしろ、ケラケラと頭の中でいじめられてんじゃんかと笑っていた。
でも、どんな人にも限界がくる。
いつの間にか、ケラケラと笑いが止まらなくなっていた。父が自殺して、警察からの取り調べから帰る日のように。
人って案外簡単に死ぬんだなって実感した。トイレの個室で女子三人にケラケラ笑われながらリンチされてるときに、あんたも父親みたいに自殺したら? あ、あんたが殺したのかー、なんて言われて、今までも何回もそんな事言われてきたからなんにも感じないはずだったのに。何故かその日に限って、そのタイミングに限って。ぷつりとすべてが切れた。今までの鬱憤を晴らすかのように、もう全てどうなったっていいかのように。そういった女の顔面を殴りつけて、リストカットように常備していたナイフで滅多刺しにしていた。他の女どもも悲鳴を上げて逃げようとするから、同じように殴りつけて便器に何回も叩きつけた。腰が抜けたのか立てなくなった女は、ひぃひぃ言いながらやめてやめてと繰り返し言いながら後ずさりしていったが、素足で女の顔面を容赦なく何回も蹴る。何回も何回も何回も何回も。トイレは血まみれになって、私自身も真っ赤に染まっていた。ピチャピチャと血の滴る音とともに後ろを振り向く。鏡に映る私は、あの日の狂った笑顔を浮かべながら、殺人鬼というにふさわしい姿になっていた。
「みーんな、いつか死ぬよね? ね! だから、みんな殺しちゃってもいいよね?」
赤色の殺人鬼 アリエのムラサキ @Murasaki2020
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