勘違いしないでよね!あなたの心を釘付けにしたかっただけなんだからねっ

赤茄子橄

本文

「勘違いしないでよね!あなたの心を釘付けにしたかっただけなんだからねっ」


私のこのお決まりのセリフに合わせて、彼もいつもと同じように、右手を私の背中に回してぎゅっと抱きしめながら左手で優しく頭を撫でてくれる。


あぁ〜、力が抜けちゃう〜。この時間が本当に幸せなの。

思えばこのやり取りも、幼稚園のころからずっとやってるんだよね。



*****



「やーいやーい、お前の母ちゃん超美人〜」


「この可愛すぎて皆の心を弄ぶ悪魔女〜」


「学校にもしんどいときは来るんじゃねぇぞ〜!」



この子たち、罵倒のクセが凄いなぁ〜。

これで本当に今日もいじめられてるように見えるかしら?


そう思いながらも、うずくまった姿勢でしばらくこの罵倒風賛美を受け続けていると、少し離れたところから狙い通りの男の子の声が聞こえてくる。



「おい、お前ら!また悠莉ゆうりちゃんをいじめてるなー!やめろー!」



彼、日舞龍兎ひのまいりゅうとくんが怖い顔をして急いで走り寄ってきてくれた。



悠莉ゆうりちゃん、大丈夫だった?」


「うん、大丈夫だよ!ありがと、りゅーちゃん!」



私のピンチに彼が迷いなく駆け寄ってきてくれたことが嬉しくて、全然表情を引き締められない。


はっ、このままじゃいけない!ちゃんと怖かった演技をしないと!



「え、えーん、りゅーちゃん、怖かったよぉ」



あ、凄く棒読みになっちゃった......。でも、私のりゅーちゃんなら......。



「くそっ!悠莉ちゃんを泣かせるなんて。よしよし、怖かったね。あいつら、絶対許さないぞ!懲らしめてやる!」



やっぱり騙されてくれた!可愛い!

それに......ふわぁ〜、りゅーちゃんのよしよしきもちーよぉ〜。


はっ!でも懲らしめるのはだめだよ!私から離れるのもだめ!


「もう、りゅーちゃん!だめでしょ!」


「え、どうしたの、悠莉ちゃん!?」


「もぅ、勘違いしないでよね!さっきの子たちには私がお願いしていじめるふりしてもらっただけなんだから!

それでりゅーちゃんに助けてもらって、慰めてもらうっていうていでりゅーちゃんとイチャイチャさせてもらうつもりだっただけなんだからねっ!

だから、仕返しなんて意味のないことしてないで私をぎゅっとして!もっとよしよしして!」



そう、最初のいじめっ子(?)たちは私、天使悠莉あまつかゆうりがお菓子10円分で買収して、いじめるふりをしてもらったエキストラ。


ちなみに幼馴染のりゅーちゃんと私は一緒の幼稚園に通っていて、自由遊びの時間なんかにはほぼ毎日こんな感じのやり取りをしている。


りゅーちゃんはとっても優しいから、私が毎日騙してても、毎日しっかり騙されてくれるんだっ。すっごく素敵な人でしょ?



「そっかそっか〜。悠莉ちゃんがいじめられてるんじゃなくてほんとに良かったよ〜。それにしても僕を騙すなんて悪い子だ〜。こうなったらわしゃわしゃしてやるー!」



そういってりゅーちゃんは私の頭をよしよしよりも強く髪をクシャクシャになるまで撫でてくれる。

これがめちゃくちゃ幸せなの〜!


しばらく堪能していると、りゅーちゃんが私の頭から手を離す。



「あっ......」



もうちょっと続けてほしくて声に出ちゃった。



「はいっ、これで罰は終わり!もう僕を騙しちゃだめだからね?」


「はぁい」



私は適当な返事を返す。

もちろん、明日もやらせてもらうつもりなので!



*****



そう、幼稚園のころからこんなルーティーンをほとんど毎日繰り返してきた。


小学校に上がってからは、今もずっと一緒にいる幼馴染たちとも出会ってみんなで遊びに行ったりするようになっちゃった。

だから、りゅーちゃんと2人っきりの時間は減っちゃったんだけど......。


それでも幼馴染のみんなは私とりゅーちゃんの関係を尊重してくれたから、イチャイチャするのは簡単だったなぁ〜。



そういえば、小学校1年生でりゅーちゃんと付き合い始めるときも、鈍感なりゅーちゃんのために、みんなに協力してもらったりしたなぁ〜。



*****



「りゅーちゃーん。かーえーろー!」


「悠莉ちゃん!うん、そうだね!みんなー、かえろーぜー」



りゅーちゃんは、みんな・・・、つまり幼馴染で小学校に上がったときから近所に引っ越してきて家も近い3人の男の子と3人の女の子にも声をかける。

いつものことなんだけど、私はたまには2人っきりで帰りたいんだけどなぁ〜。



というか、私はいっつもこんなに大好きな気持ちを伝えてるのに、りゅーちゃんは私のこと妹みたいに扱ってくるんだよね。


まぁ実は私も、直接「好き」って言ったことはないんだけどさ。さすがにこれだけアピールしたら気づいて告白してくれてもいいのになぁ〜。


幼稚園では男の子が告白して付き合いだした子たちも居たんだから、私たちもそうなりたいのに!


もう!りゅーちゃんの鈍感さんっ。




私がプンスカしていると、その様子を見られちゃっていたのか、ある女の子が私の肩をポンポンと叩いて、ヒソヒソ声で話かけてきた。

さっきりゅーちゃんが声をかけていた幼馴染の1人、唯空結ゆそらゆいちゃんだ。



「ねぇねぇ、ゆうちゃん。そろそろ龍兎くんとの関係、進めた方がいいんじゃない?」


「ゆ、ゆいちゃん。私の気持ち、気づいてたの!?」


「えー?そりゃあ、あれだけ好き好きアピールしてたら、気づかないのは龍兎くんととぉくんくらいだよ〜」



そう言って彼女はケラケラと楽しそうに笑う。


そうなんだ〜。

私の態度で察してくれてないのは、たった2人だけだという。


りゅーちゃん本人と、結ちゃんが好きな男の子、結ちゃんがとぉくんと呼ぶ幼馴染メンバーの1人の神楽透かぐらとおるくんのだけ。



確かにこの2人はずば抜けて鈍感さんなんだよね。

とおるくんも結ちゃんの気持ちに気づいてないみたいだし、この2人も付き合い始めるのはいつになるのかわからないよね〜。



「そういう結ちゃんこそ。私のことばっかり構うんじゃなくて、透くんと関係を進めなくていいの?」


「えっ、ゆうちゃん、気づいてたの!?」


「そりゃあ、見てたら誰だって気づくよ〜」



うん、誰がどう見ても両思い。でも2人とも鈍感さんだからか、2人とも片思いしてると思ってるみたいだけど。

でも、もしかしたらそういう意味で結ちゃんは私と境遇が似てるから、声をかけてくれたのかも。


でもそっか、私の気持ち、他の皆も気づいてるんだ。


2人でコソコソと話していると、りゅーちゃんの声が聞こえる。



「悠莉ちゃーん、結さーん、どうしたのー?内緒話〜?そろそろ帰るよ〜?」



見ると他のみんなはランドセルを背負って、教室からでようとしてるところみたい。


でも、私の方から好きって言葉で伝えるのはなんだか照れくさいし、できればりゅーちゃんから言って欲しい。


だから今、結ちゃんと話してたことを知られたくはないなぁ。



「勘違いしないでよねっ。今はりゅーちゃんの素敵なところを話し合ってただけなんだからねっ」


「えっ、ゆいそんなこと話してな......もごもごっ」


「ねっ、そろそろ帰ろ?」



結ちゃんが余計なことを言いそうだったから、優しく口を塞いでこの話題を終わらせてあげて、ぶーぶー言う結ちゃんと2人で急いでみんなを追いかけた。






次の日の休み時間、私はりゅーちゃんがお手洗いに向かったのを確認して、彼以外の幼馴染のみんなに集まってもらった。

それで、昨日みんなが私の気持ちを知ってるってわかってから考えてたことをみんなに聞いてもらったんだ。



「実は私、りゅーちゃんのことが好きなの!」


「「「「「そんなのみんな知ってるよ〜「えっ、そうだったの!?」」」」」」



ハモられてツッコまれちゃった......。


そんなにバレバレだったかぁ。

てへへ。


1人だけ違う反応の子がいたけど、それはまぁいいの。



「そ、そっか。ホントにバレてたんだね。ま、まぁいいや。それでね?私、りゅーちゃんの方から告白してもらいなーって思ってるの!みんなには、そのための何かいい方法はないか聞きたいんだけど、どうかな?」



私は「どうやったら彼に告白させられるか」をみんなに聞いて、場合によってはみんなに協力してもらおうと思っていることを伝えた。


そしたらみんなは、「素直に聞いてみたら?」とか「悠莉ちゃんの方から告白すればいいのに」とか全くわけのわからないのことを言ってたけど、1つだけ妙案があった。


私の得意技でもあったし、それを実行することにしたんだ。









その日の帰り道は、みんなにも協力してもらって、久しぶりに私はりゅーちゃんと2人っきりで下校していた。


みんな用事があるって言って学校に残るってことにしてもらって、私はちょっと早く帰らないといけないからってりゅーちゃんを引っ張って早く教室を出たんだ〜。



私達の家の近所の公園まできたところで、その公園の中から3人の男の子がでてきた。

予定していた通り。



「おい、日舞龍兎ひのまいりゅうと!いつも天使あまつかさんとイチャイチャしやがって!お前、天使さんのことが好きなのか!?」



お察しの通り、彼らは幼馴染のみんなと相談して、私がお菓子100円分で買収したエキストラの皆さんだ。


軽い喧嘩みたいな雰囲気でりゅーちゃんに「私のことが好きなのか?」って聞いてもらって、そのままどさくさで私に告白してもらう作戦だよっ。



今の所とっても良い働きをしてくれてるね。

さて、りゅーちゃんはなんて答えてくれるかな?



「お前達3組の連中だな!なんだ、悠莉ちゃんをいじめに来たのか!?」



りゅーちゃん!そうじゃない、そうじゃないよ!

でも私を守ろうとしてくれるのはカッコイイよぉ!

でもそうじゃないの!



ほら、目の前の3人も困った顔で私の方を見てきてるよ!

どうしたらいいかわからないって顔だよ!

ごめんなさい、もうちょっと頑張って!



「あ、天使さんじゃないやい!ターゲットは日舞、お前だ!そ、それで、まずは天使さんのことが好きなのか聞かせろ!」



わっ、すごい、たったお菓子100円分だけでそこまで頑張ってくれるなんて!


さすがにこれでりゅーちゃんも好きって言ってくれるかな?



「くっ......狙いは僕か。なら悠莉ちゃんだけでも先に帰していいだろ。この子を危ない目に合わせるわけにはいかないんだ!」



きゃーーーーー!かっこいーーーーーーーーー!でも違うの〜〜〜〜〜〜〜!



3人でこっちを見るの辞めてー!もうひと踏ん張りしてー!



「えっ......と、いや、先に帰すのは、なぁ?ちょっとどうなのっていうか、さぁ?」



あ、もうだめそう。

100円で頑張ってもらえるのはここまでか......。


なら計画を次の段階に移すよ!



私たちは当初からこのどうしようもなくなった状況を一応想定していた。


だからその場合は、私がウインクで合図したら、次の作戦に入るように話し合っていたの。


今こそ作戦を実行する時!



パチッパチッ。



私が右目で2回ウインクすると、彼らはその意図をちゃんと理解してくれたみたいで、予定通りの動きに入ってくれた。



「こ、このー!口答えするんじゃね〜!恨みはねぇけど、懲らしめてやるー!」



そう言いながら3人が緩慢な動きでりゅーちゃんに殴りかかる。フリをする。



これでホントに喧嘩になっちゃったら問題になっちゃう。

それに私の作戦はそんな乱暴な作戦じゃないんだから!



彼らとりゅーちゃんが近づききる前に、私がりゅーちゃんの前に出て両手を広げて護るような態勢になって宣言する。



「や、やめてー。りゅーちゃんに怪我をさせたら承知しないんだからー」



棒読みになっちゃった。


でも、3人組は予定通り「逃げろー」と叫んで走り去って行っちゃったし、私のりゅーちゃんなら、騙されてくれるよね......?


そう信じて、後ろにいるりゅーちゃんの方を振り向くと、りゅーちゃんは「どゆこと?」みたいな訝しげな表情で私を見つめてた。


混乱した顔も可愛いよぉ〜!ってそうじゃない!このままじゃ、作戦が失敗しちゃう!どうしよどうしよ!



私が焦っていると、りゅーちゃんが先に声を出した。


「あははっ?えっと、これはなんなのかな、悠莉ちゃん?僕はどう反応するのが正解なのかな?」


うー、まずい、このままじゃ今日も好きって言ってもらえないまま、ただただ意味分かんないことする痛い子だと思われちゃう......。

それは避けないと!このまま作戦続行だー!



「私は今、りゅーちゃんを悪い人たちから助けました!そんな私のことをりゅーちゃんはどう思っているんですか!?」



あ、聞き方が直接的すぎた......。ほとんど素直に聞くことになっちゃった。



「えっと?ありがと?嬉しいよ?」



りゅーちゃんは「余計に混乱した」みたいな顔をしてる。もー、そうじゃなくて!もっと言うべき言葉があるでしょー!



「そ、そうじゃなくてっ。りゅーちゃんを守った私に、りゅーちゃんのハートはもうどきどきしちゃっている!違いますか!」


「え、えっと。そ、そうだね?悠莉ちゃんが言うならその通りなのかも。僕のハートはどきどきしちゃってるかも!」



うんうん、誘導成功だねっ。このまま好きって言葉まで引き出すぞー!


「そんなどきどきしちゃってるりゅーちゃんは、今、私にどうしても伝えたい言葉があるはずですっ。はいっ、どうぞ!」


完璧だ。

私の作戦が完璧すぎて怖いな。

これでようやくりゅーちゃんから好きって言葉が聞けるね!


と思ったけど、りゅーちゃんの表情を見るとどうもあんまりわかってなさそう。



「どうしても伝えたい言葉......?あ、えっと、悠莉ちゃん、怖くなかった!?怖かったよね!ごめん、僕がちゃんと守れてたらよかったんだけど」



なんでそーなるのー!ちがうでしょー!



「もうもうっ!そーじゃないでしょ!まったくー。勘違いしないでよねっ。私がりゅーちゃんのこと大好きで、りゅーちゃんから好きって言ってほしかったから、あの子達にお願いして、意地悪する振りをしてもらって、そこからりゅーちゃんを助けて、私にドキドキしてもらって、告白してもらう予定だっただけなんだからねっ」



あっ。自分から言っちゃった......。色々作戦を立てた意味がなくなっちゃった......。というか全部言っちゃった。



「あ、なるほど、そういうことだったのか。そっかそっか、悠莉ちゃんは本当に可愛いねぇ〜。よしよし〜」



ふぁっ。頭なでられるの気持ちいい〜。

もうこれでいっか............じゃない!


「可愛い」って言ってもらうのも嬉しいけど!私は「好き」って聞きたいの!



「それだけ......?他に私に伝えたい言葉、他にないの......?」



ここまで強情に言ってくれないってことは、もしかしたらりゅーちゃんは私のことは好きじゃないのかもしれない。


そんな不安が頭によぎっちゃって、ちょっとだけ涙がこぼれちゃいそうになるけど、そこはぐっと我慢して彼の腕の中で少し上を向いて彼を見つめながら尋ねる。



「うっ......可愛すぎる......」


「もぅ!可愛いって言われるのも嬉しいけど、そうじゃな......「大好きだよ、悠莉ちゃん」......くて、って、え?」


「ふふふ、いじわるしちゃってごめんね。でも悠莉ちゃんが可愛すぎるのがいけないんだよ?」


わー!りゅーちゃんより先に私が好きって言っちゃったのは予定外だったけど、りゅーちゃんがちゃんと言ってくれた!嬉しい!


私が彼に頭を撫でられながら満足そうな顔をしてたら、さらに彼が続けて話す。



「ね、悠莉ちゃん。僕の彼女さんになってくれないかな?」



あばばばばばばっ。いきなりそんなこと言われたら嬉しくて......私......。



「勘違いしないでよねっ......りゅーちゃんのこと......愛してる......だけなんだから......ね」。




*****



その日の私の記憶はそこまで。


目が覚めたときには自分の家のベッドで眠ってたんだよね〜。

聞いた話ではりゅーちゃんが気絶した私を家までおんぶしてくれたんだって。


優しくて力持ちで、その頃からほんとかっこいいよね!



ちなみにその次の日の朝、いつも通りりゅーちゃんが私の家に私を迎えに来てくれたから、家を出て出会い頭に「付き合うー!」って言って抱きついちゃった。


その日からずっとりゅーちゃんとは恋人同士なんだよね。



それから特に事件もなく、順調に中学も高校と進んだ。

学校は幼馴染のみんなとずっと一緒。



部活動はみんなそれぞれバラバラだったけど、私とりゅーちゃんは弓道部に入ってた。


そんなに本気ってわけじゃなかったけど、りゅーちゃんがやってみたいって言って入ったから、私も追いかけたんだ。



あ、そういえば、りゅーちゃんが今までで一番積極的になってくれたのって、高校3年生の弓道場でのあのときだったなぁ。



*****



高校3年生の春。もう日は暮れてきていて、弓道場にも夕日の赤みがさしていた。


部活の時間はもう終わってるから部員はみんな帰ってる。残ってるのは私とりゅーちゃんの2人だけ。



私達が残ってるのは、高校総体に向けての調整が目的ということになってる。


りゅーちゃんから、私の射法八節の姿勢がちょっと崩れてるって指摘してくれて、2人で残って練習してるんだよね。



普段はビデオで自分の姿勢を撮影して、それを確認して調整するって感じ。


だけど、その日のりゅーちゃんはなんだか違うやり方をしたかったみたいで、姿勢をとる私の腕とか肩とか足とかを触って調整してきた。



それまでりゅーちゃんは私達2人の体つきが大人に近づいていくにつれてあんまり触らなくなっちゃってたから、りゅーちゃんから私に触れてくれるのが正直嬉しい。



そ、それにしても、りゅーちゃんの手付き、なんだかえっちくないかな?

いや、これ確実にわざとやってるよね!?


際どいところを触ってくるりゅーちゃんに、私の身体は気持ちよくなってきちゃって、姿勢はどんどん悪くなっていく。


りゅーちゃんはそれを好機とみたのか、どんどん強く触って矯正しようとしてくる。

そしてついには私の大切な部分にまで手を伸ばしてきて......。



も......もうだめ!


「こらっ、りゅーちゃん!だめでしょ!」



高校生になって、私とりゅーちゃんの関係は小さい頃とはちょっと変わってきている。


私の方がお姉さんっぽく引っ張って、りゅーちゃんはそれについてきてくれるって感じの関係になってる。

だからときどき、やりすぎたりゅーちゃんをこうやって叱ったりしてるんだ。



私が「めっ」と言っておでこをつつくと、あははと笑ってごまかされちゃう。


しかもりゅーちゃんはあろうことか私が悪いことにしたいみたいで、「悠莉ちゃん、どんどん姿勢悪くなってるよ」なんて言ってくる。



「そ、そんなのしょーがないでしょー!っていうかりゅーちゃんのせいじゃない!」


「えー?僕のせい?なんのことを言ってるかわからないなぁ〜」



ちゃんとした口笛が吹けるくせに、敢えて音が鳴ってない口笛でごまかす仕草をする。

相変わらず可愛いなぁ〜。


でも今日は許してあげないよ!

私が恥ずかしい思いしたんだから、りゅーちゃんにもしてもらわないとね!



そう思っていたずらしようと、しゃがんでばっとりゅーちゃんの袴を勢いよくまくってみた。


すると目と鼻の先に、布越しだったけどすごく立派な山がそびえたっていたのを今でも覚えてる。



私はそれを見てびっくりして腰を抜かしちゃって立てなくなってたんだけど、りゅーちゃんの顔を見たらものすっごく興奮してるのがわかって......。


その荒い息遣いがとっても可愛くて、男らしくて素敵だなぁって見とれちゃったんだよねぇ。



でもりゅーちゃんは凄く理性的で、「初めてを学校でするのはロマンチックじゃない」なんて言って、急いで着替えて一緒に帰った。

それからすぐに私の部屋に押しかけてきて、ちょっとの痛みと素敵な気持ちを味わえる夜をプレゼントしてくれたんだよね。


そのときのりゅーちゃんも可愛かったな。


私が痛がってるのを見て、「大丈夫?今日はやめる?」なんて、絶対やめられなさそうな表情で聞くんだもん。



「勘違いしないでよねっ。ちょっと痛いけど、このまま続けたい気持ちしか無いんだからね!もしやめたらパパに、りゅーちゃんにレイプされたって伝えるんだからね!」


「い、いやいや!それはやめてね!うん、気を遣ってくれてありがと。じゃあ、このままゆっくり続けるね?」



そんなこんなで素敵な夜が過ごせたんだぁ。


パパとママはりゅーちゃんのことよく知ってるし、あの日うちにきたりゅーちゃんを見て泊まっていくのもわかってたと思う。

それに私達の反応から、夜になにが起こるのかわかってたんだろうね。


私が知らない内にベッドの枕元にゴム製品の箱が置かれてて、恥ずかしかった......。

結局、私達が買ってきたのと合わせて2箱全部使うことになっちゃったんだけどね。


おかげで思いっきり肉をぶつけ合うことができたよ!

ありがとうパパ、ママ!



次の日は2人とも腰が痛くて、受験生なのに学校を休んじゃった。


お昼ごろには回復したから、そのまま晩御飯の時間までシて、さらにその後も夜が更けるまでシてた。



次の日は頑張って学校に行ったけどね。




*****



とにかく、この日はりゅーちゃんがいつになく積極的に私にアプローチしてくれたんだよね。


弓道の姿勢を治す、なんてのも、ただの建前で、私の身体に触る口実だったって言ってた。



その日からは2人ともお猿さんになったみたいだったなぁ。


でも実は勉強に関しては、弓道を引退してからは、というかずっとおろそかにしたことはないんだよ!



2人とも成績は良かったし、一応の目標もあった。



私達はお互いを護る力をつけるために、法律の道に進みたいと思っていた。

だから大学は同じ国立大学の法学部を目指してたんだよね。


成績はある程度維持できてたっていっても、流石にリビドーを晴らす術を見つけた若い私達がそっちに没頭しがちになるのも、むりからぬことだった。


夕方の気温が肌寒く感じる頃になって、模試の結果を見ると2人とも合格圏から外れてしまっていた。


流石にやばいと思い出した私達は、それから大学に合格するまで交わるのを禁止することにした。

頑張った。でもチューはたくさんした。


おかげで2人ともなんとかぎりぎりで現役合格できた。

私達は2人とも法学部。


幼馴染のみんなも、結ちゃん以外は、学部は違ったけど同じ国立大学に進学できた。

大学まで仲良しなんて、本当に運命だよね!


大学での生活もりゅーちゃんと一緒に居られて、幸せだったな〜。



*****



大学に合格できた私達は、それまで禁止してた行為を全部解禁した。


大学進学と同時にりゅーちゃんが一人暮らしを始めたのもよくなかった。

いや、とっても都合が良かった。


私達は法律の勉強をしてるか、幼馴染のみんなと遊んでるか、お互いの肌をぶつけ合ってるか。

そのどれかばっかりしてたんだよね。


りゅーちゃんと私は講義もほとんど被ってた。

というか被せた。


最初りゅーちゃんは「はは、講義までかぶるなんて、僕ら以心伝心だね」なんて言ってたけど......。



「勘違いしないでよね。私はこの講義の内容に興味があったんじゃなくて、りゅーちゃんの受講申請を覗き見て、一緒の授業をとることにしただけなんだからね」って素直に言ったら、驚いた顔をした後に、優しい顔で私の頭をなでながら、「嬉しいけど、後期からはちゃんと悠莉ちゃんがしたい勉強を、するんだよ?」って諭してくれた。


やっぱり私の彼氏は最高に良くできたひとだ!かっこよくて、可愛くて、賢くて、夜のリードも上手。さらに気遣いまで完璧。


結局、純粋に自分で選んだ後期からの授業も、ほとんど一緒だったんだけどね。





なにはともあれ、こんな素敵な人好きにならないほうがおかしいよね!

幼馴染のみんなはなんでりゅーちゃんのこと大好きにならないんだろ?

不思議だなぁ〜。


まぁ、幼馴染たちはみんなそれぞれパートナーになってるから、りゅーちゃんをとられちゃう心配はしてないんだけどね。

でも、それ以外の大学の女の子たちはとっても心配。


優良物件中の優良物件のりゅーちゃんに言い寄ってくる女の子は数え切れなかったし、男の子がりゅーちゃんを合コンに誘って、客寄せパンダみたいに扱おうとすることも何回もあった。


私も声をかけられることはそれなりにあったけど、一切興味がわかなかったから適当に断ってたけど、りゅーちゃんは優しいから断りきれなくて、「じゃあ今回だけなら」みたいになってることがあった。


そんな日は、1次会は仕方ないから許したけど、2次会は絶対に行かないようにしてもらって、他の女の子の匂いをつけてないか、ちゃんと確認してキスマークを付けまくるラブラブな共同作業をするようにしてた。



私がにらみをきかせまくったおかげで、2年生に上がった頃には彼にも私にも下心で寄ってくる人はほとんど居なくなってた。




だからりゅーちゃんとの関係は安泰だな〜、なんて思ってた矢先、大学2年生の末、幼馴染のゆいちゃんととおるくんが結婚した。


結ちゃんは大学には進まずに声優さんになっていて、透くんは私達と同じ大学の経済学部に進学していた。

透くんが一人暮らしを始めたのは知ってたし、結ちゃんがそこに入り浸るように過ごしてたのも知ってた。



だから、そのときに話を聞いて逆にすっごくびっくりしたんだけど、なんと彼らは結婚の話をするまで付き合ってすらいなかったんだって!


結ちゃんなんて、私達が小学校1年生のころには透くんのことが好きって言ってたのに。

しかもほぼ同棲してたのに付き合ってなかったなんて!



一瞬は「透くん不純だよ!」って思ったけど、聞いた話では透くんが結ちゃんの外堀を埋めるよういろいろ工作して、おめでたく結婚に至ったんだとか。


それくらいの漢気を見せてくれたみたいだから、それまでの多少の不純は大目に見てあげてもいいかなって思えた。



あの子達の結婚は、純粋に嬉しかった。

でも彼らの結婚式に参列したら、私もどうしようもなく結婚したくなってきちゃって、その後も結婚の話を全然してくれないりゅーちゃんにヤキモキしてきちゃったんだぁ。


だから、りゅーちゃんの一人暮らしのお家のテーブルに、ゼ◯シィとかた◯ごクラブとかを置いてみた。


そしたらすぐにりゅーちゃんは反応してくれた!期待した反応じゃなかったけど。



「この本、悠莉ちゃんのやつ?掃除するから本棚に直しちゃってもいいかな?」



どうやらりゅーちゃんはそういう本がテーブルに置いてあることの意味とか全然知らないみたい。

もうっ、相変わらず鈍感可愛いんだから!


でも、このままじゃ嫌だから、直接言っちゃおう!



「勘違いしないでよねっ!私はただ、結ちゃんたちの結婚式が羨ましくて、私もりゅーちゃんと結婚したい気持ちが抑えきれなくなっちゃってるだけなんだからね!......その本は早く結婚したいなっていう意思表示の意味しかないんだからね!」



私がそう言うと、りゅーちゃんはすごく嬉しそうな顔をした後、真剣な表情になって告げる。



「僕も悠莉ちゃんと結婚したい!でも、まだダメなんだ!僕がしっかり悠莉ちゃんを支えられる自立した男になれるまでは、待ってもらえないかな!」



もっ、もー!そんな素敵な事言われちゃったら断れないでしょー!

このっ、優男っ!イケメンっ!じっくり自己研鑽しなさいよねっ!



*****



それからも順風満帆に進み、私は学部を卒業したあと法科大学院に進んで、りゅーちゃんは学部3年生のときに幼馴染たちと立ち上げた会社で法務の担当をするようになった。


さらに数年後、私は検察官に、りゅーちゃん達の会社はかなり大きくなっていた。



そんなわけで私達が30歳になったころには、生活の基盤がかなり安定していた。


だから、そろそろかな〜と思って、2人で住んでる部屋のリビングのテーブル、久しぶりにゼ◯シィを置いてみた。



前にやったのは何年も前だったから心配だったけど、りゅーちゃんはちゃんと覚えててくれたみたい。


本を見てすぐ「あぁ、そろそろだよね」と呟いて、自分の部屋に行ったかと思うと、すぐに引き返してきた。


その手には、明らかにそれ・・とわかるものが握られていて。



「悠莉ちゃん。遅くなっちゃってごめんね。長い間待たせちゃったけど、僕と一生、一緒の家庭を作ってくれないかな?」



もちろん即OKしたよ!


その後りゅーちゃんは「じゃあ、明日にでも市役所に婚姻届を取りに行って、父さんたちに証人のサインを貰いに行こうか」なんて悠長なこと言うから、ちゃんとわからせてあげた。



「勘違いしないでよねっ!あとはあなたがこの婚姻届にサインするだけでいいんだからね!うちのパパとりゅーちゃんパパにはもうサインしてもらってるんだからねっ」



ほとんどの欄が埋まったその婚姻届を見せると、りゅーちゃんはちょっとだけ不思議そうな表情をしていた。



「どうしたの?なにか間違いとかあった?何回も確認したし、ないと思うんだけど?」


「い、いや、別にいいんだけど、僕らの名前。僕の名字の『日舞ひのまい』じゃなくて、悠莉ちゃんの天使あまつかなんだね?」



あぁ、そのことか!



「勘違いしないでよね!あなたがワタシのものって皆に知らしめたかったから、婿入りしてもらって名前をワタシのものにしてもらえるよう、パパたちにお願いしただけなんだからねっ」



そう伝えるとりゅーちゃんは「なるほど!悠莉ちゃんは天才さんだねぇ〜」と言って頭を撫でてくれる。

いくつになっても撫でられるのは幸せだなぁ〜。


法廷に現れるクズ男たちとは生物としての格が違うよぉ〜。

この人は何があっても私が守り抜くぞ〜!







「おぎゃぁー!おぎゃー!おぎゃぁーーー!!!」




結婚からさらに数年後、私達が34歳のとき、子どもが生まれた。


理人りひと」と名付けたその男の子は、私のお腹から出たばかりだけど元気いっぱい。


そりゃあ、毎日毎日私の身体を掘り続ける体力があるりゅーちゃんとの子どもなんだから、元気いっぱいで当然か!


ふふふっ、これからさらに幸せな生活がおくれちゃいそう♫



そう思うと私の頬に一筋の涙が流れる。


赤ちゃんを抱いていたりゅーちゃんが、涙を流す私を見て「大丈夫!?痛いの!?しんどいの!?」と心配してくれる。


さっきまでずっと「悠莉ちゃん、本当に頑張ってくれてありがとう。ありがとう」って言い続けてくれたし、私をねぎらってくれてるのが凄く伝わってきて、嬉しい気持ちでいっぱいになる。

でも、このままじゃ心配かけ過ぎちゃうよね。



「勘違いしないでよねっ。あなたとの愛の結晶が無事に生まれてきてくれて、嬉しすぎて泣いてるだけなんだからね!」



*****



私達の子どもはすくすくと育ってくれた。


それでなんと、息子の理人りひとちゃんは、ゆいちゃんととおるくんの子どもの神楽遥かぐらはるかちゃんと結婚した。


理人ちゃんと遥ちゃんの間には、さらに4人の子どもたちが生まれた。


そう、いつの間にか私達はおじいちゃんとおばあちゃんになっている。







今、りゅーちゃんは病院のベッドの上。


息子夫婦と孫たちは自宅にいる。だから今は隣には私しか居ない。


りゅーちゃんの手をとると、私と同じシワがたくさん刻まれた水分の少ない手の感触が伝わってくる。


彼の手を握っていると、気づけば瞳が水分を多く含んでいくのを感じる。



もう力も入らない様子のりゅーちゃんに、声をかける。



「アナタ。今日はもう......お疲れなのでしょう......?ゆっくり、休んでね?」



その私の語りかけに、弱々しくも優しい声で返事をしてくれる。



「あぁ、そうさせてもらおうかな。でも、その前に一言だけ」



なんだろう?これが最後の言葉になるのかな......?



「悠莉、勘違いしちゃあいけないよ。僕は君と一緒に歩めた人生、ずっと幸せだけ感じてたんだからさ。これまでも、これからも、辛くなんてないんだよ?..................でも、いつも気を遣わせてしまった君を置いて先に逝くのだけは、謝ってあげなくもないよ」



もぅ、この後に及んで、何を言ってるの。


あぁ、そういえばあなたがそんなツンデレみたいなセリフを言うのは、これが初めてだね。

というか私も最近はめっきり使わなくなってしまってた表現なのに、よく覚えてたね。



傍から聞いていれば謝罪になっていない高慢な宣言にも聞こえなくもないけど、少なくとも私達の間では愛情の証だって伝わってる。


また涙が溢れそうになるけど、ぐっと堪えて笑顔を作って、できるだけ優しい声で語るよう努める。



「アナタこそ、勘違いしないでよね。ずっとずっと、ただあなたの心を釘付けにしたかっただけなんだからねっ。それに、私の方がアナタよりずっと幸せだったんだからね......。ぐすっ。すぐに......アナタの元へ行ってやるんだからね」



私が久しぶりに吐いたこのお決まりのセリフに合わせて、彼もいつもと同じように、右手を私の背中に回してぎゅっと抱きしめながら左手で優しく頭を撫でてくれる。


それで「ははは、そう、そのセリフが聞きたかったんだけどさ。最後のは、ちょっと聴き逃がせないよね」なんて言って続ける。



「............悠莉、すぐに来たら僕はかつて無いほどに怒るからね?」


「もう、ひどい人。だけど、うん、わかってるわ。勘違いしないでよね。言葉の綾なんだから......」



彼が「ははは、それならよかった」と言って笑う。あぁ、もう凄く眠そう。これで、お別れなのね。



「悠莉。勘違いする余地もない、まっすぐな愛を......ずっと......ありがとう......ね」



そういって眠りに落ちた彼が目を覚ますことはなかった。





だけど、勘違いしないでね。私には何も悔いなんて残ってないんだから。

だって、この人生すべてをかけて、あなたの心を釘付けにしようと全力でがんばりきったんだからねっ。

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