罪と共に歩む道

天城 八雲

プロローグ

「さっさと、歩け!」




 閑静とした通路から怒声が響く。


 怒声の主は、全身を鎧で身に包み込み、帯剣した完全武装の兵士。


 その右手には鎖を持っており、その先には一人の少年の首輪に繋がっていた。


 成人をまだ迎えていないのだろう。何処か幼い印象が残しつつある少年。


 しかし、全てを燃やし尽くさんと言わんばかりの灼眼に赤髪、そして少年が醸し出す威圧的な雰囲気が唯の少年だと一切感じさせない。


 何より、少年の四方を完全武装した兵士が囲い、両手両脚を拘束するためには余りにも過剰にも見られる頑丈な手錠。首には鎖付きの首輪がついており、先程の鎖とは別に鎖が有り、左右の兵士が一本ずつ握っているその状況が威圧な雰囲気に拍車をかける。


 そうして歩いていると、二人の兵士が立つ扉の前に到着する。




「罪人を連行して参りました。扉の開門をお願い致します」




 連行して来た兵士の一人が門番に告げると、門番は少年を忌々しいと言わんばかりの視線を向ける。


 視線を向けられた少年は一切気にした様子を見せず、ただ真っ直ぐ前だけを見据えていた。




「貴様、何だその態度は!!」


「おい、落ち着け。ここで、騒ぐと後で上にどやされるぞ」




 少年の態度が気に入らず、詰め寄ろうとする同僚に対して、相方の門番が静止する。その言葉で怒り何とか抑えるが、苛立ちから舌打ちを行い、何とか気持ちを落ち着かせ、相方に視線を向け、相方も頷きで返す。




「「罪人が到着しました。これより、開門致します」」




 二人の門番は扉の中にも聞こえる様に、大きくはっきりした言葉で告げると、門を開けた。


 門の先には、少年が見た、自分の今までの人生とは一切縁のない豪華な服を着た人間が大勢いた。




「…アレが例の…」


「何て恐ろしい…」


「早く消えて欲しいわね…」




 室内では中央にある台に向かって歩く少年に対して、恐れ、怒り、興味などありとあらゆる感情をはらんだ視線と心ない言葉が遠慮なく降り注いだ。


 視線を向けられた少年は、視線に対して一切興味を示さず、胸に一つの感情を抱き台の前に到着をする。


 少年が台の前に立つと、少年の反対側、少し見上げる位置の席に座っている男が右手に持っている木槌で机を二度叩くと、室内が一瞬で静かになる。




「これより、法廷を開廷する。罪人は前に」




 裁判官の言葉に、鎖で引かれる前に少年は証言台に立つ。




「これより、罪人ウルム村ゼフによる子爵アルバッハ・ダイム子爵一家及び家臣一同殺害の裁判を執り行う」


「罪人ゼフ、神聖歴一一八二年四月十七日、ダイム子爵家に襲撃。子爵一家を守る騎士団を共々ごと殺害。その後屋敷に火を放った後、屋敷に居た使用人も殺害を行った。この調書に間違いないか」




 問われた少年―ゼフは、あの日出来事、あの日の思いに胸の感情の火をさらに燃え上がらながら、真っ直ぐ裁判官を見据える。

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