第47話
「うざ!!雨、うっざ!」
「間に合わんかったわー。さっむ」
急いで帰ってみたものの、結局間に合わなかった。
準備をしていなかった自分も悪い…しかし、雨は無慈悲にカペラたちを襲った。
しとしとからのざーざー。
雲行きは怪しかったのは認める。認めるけれど、こんな大雨になるとは思ってもいなかった。
「わー、ちょっと待て。今、タオル持ってく…うわっ!!」
今にも体を震わせようなポルックス。
動物に人間の都合を押し付けられるはずがない。
カペラがタオルを準備する前にポルックスは体を震わせ、水分をカペラたちに飛ばす。
「ちべてー…」
タオルは自分が使う羽目になった。
「ポルックスー。頼むぜ。もう少し我慢してくれやー」と抗議しても、馬はぶるる…と鼻息を荒げるだけだった。
「ったく、悲惨な目にあったぜ」
「さっさと風呂に入るべ。冬の雨はしんどすぎるわ」
「真面目にそれな」
ポルックスの体をあらかた乾かしたら、今度は自分たちだ。
カペラたちは下宿先のシャワーにすっ飛んでいった。
「あー生き返るー!」
下宿先のシャワーは共同浴場となっている。
シャワー室の前に着替えを置き、必要な部分だけが隠れるドアを閉めるだけの簡易的な浴場だ。
女の自分にとってはあるだけありがたい。
暖かいシャワーに体をくぐらせながら、カペラは親父くさいセリフを吐いた。
できれば浴槽に浸かりたい気分。しかし、贅沢は言ってられない。
真水じゃないだけ感謝しなければ。
カペラは備え付けの石鹸で髪の毛をワシワシと洗った。
「ん…?なんか聞こえねえか?」
キューティクルが死ぬ音と共に、アルデバが何かつぶやいた。
「は?」
シャワーの音で聞こえづらい。
アルデバは何か異常を察知したらしく、蛇口をひねった。
「…ー…!!」
確かに何か聞こえる。
ちょうど頭も体も洗い終わったし、とカペラはシャワーを止めた。
「なんて言ってる?」
「いや、あんまり聞こえないが…良くない気がする。急いで準備すっぞ!」
アルデバはすでに衣装に身を包んでいた。
速着替えの達人でもある彼女に追いつくはずもない。
待て待て、と思いながら、カペラも急いで身支度を整える。
「ま、まさか…い、いや…でも、ケイドは今日も元気にうちらを口説いてたじゃねーか。動く気配なんてこれっぽっちも」
「知ってたとしたら?」
「うちらの動きを見てたっつーのか?」
「高ランクの冒険者を集めてただけはあるな…。あいつの人脈の中に特殊な魔術を使える冒険者がいたっておかしくない。魔力を感知されずに、うちらの行動を見てたやつ…とかな。まあ、確かにうちらにも非があったさ。不真面目で素行の悪いうちらが急に毎日強いモンスターを倒しまくって、ギルドに持っていってりゃあ、異変に気づくだろ」
「じゃあ、うちらはずっと監視されてたわけか?」
「おそらくずっと泳がされてた。ケイドがうちらを口説く理由も、もしかしたら探ってたのかもな」
「馬を買ってるっつー情報が漏れて、決行なら今日しかねえってか?」
「あの狐目野郎…やっぱ信用なんねーわ」
カペラが準備を終えたのを見て、アルデバは出立を促す。
「早く蛇使いに知らせねぇと。あいつのことだ。問答無用に倒しちまうだろ?」
おそらくケイドの動きはこうだ。
森に住まう魔王が明日明後日に逃亡する、倒すなら今しかない、とギルドの監査員に交渉をする。
監査員は否定しただろう。なにせ少年はギルドに冒険者としての登録と実績がある。
ギルドも慎重に事を進めたかったはずだ。
しかし、ケイドの熱量(ゴリ押し)にギルドの人間は可能性があるならば調査に乗り出す。
それが今日。
ちょっかいくらいならギルドも黙認するはずだ。
なにせカペラたちのような素行の悪い冒険者も放置しているくらいなのだから…。
「行くぞ、ポルックス!急で悪いけど、お前のことを早速使わせてもらうぜ!!」
雲行きが怪しくなってきた。
折角購入した荷台は荷物になると、カペラとアルデバはポルックスに乗って、門の出口まで突っ走った。
ー…
30、いや…50…よくここまで集めたものだ、と少年は思った。
雨音は感覚が狂う。
マンドラゴラが教えてくれなければ、隠れる暇も与えてくれなかっただろう。
「愚かだな…」
民衆は愚かだ。
大きな嘘にすぐ惑わされる。何度も、何度も…愚かに騙されて、理性も忘れる。
そして、力のあるものに扇動されやすい。唯一崩れない安定した基盤の上。
自らの安寧と日常を守るため。
面倒事を疎む少年は、マンドラゴラの蔦の中に隠れてじっとすることにした。
「いたか?!」
「いません!!」
「探せ!まだ近くにいるはずだ!!」
誰にも教えていないはずの住処は、やつらには知られていた。
折角作り上げた最高の寝床がバキバキと破壊される音が聞こえる。
「うざ…」
このまま朝まで待てば、何も起きずに次の日を迎えられるだろう。
マンドラゴラは草木に紛れる術を知っている。忍者のように気配を隠すのが上手い植物だ。並大抵の魔術師が探ろうとも察知されるはずがなかった。
少年は小さく体育座りをして、やつらの足音が去るのを待つことにした。
しかし…
「てめーら!!人の狩場を漁ってんじゃねーよ!!」
聞き覚えのあるセリフと声が聞こえてきた。
カペラとアルデバだ。
初めて会った時も彼女たちはああやって吠えてきたな。
「けど、今は邪魔だよ」
少年は彼女たちと同じように舌打ちをした。
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