第7話 弱虫で泣き虫な僕が前を向くと決めた日
むせかえるような暑さが印象的な梅雨の日。
僕らは前を向くことを亡き父と兄に誓った。
母さんは髪色を明るくし、よく笑うようになった。
僕は分厚い黒縁メガネとおさらばし、守ってくれていた前髪にはさみを入れる。野暮ったい髪型を変えようと美容院に足を運んだ。心機一転とばかりにバリカンで後ろを刈っていく。流行りに乗ってツーブロックに。黒艶の地毛を活かしてみたがなんだか落ち着かない。部活にも所属していない色白隠キャではなめられると、母さんに頼みこんでボクシング、剣、水泳にも通い始めた。勿論トレーニングにために行きも帰りも自転車。交通事故にだけは遭わないでと何度も何度も注意はされたが。
連休明けの登校。僕はいい感じにこんがり小麦色に焼けうっすらと腹筋が割れ始めていた。母さんとの会話も増え、自分に自信を持つことができた。嬉しいことに身長も伸び始めていた。成長期真っ盛りの男子っぽくお弁当を2つ持たせてもらい2Lの水筒を片手に担ぐヤンキースタイルで現れた僕にクラスメートはおろか先生達も驚愕の表情を浮かべていた。髪を金髪に染めていたらそれこそ学校中の話題になったかもしれない。
見回りの先生に見つかったアイツはこってりと絞られたらしい。僕が休んだあの日目は血走り、髪はボサボサ、ピアスまで開けてきたアイツは血眼になって僕を探したらしい。まあみつかりっこない。休んで正解だったと安堵した。全て唯一見た目の変貌にも恐れずに話しかけてくれた隣の席の女の子から聞いた話だ。
「ずっと見て見ぬふりしてごめん。そうたくんが休んでから気づいたの。限界が来てるって。心のどこかではターゲットが私になることを怖がってた。そうたくんが変わったなら私も変わらなきゃって。図々しいかもしれないけど今日からは私が味方になるから。」
文字通り目を丸くした僕に彼女は笑った。兄ちゃん、父さん見てくれてるかな。こんな僕のことを見てくれて、助けてくれる人がいたよ。僕はちゃんと変われたみたい。
「おい、そうた調子乗ってんなよ。」
今までは聞くだけで落ち込んでいたアイツの嫌味ったらしい声ももう平気だ。僕と彼女は椅子を引いて立ち上がる。晴れやかな笑みを浮かべた僕らに圧倒されたのはアイツに方だった。
僕はこの先何度だって失敗して落ち込むだろう。それでも僕を信じてくれる人のために走り続ける。諦めないことは簡単なことじゃない。でも続けた先には絶対イイコトが待ってる。僕は変われた大事な人たちのおかげで。誰かは君の頑張りを見てくれている。
この世に必要ない人なんていないんだ。まずは自分を変えることから始めてみないか。
リスタート 紀伊航大 @key_koudai
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