エピローグ
ラストエピソード
凱旋から数か月後。僕の十六歳の誕生日を祝い、そして皇太子との婚約の発表を行う、一大祝賀会が宮中で開かれた。こういうイベントに際しては、市中の一般人までが宮殿の前で振舞い物を受け取ることができたりするので、大変な人手が要る。宮殿の人員というのはもともとものすごいものがあるのだが、それでも足りないので、民間の手配師が仕事を請けることになった。誰って、カラカラ・フェリクスである。ミネオラの祖父の。
「チユキ様。このフェリクス、レティクラタ様の時にもそれはそれは感動を覚えたものですが……しかしまさか、レティクラタ様のそのご息女の、こんなおめでたい席にまでこの生涯で居合わせることができようとは……感慨、無量にございます」
「うん。ありがとうフェリクス」
さて、いろんな儀式があるのだが、今日が結婚式というわけではないので、一通り終わったらミハイルは宮殿に残り、僕はシルヴェストリス邸に帰ることになった。屋敷の大浴場はまた女使用人の時間だったが、僕は風呂に入った。もちろんリョウカも一緒である。
「ああ……今日はもう……なんと素晴らしい日なのでしょうか。しかし、まだ終わらないのですよね。チユキ様、これから……行かれるおつもりなのですよね。ミハイル様のところに」
「うん。……リョウカ、応援してくれる?」
「もちろんでございます! もちろんでございますとも、チユキ様! だってあたしは、チユキ様のリョウカなのですから!」
というわけで、たっぷりとマッサージまでしてもらって、僕は一番いい肌着を身に着け、宮殿へと出かけていった。夜とはいえ、近所である。既に正門が閉まっていて、そして門番というのがいるのだが、僕の顔を知らない門番などは居はしないので、横の通用門から通してもらえた。アリエル・チユキ・シルヴェストリス・アリエル様のお通りだぞ、えっへん。で、ミカの部屋の扉をノックする。
「ミカ。僕だけど。入っていい?」
「……いいぞ」
ミハイルは部屋に一人だった。酒を飲んでいた。地竜酒だ。
「僕も一杯貰っていい?」
「ああ。だが地竜酒は醸造酒にしては強いからな。ほどほどにしとけよ」
「うん」
くい、と杯を開けた。そして、たん、と杯を置いて、言う。
「ミカ。単刀直入に言うけど。どうして、君は婚約者のところに一度も夜這いに来ないのかな?」
ミカは困った顔になった。
「……まだ、式はこれからだぞ」
「なーに言ってんですか。どっかの
ミカはさらに困った顔になった。眉間に皺が寄っている。
「未通娘ではないかもしれないが。似たようなものではあるんだ。つまり。我には経験がない」
え?
「なんでよ。あっちこっちでいっぱい、女口説いてたじゃない。一回もうまくいかなかったの?」
「我は皇帝にならねばならんから、父の真似事などをしてはいたがな。結局、最後の一線を越えるところまで行ったことは、今のところ一度もない」
まさかミカが童貞だったとは思わなかった。確か、今上陛下がルービィ叔母様と関係を持ってミカをこしらえたのは、今のミカと同じくらいの年の頃だったと思ったけど。
「そっか。まあ、言ってる僕も未通娘ではあるんだけどさ」
「うむ」
「じゃあ、今から二人で、それじゃなくなろうよ」
「ちょっと待て、アリエル」
「待たない」
僕はミカに飛びついた。ベッドの上だ。押し倒す。軽かった。僕には腕力というものはからきしないわけで、ミカが僕を突きのける気になればそれは簡単だろう。だが、そうするつもりはないみたいだった。
「ここから、どうすればいいんだ?」
ミカは本当にウブで奥手だった。よくこんな精神性で、プレイボーイの真似事なんかしていたものだと今は思う。
「じゃあ、僕に任せて。ちょっと機会があって最近そういう書物をいっぱい読んだから、だいたいのことは分かる」
「わ、わかった。まず我は何をすればいい」
「じゃあ、ミハイル、とりあえず下だけ脱いで。そしたらまず僕が――」
ここから先のことは秘密である。ともあれ。
僕は女としての幸せという概念をたっぷりと理解した。これが、人生というものの味か。
林檎と甜橙、女奴隷とその主人 きょうじゅ @Fake_Proffesor
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