エピローグ

 ──春、夏、秋、冬、四つの季節が

   環になって巡るならば、春と秋は対角線。

   決して交わらない。


   けれど私には脚がある。腕がある。

   対角線上にだって向かえる。手を伸ばせる。


   筈だった、そうしなかったのは私のせい。


   春の空は霞んでいる。

   だから柔らかいのだと思う。

   秋の空は澄んでいる。

   だから鋭く深いのだと思う。


   その澄んだ空の先を

   見ようとしなかったのは私のせい。

   その霞んだ空の先を

   覗こうとしなかったのは私のせい。──





 その日の夕暮れは、ひどく空が燃えていた。

 燃える赤の中に白い飛行機雲が伸びていた。

 しばらくすると、その直線は溶けて、ほどけた。

 白く、ぼんやりと歪んだそれが

 私には秋の高く赤い空を舞う白い龍に見えた。


 妹は、重たく美しい肉の身体を脱ぎ捨てた。

 そして白くて軽い、妹だった何かを残して

 雲のようにどこかに消えた。


 私にはもう、掴めない。


 それはたぶん、私のせい。


 これはただの、私と妹の話。

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天使のカラダは冷えている 石橋めい @May-you

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