第48話
汝の敵はどこにいる。
山か、森か、川か…いやいや、後ろだ。
「人類は魔物に慣れすぎたな。そして今、人の面を借りて化ける魔王が紛れ込んでいる。それを成敗するのが俺の仕事だ!俺を止めると言うならば、お前らも魔王の眷属として成敗してやろう!!」
「はあ?!意味わかんねぇ!うちらは生まれも育ちも人間界だっつーの。お前らの方が魔物に近ぇわ!」
「ケイド…前はそんな人間じゃなかったろ。ちゃんと面倒見が良くって、正義感が高くってよ。お前らもだよ!なんちゃら隊の皆さんよぉ…!おかしいと思わねえのかよ。1人の人間を寄ってたかって。ガキかよ!自分でちゃんと考え持てや」
「持った結果がこの部隊だよ。あれは魔王だ。魔王が更に力をつける前に…始末しないといけない」
聞く耳持たず。
ケイドは目をギラつかせて、魔王狩りのことしか考えていなかった。
「俺らに歯向かうと言うならば、お前らも敵と見なす!!…いいよな、ギルドの嬢ちゃん」
ギルドから派遣されてきた監査員とはギルドの受付嬢だったのか。
ケイドに守られるように後ろ隠れていた女性が姿を現す。ギルドの代表となるのだ。彼女の答えが全てを動かす。
「………」
カペラとアルデバは彼女の気迫に圧倒される。
毎日ガサツな冒険者たちを捌いているだけはある。
見かけだけではないようだ。
「黙認します」
「は?」
驚いた…というか、ありえない。
秩序を守るギルドが人同士の争いを許可するなんて前代未聞だ。
常に中立で、人の味方であり続けるギルドが許可したなんて…聞いたことがなかった。
「おいおい、嬢ちゃん!正気か?何を根拠に…!!」
「それがギルドの決定だ。ならば遠慮はいらんな!!行くぞ、お前ら。目の前の眷属を根絶やしにしろ!!」
「「「おおおおお!!」」」
ケイドが率いる隊員は武器を雨空に向かって大きく振り上げる。
「嘘だろ?あいつら狂ってやがる」
「飛んで火にいる夏の虫っつーのは…うちらのことかよ」
この敵数そして高ランク者の数…勝ち目はゼロだ。
おそらく…死ぬ。
だけど、カペラたちはそれでもいいと思った。あいつが無事に生きていけるなら。
「ポルックス。折角いい相方と出会えたっつーのに、まじで運が悪いな」
カペラは腰から剣を抜く。
アルデバは背中にかかる長い槍を手にした。
「できるだけ食い止めるぞ。あいつのことだ。この隙に逃げるだろ」
「うちらの死を無駄にすんじゃねーぞ…。蛇使い」
「「おおおおお!!」」
「死んだら地獄で呪ってやるからな!!」「覚悟しろよ!てめえら!!」
突進してくるケイドの部隊にカペラたちも走り出す。
が…その瞬間、
カペラたちの目の前に壁みたいな蔓が出現する。
「………人の就寝の邪魔しないでくれる?…迷惑」
だめだ。
出てきてはだめだったのに。なんで来ちまうんだよ。
仲間なんてどうでもいいと自分たちを切り捨てる気満々だったくせに。矛盾したことしてんじゃねえよ。
カペラは表情を濁らす。
「で、出たぞ!!魔王だ!!」
ケイドたちの部隊がざわめく。
「ねえ、聞いていい。あんたらの目的ってなに?」
「…魔王の討伐だ!」
「ふーん…で、その魔王が…僕…なんだ」
不機嫌そうな顔をした少年は蔦の一番上のポジションに降り立つ。
「そうだ!!魔王とその眷属を討伐にきた!!」
「うんうん…分かったよ。2回も言わなくったって、僕はあんたらみたいにバカじゃないし、理解もできてる。雑魚感マシマシになるから、その口はもう塞いだほうがいいよ…あ、でもその前に聞きたいんだけど…眷属って誰のこと言ってんの?」
「お、お前が庇った2人に決まっているだろう!お前らが一緒にいるところを見かけたやつもいる!」
「…誰って聞いてんの」
「後ろにいるだろう!カペラとアルデバのことだ!!」
「………カペラ…?アルデバ…?知らない………こんな雑魚が眷属とか、僕をバカにしてんの?」
瞬間、カペラたちは悟った。
こいつは独りで行く気だ。自分たちに迷惑をかけないよう、置いていくんだ。
「と言うわけで『さようなら』」
「………さようならって…」
なんだよ。
別れの言葉くらいこっち見て言えや。
…文句の一つくらい言わせろや。
一陣の嵐に2人は突き飛ばされた。
お前は魔王なんかじゃねーよ。魔王はそんな優しかねーよ…。
薄れていく意識の中、カペラはそう思った。
最後に視界に捕らえた少年は悲しそうな背中をしていた…。
ー…
「っ…」
鋭い朝日が目に食い込み、カペラたちは目を覚ます。
同様にケイドの部隊も、ガチャガチャと装備品の音をさせて起き上がっていた。
何がどうなったのか、彼らは知る由もない。
不思議そうに辺りを見回っているだけ。寝ぼけ眼で事の終点を探しているようだった。
「カペラ、アルデバ…」
「!!」
彼女たちが起き上がった瞬間、後ろからケイドの声がした。
自分たちを捕らえるつもりか?!と2人は身構えた。
しかし…
「すまなかった!!」
ケイドは地面に頭をこすりつけて、カペラたちに深々と謝罪を口にしたのだ。
「あ?」
「俺もよく分からん。なぜあそこまで少年に対し敵意をむき出しにしていたのか…。あの時はまるで自分じゃないような気さえする。だ、だが、自分のしでかしたことの記憶はある。だから謝らせてくれ。本当にすまなかった…お前たちに危害を加えるつもりはこれっぽっちもない」
「………」
「こんな部隊はもう解散する。そして、俺は冒険者を辞める。俺なりのケジメだ」
「辞める必要はねーよ。お前なりのケジメっつーんだったら、冒険者を続けて、ちゃんと善に導いてやれよ。んでもって、もし…あの少年が困ってるんだったら、助けてやれよ」
「生き様で償えや。自己満足を叶えるために勝手に辞めんなよ」
「し、しかし…」
納得し難いらしい。
真面目で正義感たっぷりのケイドらしいセリフだ。
反吐が出る彼の行動に、アルデバとカペラは顔に唾を飛ばしたい気持ちでいっぱいになった。
「お話し中のところ、すいません…」
カペラたちの会話に割って入ってきたのはギルド嬢。
彼女は両手の中に何かを握っていた。
「カペラさんたちはあの方とお知り合い…で間違いないですか?」
「………なんとでもとれ。つるんでたのは間違いじゃねーが、仲良くしてたわけじゃねーよ」
「庇う気もねえしな」
「いえ、それでも構いません。…もしあの方にお会い出来る可能性があるのでしたら、こちらをご返却していただきたいのです」
ギルド嬢が握っていたのは、少年の冒険者としての登録が記されるタグ。
「あの方がここを去る際に、『しがらみは嫌いだ』と千切っていってしまったのです」
あいつらしいな、とカペラは心の内で思った。
「うちらだって会えるとは限らねーよ。移動手段がなくなっちまったしな…」
カペラたちが起きて真っ先に気づいたのは、ポルックスの姿がないこと。
おそらくカペラたちが気を失っている間に少年は馬を奪っていったのだ。
「まあ、いいわ。うちらの馬があいつに盗まれたみたいだし、あいつにケチつける代わりに持っていってやるわ」
「え!?ギルドで何か出来ることはありますか?」
秩序を乱す者に対して罰則が厳しいギルド。
馬を盗んだと言うならば、とギルド嬢はメモ帳を取り出す。
「大事にしたかねーから、放っておいてくれや。別にうちらも被害届を出そうとしてねーし」
「そうそう。あの馬も高くなかったしな。被害総額的にはいたかねーよ」
と、カペラたちはとことん少年との繋がりを隠した。
彼らがまたいつ討伐だのと口にするか分かったもんじゃない。
そんな連中を信用できるか。
2人はギルド嬢から少年のタグを預かった。
「じゃーな。追いつけるかどうかわかんねーけど、とりあえず会ったら渡してみるわ」
「ありがとうございます!あの方は西に向かって馬を走らせました!向かうなら西の方がいいかと思います」
「おー、情報ありがとうな!!」
カペラとアルデバは顔を見合わせて、最初のゴールを『西』に置いた。
それにまつわるナナシの話 こいち @Coichi0125
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