小森幸、短歌との新たなる出会い ―料理対決編・その1―
ドイドイ・ヨーシハール。
ライトノベルを様々な方法で料理し提供する「ライトノベル料理人」の第一人者である。テレビや雑誌などでの露出も多い事から、世間での知名度も高い。そんな男が学食ストリートの料理人と料理対決をすると決まり、ただ黙っているだけのぽん大生ではなかった。
例えば――ぽん大第二サークル棟。
「なんかこう、お祭り騒ぎをしたい」
"31 sounds burger"でドイドイ・ヨーシハールが料理対決を提案したのと同じタイミング、"ぽんぽこタイムズ"編集長・
「へぇ、料理対決かぁ」
"ぽんぽこタイムズ"メンバーの
「ほう?」
「あ」
2秒53。
かたりが床に寝転がり駄々をこねるまで、要した時間はそれだけだった。
* * *
ドイドイ先生が料理対決を提案し、
学食ストリート・デデドン広場には、テレビ番組顔負けのバトルステージが設営されていました。
「展開が早すぎませんか?」
有志の暇人達によって瞬く間に組み上げられたそのステージを見上げ、わたし
ステージ前にはゲリラ開催とは思えぬほどたくさんの観客がひしめき、期待に溢れたざわめきがデデドン広場に響きわたります。その熱気たるや、頭上に陽炎を揺らめかせるほどです。
ステージは真ん中を境に赤と青に塗り分けられています。左右それぞれに調理台が設けられ、中央には様々な食材が山積みにされていました。
そして食材の前に、マイクを握り締めた少女が一人。
それは、髪を金色に染めた高校制服姿のギャルの方でした。
「みんな、集まってくれてありがとー!☆ 今回も実況を任された、ゲーム愛好会の
天真爛漫な笑顔を振りまくミカさん。
観客からも猛々しい歓声が挙がります。
わたしの苦手な陽の空気です。
「ククク……今回もまた、波乱の展開となりそうだ……」
そんな陽の空気とは対照的な、陰の気配。
いつの間にか横に立っていた黒衣の男が、ひとり不敵な笑みを浮かべていました。
「あ、あなたは一体」
「俺は、部外者にも関わらず知ったような口を利いて解説役ぶることが趣味の暇人……」
「部外者にも関わらず知ったような口を利いて解説役ぶることが趣味の暇人」
「お前達が決めたこの戦い。元々は粛々とやるつもりだったのかもしれんが、それを許すようなぽん大ではない……"ぽんぽこタイムズ"の面々がすぐさま嗅ぎつけ、設営サークルに協力を要請した結果がこれだ。なに、やることは変わらんさ。ただ思うがまま、料理をすればいいだけのこと」
「ま、そういうことですな」
暇人さんの言葉に頷きながら、ドイドイ先生が楽屋から出てきます。私服からエプロン姿に着替えたからか、雰囲気も温和なものから職人のそれに変化しています。
「あのー、急にこんな大きなイベントになって、ドイドイ先生は大丈夫なんでしょうか」
「かまいまへんかまいまへん。私はただ、あの人にもっと短歌バーガーを知ってほしいだけやから」
「あの人……」
反対側に控えているであろう五七さんの顔を、そして短歌バーガーを食べたときに見た、あの心象風景を思い出します。あれは面白く美味しい体験でした。想像力だけでなく、五感を使って短歌を堪能させる素晴らしい料理だと私は感じました。
しかしそんな五七さんの短歌バーガーを、ドイドイ先生は『活かせていない』と評しました。何が活かせてないのか、素人の私にはまったく分かりません。ただあの時のドイドイ先生の表情や声音に、茶化すような感情は感じられませんでした。ならばあれは、ドイドイ先生の本心なのでしょう。
かたや短歌バーガーに情熱を注ぐ男。
かたや文食料理界の生き字引。
そんな二人の対決を前に、私にできることは応援だけです。
「では、今回のルールを説明するよー☆ 制限時間は2時間、その間に最高の短歌バーガーを作るだけ☆ 食材はここに用意したものだけじゃなく、ぽん大構内で手に入る物なら何でも使ってOKだよ☆ それじゃー、レディー・ゴー!!!」
銅鑼が鳴り響き、歓声がわっと挙がります。
かくして、短歌バーガー対決は幕を切ったのです。
* * *
「うん、これがええな」
今までわたしが書き溜めていた短歌の短冊を眺め、ドイドイ先生は一句を選びました。
「あの、本当にいいんでしょうか? 私なんかの短歌で」
「何を卑下しとりますか、これ以上ない、愛に満ちた短歌ですよ」
「そ、そうでしょうか? えへへ……」
自分の作品を褒められると照れちゃいますね。
現在、対決開始から5分経過したところ。わたしたちは最初に短歌バーガーに用いる一句を選び、そこから食材を決めることにしました。つまりこれから、食材を探すわけです。
『ドイドイ・ヨーシハール! 最高の短歌と、最高の食材を味わうといい!』
対する五七さんは目星があったのか、ドイドイ先生に力強く意気込んでからステージの外へ駆け出して行きました。
相手はぽん大で働く料理人。どこに自分の求める食材があるのかも熟知しているのでしょう。対して、ドイドイ先生は外部の人間です。地の利は向こうにありました。
ならばいっそう、横から応援してあげなくてはいけません。
「頑張ってください、ドイドイ先生!」
わたしの応援に、なぜかドイドイ先生は目を丸くしました。
「何言うてはるの、お嬢さんも頑張らな」
「え、わたしも?」
「はいこれ」
手渡されたのは、道中拾ったはがねのつるぎ。
「あの、これは一体」
「ほんなら行きましょか」
「行くって、どこへ」
「もちろん」
”一狩りに決まってますがな。”
テレビで見た事のある笑顔で、ドイドイ先生はそう告げました。
【
【
【
~ぽん大・エリア11~
「さ、着きました」
謎の読込を経てわたしたちが来たのは、ぽん大北部の原野。ニセヒメフトコメツキダマシから巨大なモンスターまで幅広い生物が生息する実習フィールドであり、「エリア11」と呼ばれる場所です。わたしも昨年「にょばらにょばら学」でエリア内に点在する古代ハンドスピナー文明の遺跡を見学しましたが、実際ここがどういう場所なのかはてんで知りません。
「ククク、気を付けろ……」
どこからともなく現われた部外者にも(中略)暇人さんが語りかけてきます。
「ここはかの墨堕区"コンクリートジャングル"と並ぶ危険区域。ハンター資格を持つ教員が同行しない限り、モンスターハンターかセパタクロー部しか足を運ぶことを許されぬ地だ」
「セパタクロー部はここで何を……」
「せいぜい死なないように頑張るんだな……ああそれと、武器は装備しないと意味がないから気を付けるといい」
「あっ、忘れてました」
しっかり武器を
これで序盤の敵なら互角に戦えるでしょう。序盤って何?
「それでドイドイ先生、探している食材はなんなのでしょうか?」
「それはですね――ああ、あれやあれ」
さっそく見つけたらしく、ドイドイ先生が前方を指さしました。
数百メートル先で、高速で飛翔する何かがいました。
アノマロカリスを長くしてヒレを飛行用に大きく発達させたようなフォルム。
ドイドイ先生の指し示すものは、どうにもその全長数十メートルはありそうな生き物でした。
「今回狙うのは、《すかいふぃっしゅ》です」
「――すかいふぃっしゅ」
まさかのUMAでした。
『ドイドイチーム、どうやら食材はあの飛んでるムカデみたいなやつみたい☆ ミカには何か分からないから、詳しそうな人に聞くねっ☆ "ギガントナイフ"店長のマナナギさん、ズバリあれは何なの?』
スマホからミカさんの声。対決はぽん大の公式YouTubeチャンネルで配信されており、実況席の様子がいつでも確認できるように流していました。ミカさんに話を振られた屈強なオカマ――マナナギさんが、クネクネと横に動きながら説明します。
『アレは、超音速で飛び回るぽん大原生生物きってのスピードスター、捕獲難易度SSSSSの【スカイフィッシュ】ねェ~♡ アテシは食べたことはないケド、実は最古のハンバーガーにはスカイフィッシュが使われていたという学説も存在しているノ♡ ステータスを速度に全振りした料理人がスカイフィッシュを捕まえて、そのまま目にも止まらぬ速度で調理してフィレオフィッシュを提供した――それが"ファストフード"の始まりともされているワ♡』
『なるほど、伝統のある食材なんだね☆』
「そんなに速い生き物なんですか……ドイドイ先生、いったいどうやって捕まえるんですか?」
『でも、ドイドイチームはどうやって捕まえるつもりなのかな? ミカ、ドイドイ先生も幸ちゃんも、捕まえられそうにないと思うんだけど?』
実況席のミカさんも同じところが気になるようです。
わたしたちの疑問に、ドイドイ先生はあっけらかんと答えます。
「私達だけやと、無理でしょうなぁ」
「そんな、ではどうやって」
『アラ、忘れちゃダメダメよミカちゃん♡』
マナナギさんの声がわたしの言葉を遮りました。
「ええですか、狩りっちゅうのは――」
『狩りっていうのは――』
そしてドイドイ先生とマナナギさん、二人の言葉が重なります。
『「四人でやるもの
刹那、わたしたちの横を何かが通り過ぎていきました。
「
「了解!」
目の前に構成されていく、直方体の空気の歪み。それを踏み台に、一人の青年がとても素早い動きでスカイフィッシュへと突進していきます。
さらに(またしても)いつの間にか、わたしの横に七三分けの青年が立っていました。
『あれは、ヒーローズの
!』
うおおおおお! と画面越しにあがる歓声。
しかしわたしには、どうして彼らがここにいるのか分かりませんでした。
「ど、どうしてここに?」
わたしは黄さんに尋ねます。
「我、
つまり、SNSでドイドイ先生が狩り仲間を募集して、それに相互フォローの黄さんが反応、一緒にいて暇をしていた緑川さんも同行してきたと……。
「いやー、これ以上ない助っ人が来てくれはりましたな。
「阿阿阿阿! 本物土居土居先生! 握手感謝!」
ぶんぶんと握手した手を上下に振り回す黄さん。
「ああああああああ!!!」
同時に、視界の片隅を吹き飛んでいく何か。
『あーっと緑川クン、スカイフィッシュの尻尾に弾き飛ばされた! これは大丈夫でしょうか――あ、エリア11の原住民、ヨゥギボゥ族がキャッチしてくれたみたいだね☆』
『流石、紀元前から人をダメにするクッションを作り続ける部族ネ♡』
心強い助っ人が現われても、依然彼我の戦力差にはまだ差があるようです。
「戦力は増しましたけど、どうやって勝てばいいんですか?」
「そうですなぁ……まず、お嬢さんはその剣を構えててもらえますか?」
「剣をですか? こう、でしょうか」
私の細腕には重いはがねの剣を、正面に構えます。
「そそ、そんな感じで」
「なんだ、何か作戦があるのか」
「土井土井先生作戦、我期待大!」
左半分をクッションに包まれたままの緑川先輩とホァン先輩が歩み寄ってきます。
「ええですか、アレを捕獲するためには――」
ドイドイ先生に作戦を耳打ちされ、二人は頷き合いました。
「なるほど、そういうことか」
「我計算、成功確率八割! 実行意義有!」
「では、よろしくお願いします」
「「
スカイフィッシュに向け、二人が飛び出していきます。
あの私、剣を構えるようにしか言われてないのですが……?
先ほどと同様、ホァン先輩の作り出した足場を踏み台に、緑川先輩が飛翔するスカイフィッシュに対して近づいていきます。
目で追うのすら難しい速度ですが、それでも無闇に突っ込んでいくのではなく、一定の距離を保ちながら誘導しているような動きであると理解できました。不規則に飛んでいただけのスカイフィッシュが、段々とこちらに近寄ってきます。
……こちらに?
「あの、ドイドイ先生?」
「さ、気ぃ張るところや」
剣を構える私の肩に、ドイドイ先生が手を添えます。
「小森さん、行くぞ!」
「え、ええええ!?」
緑川先輩の誘導により、スカイフィッシュは方向転換。超スピードのまま、私に向かって突っ込んできます。
「わあああああああああああ!」
迫り来る羽音。
恐怖に怯え、目をつぶって私ははがねの剣を突き出します。
数瞬のうち、その剣先に軽い感触がありました。
そしてそのまま、羽音は鳴り止みました。
「……ほぇ?」
「ナイスやで、お嬢さん」
目を開けます。
頭部にはがねの剣がさっくり刺さったスカイフィッシュ。
「スカイフィッシュは、
「な、なるほど……」
緊張の糸がほどけ、私はその場でへたり込みます。
【QUEST CLEAR!】
かくして、食材は無事調達できたのでした。
~60秒後に、キッチンに帰還します~
【ぽん大×ドイドイ先生】短歌バーガー大決戦in学食ストリート 緒賀けゐす @oga-keisu
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。【ぽん大×ドイドイ先生】短歌バーガー大決戦in学食ストリートの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます