アッティア叙事詩―アッティア・エトフィカ

うめ屋

Etphica

いやはるかなる 古代いにしえ

いまだ天地の 境なき

羊水マウィドの野原 鹿脂カルシの天

世はなべて定めなく

波濤おおなみ鳴らし 雲を混ぜ

雷雨と風と炎より

父なるかみ 天空神スラヴァーン

闇のはざまに 生まれでし

世はなべて煮こごらず

霧と光と蘇苔モスルより

母なる御神 大地母神ナハティシュヴェト

泥のはざまに 生まれでし

二神交わり 法悦よろこび震い

その汗、涙 あまたなる

精霊スフィールと化し 地に注ぎ

土と水とを 生みなせり

草木と花を 萌え出せり

二神交わり 法悦よろこび震い

その精、津液カウォド あまたなる

鳥と獣を 生みなせり

虫と魚を 孕みけり

母なる御神 大地母神ナハティシュヴェト

ついに生せるは 黄金こがねなる

実りの麦穂 富めるたね

このひと枝を 真白なる

渡り雀スラ・カーリアに び給う


渡り雀スラ・カーリア 天を翔け

平原駆ける 神馬の王

焔馬ラッカ・フォルマと 契りなし

生まれ出たるは クナイグシュ

紅の血と 白きはだ

金の髪もつ 珠の男児みこ

やがて長じし クナイグシュ

神馬の背に乗り 群れを

エルスラ山の ふもとなる

清き湖 見出しけり

清きさおき 水の原

かがやく乙女ら 集いいて

水を跳ね上げ 露を浴び

いとおかしげに 遊びいる

これを見初めし クナイグシュ

一にうるわしき 乙女見て

黄金こがねなる穂を 差し出だし

永久とわの婚媾 乞い求む

されども乙女 いやしみて

この求婚つまどいを 拒みけり

大いに恥じし クナイグシュ

一の乙女を 奪い去り

群るる神馬も それぞれに

乙女を背負い 走り去り

力ある男 クナイグシュ

一の乙女を 妻とせり

憐れなる乙女 アウェディアは

神馬の脚と

遠き渡り雀の目とを持つ

さやけき子らを 生みなせり

他なる神馬と 乙女らも

あまたの神馬 生みなせり


平原の王 クナイグシュ

子らとひとつに 神馬を

果てなき大地 駆けいるも

王のすえの フィンキエフタ

黄金こがねなる穂を 盗み出し

常磐イヴァン・ツォルドの 森へゆき

樫の樹の王 ドオルドの

そっにひれ伏し 接吻チタを投げ

冴えたる美貌かおもて 慈悲を乞い

巧き舌もて 騙りかけ

王よりいくさ 下されし

さても父なる クナイグシュ

フィンキエフタの 咎を知り

神馬の群れて 弓を持ち

森のいくさを 襲いしも

樹の精霊スフィールら 迎えうち

堅き楯もて 矢を弾き

王クナイグシュの 眉間トゥマを撃つ

んぬるかな クナイグシュ

神馬の背より 転げ落ち

あたら命を 散らしてむ

くしてし 神馬たち

フィンキエフタの 罠に陥ち

虜囚とりこの身とぞ なりにける

王クナイグシュの 子どもらも

フィンキエフタの 奴婢となり

この王の前に 額ずけり


新たなる王 フィンキエフタ

ドオルドの娘 クァーンを娶り

その華燭のうたげにて

兄ら神馬らに 火矢持たせ

森ことごとく 燃やしけり

樫の樹の王 ドオルドも

この姦計に 陥とされて

銀の灰とぞ なりにける

灰は銀河のごと流れ

焦土あまねく 豊かなる

黒土満つる 土地となり

黄金こがねなる穂を 撒きやれば

かがやく麦の 波となり

その粉挽けば 尽きもせず

その粉焼けば かぐわしく

いとうまき糧 清きたね

みなの口と腹とを満たし

乙女クァーンは 健やかに

薔薇の頬した 男児みこ生せり

麦色の髪と 目とを持ち

笑みうるわしく 晴れやかに

黎明児ハラルケシュとぞ 呼ばれける

さても父なる フィンキエフタ

るごとに 荒らかに

鞭もて神馬の 尻を打ち

腕もて乙女の 処女を

酒と蜜とに 溺るれば

男児みこハラルケシュ これを止め

そっに伏して 諫むるも

強欲の王 フィンキエフタ

子ハラルケシュの 頬を打ち

妻クァーンをも ねじ伏せて

麦の畑を 踏み荒らし

弓もて穂波 薙ぎければ

みなおどろくも んかたなく

嘆きの怨嗟 天に満つ


清きまなこの ハラルケシュ

みなの嘆きと 悲哀を見

強き鋼の 剣を砥ぎ

母クァーン為す 手引きもて

眠れる王の 臥床ふしど

そのに剣ぞ 刺してける

ちわびし王 フィンキエフタ

身は野に置かれ 禿鷲カリュディア

裁きを受けて 屍肉カルとなり

手足は北に 骨は南に

はらわたは西に 血はひんがし

とことわにかえらぬように

とどめ置かれて 失せにけり

情け深き子 ハラルケシュ

囚われしおじや 神馬らを

くびより解き 膝を折り

父の所業おこない 詫びぬれば

おじ、神馬たち 返礼し

永久とわの忠誠 誓いいて

この若者の前に額ずき

王たらんことを こいねが

かくて優しき ハラルケシュ

黄金こがねなる穂を 髪に挿し

新たなる王と なりにけり


聡明なる王 ハラルケシュ

みなの前にて 言うこと曰く

この地は父の 血に穢れ

肉と臓物はらとに 染められし

呪われたる地 魔霊ユルの原

さればいまこそ これを離れ

我ら流浪の 民とならん

しかして王と 一族と

革の袋に 麦を詰め

神馬のせなに またがりて

黄金こがねの原を 後にせり

王ハラルケシュは 野を駆けて

忌むべき魔霊ユルが あらば討ち

悪しき賊ども 蹴散らして

囚われし者を 救い出し

飢えし民らに を与え

大地あまねく 治むれば

あまたの民草 これを

みなハラルケシュを 王として

従いし者 増えゆけば

地を駆ける民 野を覆い

雲なす人々アルタ・テーアと 呼ばれけり

王ハラルケシュ 名を改め

雲なす人々アルタ・テーアより取りて

みずからりて

名乗るは ハラルケシュ・アッティア

この果てしなき 地を守護す

巡邏の民と ならんとす

かくして王の ハラルケシュ

つねに神馬の 背にありて

弓をたずさえ 民草と

風と光を 友として

永遠の野を 駆けゆけり

永遠の地を 治めけり

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アッティア叙事詩―アッティア・エトフィカ うめ屋 @takeharu811

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