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 ある劫のある日。方舟にて。

 零花を一つめの贄として、地殻がマントルに沈む。

「なあ久、生命が神に楯突いているとしたら、それはどんな状態だ?」

「生命が神にとってのマクガフィンの範疇を超えることが、神に楯突くことになる。番狂わせをすればいい」

「おれたちは神にゃ遠く及ばん。どうすりゃいい」

「……槍の使い道、やっとわかった。これは道具じゃない」

 眼下に広がる大焦熱地獄に二人、身を投げた。



 次劫のある日、方舟にて。

「というわけだ。前の世界は神を一等分する器を失ったにもかかわらず、平然と己を畳み、この世界を生み出した。並行世界として数多く存在する中から、器を失っても続くことのできる、都合のいい世界線が選ばれた」

「……つまり?」

。都合のいい世界線に神は必要なかった。神が世界を創ったということすらただのシナリオで、並行世界とその取捨選択というシステムに、神すら敵わなかったということだ。名残としてこの、もはや過去を記す歴史書でしかなくなった仕様書だけが、前の世界から引き継がれている」

「私はもう、なんにも知らされないまま殺される必要はないってことね」

「その通り。世界を終わらせるべく奔走する必要はない。うちへ帰ろう」


 二人向かい合って狐を抱く。

 今年の炬燵は二人分も狭まった。

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一劫にて愛を誓え 雷之電 @rainoden

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