第4話

「カール様、この農民たちはどうしたんですか?」

「村から全員連れてきた。今日からこの家で働くことになる」


 先程、納税が一番少なかった村に赴き、全員連れてきた。総勢11人。

 別になんの策もなく連れきたわけではない。


「何か策があるんですね?!」

「当然だ」

「お聞かせくださいカール様っ!」

「後々わかる」


 さて、


「お前たち、無理を言って悪かったな」

「いえいえ! 領主様のためならば、私共は死だって恐れませぬ!」


 村長らしき中年の男がそう答えた。


「うむ、助かる。お前たちには、カルロス家直属の部隊として、これからここで働いてもらう」


 農民から歓喜の声が上がった。

 予想通り。

 ここで働けば三食保証されるのだから、農民をやっているよりかなり割がいいはずだ。

 通貨の信用が落ちていたせいで、不利な条件で取引させられていたらしく、こいつらの生活はかなり厳しかった。


 当然といえば当然の結果だ。


 女男が半々で、子供が一人。弱小領地の部隊としては、まあ、それなりの規模の軍隊が手に入ったな。

 俺と違い、訓練すればレベルも上がるはずだ。


「早速だが、お前たちには街へ赴き、領主が改革に従わない村を滅ぼしたという噂を流してきて欲しい」


 当然、反対の声が上がる。そして隣からは驚きの声が上がった。


「なぜそんなことを!? カール様はすっごく優しいお方なんですよ!?」


 と、セーリャ。


「そうですよ! 領主様は、生活の苦しい我々に住むところを提供してくださり、食の補償までしてくださった神のようなお方!! 領主様のお顔を汚すようなそんなことはできませぬ!」


 事情を聞いてわかった話だが、あの親父も別に悪い人間ではなかったらしい。

 貧しい農民からはあまり税をとらないように、一気に税を下げたと言っていた。

 これがおそらく、こいつらの忠誠心に繋がっているのだろう。


 まあ、その後のケア……主に通貨に関わる諸問題は怠っていたようだが。


 素直に憎ませてくれればいいものの。あのクソ親父め。


「急な改革を進めるゆえ、当然反発するものが出てくることが予想される。その度にいちいち対処に手をこまねいてはあっという間にこの領は隣のフランドル家に奪われてしまうのだ。とにかく時間がない。恐怖支配ならば多少の期間はそれで強引にことを運べる………と、ついて来れていないか」


 農民が皆キョトンとした顔をしていた。

 隣を見れば、同じくセーリャも全く何を言ってるのかわからないと言った顔をしていた。


「世話役のお前は理解しろよ」

「ああ! 今バカにしました?!」

「ふん、それ以外に何がある」


 ぷりぷりと怒りを見せるセーリャは置いておいて、改めて農民の方を振り返る。


「まあとにかく、俺のためを思うなら言った通りにしてくれ。特に店の人間には重点的に当たれ」


 渋々と言った様子で頷いたのを確認し、成人した農民以外を街へとかり立たせた。

 すると、一人残った農民の子が不安げに俺の方をチラチラ見る。


「安心しろ」

「りょ、りょーしゅさま………」

「お前には特別な役割を与える」


 10くらいの女の子だ。ところどころ土のついた麻布を着ているが、ソフィアを彷彿とさせる黒く長い髪には艶があった。よほど親に大切にされているのだろう。


 数日前の俺のと同じような服装だな。


「とくべ……つ?」


 先ほど分かったことがあるのだが、農民は皆、読み書きができない。

 農民が勉強に時間を割くことができない環境にあることが一番の原因なのだが、

 学校もあるにはある。

 ただ、今のところ農民の子がいけるほど安くはないのが現状だ。


「お前は勉学に励め。セーリャ、ソフィアにこいつの世話役も牽引するよう伝えておけ」

「わかりました!」



 それから半年。



 農業改革をはじめ、様々な改革を行なってきた。

 予想していた通り、新領主の暴君っぷりは瞬く間に広がっていったため、反発もなく順調に改革が進んでいた。


 一番の狙いだった、『ばカルロス』と揶揄されていたカルロス通貨の価値向上だが、農地からの食料を当家で専売し、輸出入に高い関税をかけることで、


 領民は安い領内産の食料を得るために、カルロス通貨を欲したため、需要が高まりすぐに価値が取り戻された。


 それではとどまらず、二種類の通貨を使うことがめんどくさいという理由から、領内ではカルロス通貨への一本化が始まり、食物を安く買い叩いていた農商や、思うように商売のできなくなったフランドル領の商人は自ら手を引いていった。


 結果として作戦は大成功。専制が功を奏したらしい。

 だが同時に、問題も発生した。


「カール様! またフランドル領からの使者が!」


 ここ最近、頻繁にフランドル家の使いが来るようになったのだ。

 理由は簡単で、商人がここから撤退し、高い関税を掛けたために、自分の領地の税収が減ったからだろう。


 要求はただ一つ、それを撤廃しろということだ。


 当然、答えはノー。

 だが、今回で10度目。

 その熱意を認め、今回は話を聞いてやらんでもない。


「また追い返しますか?」

「いや、今回は話を聞いてやろう。領主の間に連れてくるよう伝えろ」


 セーリャが返事をして出ていったのを確認し、おれも計画が順調に言っていることをほくそ笑みながら、いそいそと応対の準備を始めた。


 しかし、この時はまだ、この面談が予想だにしない出来事の発端になるとは、今の俺は気づいていなかったのである。

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最低クソ弱貴族の後継者〜レベル1の二代目領主は知識チートで皇帝へと成り上がる〜 @サブまる @sabumaru

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