春夏秋冬が過ぎ、そしてまた繰り返される四季。
本作によって、そこには時間軸があることに気付き、四季は周るだけでは無く、螺旋であると再認識しました。
物語である以上、ある部分だけ抜き出すのは当たり前で、いかにその世界を描写するかは創作の醍醐味でもあります。
舞台や人間関係、事象に対する詳細な説明を厭わない作品もあれば、読み手の想像力に委ね、重要なパーツを意図的に組み込まない手法もあるでしょう。
本作は、四季が移ろう何気ない日常風景の中で、二つの視点で語られます。
一人称故に、いきなり自己紹介が始まるような不自然さも、過度な説明描写もありません。
にもかかわらず、登場人物の様々な「想い」を垣間見ることができました。
それはきっと、この作品の世界がきちんと生きているからなんだと思うのです。物語の為に急場しのぎで創られていない。
だから少ない描写でも、描かれていない過去や未来を確かに感じることができたのです。
日常や想いを、四季を通じ季語で、短く表す。
そんな平安の時代から繋がっている表現の歴史を大切にする作者だから描けた作品、そんな気がします。
最後に、春の季語である「ひこばえ」をそこで表したのは「咲けないつぼみ」に対する心の叫びと感じました。
それは少し穿ちすぎた感想でしょうか?