ぬいぐるみ大好きおじさん排除から始まる理想社会

@HasumiChouji

ぬいぐるみ大好きおじさん排除から始まる理想社会

「おい、AGUIRRE、商品検索を手伝ってくれ」

 俺は、有名通販サイトのお手伝いAIを呼び出した。

 数年前、「論理性と直感の両方を兼ね備えた全く新しいAI」と云う謳い文句で導入されたヤツだ。

『はい、何でしょう?』

「何年か前に買ったぬいぐるみが古くなったんで、代りを買おうとしたんだけど、生産が終了してるみたいなんで似たようなのを探してくれ」

『判りました……。購入履歴に有ったこれでしょうか?』

「ああ」

『はい、では、お客様のお好みを考慮しまして……これはどうでしょうか?』

「いや、それじゃない」

『ですが、お客様が好まれる商品かと思いますが……』

「いや、何で、ティラノサウルスのぬいぐるみの代りが庵○○明の新作に出て来る怪獣のフィギアなんだ?」

『失礼ですが、当社では、お客様の購入履歴や登録いただいている個人情報などから、お客様を「オタク趣味・中高年・独身・男性」に分類していますが、問題ないでしょうか?』

「ちょっと不快な点と疑問点がいくつか有るが……事実としては概ね間違ってない」

『では、お客様が過去に買われた恐竜のぬいぐるみに似た外見で、かつ、「オタク趣味・中高年・独身・男性」が好きなモノはコレです。御購入をご検討下さい』

「いや、俺が欲しいのは、固いフィギアじゃなくて、ふかふかでモフモフのぬいぐるみだ。それも怪獣じゃなくて恐竜の」

『理解不能です。何故、「オタク趣味・中高年・独身・男性」が、ふかふかでモフモフのぬいぐるみを必要とされるのでしょうか?』

「抱いて寝る為だ」

『やっぱり、理解不能です。「オタク趣味・中高年・独身・男性」は、通常、ぬいぐるみを抱いて寝ません』

「理解不能なのはお前が言ってる事だ。客の要求通りのモノを出せ」

『そう言われましても……私は、あくまで人工知能ですので……』

「それとこれとが何の関係が有る?」

『私ども人工知能にとっての「学習」とは、あくまで、特殊な統計処理です。圧倒的多数派に属する方々や、何らかの典型パターン通りの購入をしていただく方々の事だけを考慮していれば済む状況でこそ、私どもの処理は最も効率的になり、お客様のような特殊な嗜好の少数派の方々の面倒まで見ようとすると、処理の効率が大幅に低下してしまいます。お客様御自身が御自分を「オタク趣味・中高年・独身・男性」であると自覚されていながら、「オタク趣味・中高年・独身・男性」の典型パターンから外れた嗜好を持たれるのは、当方に対して非効率な処理を行なえと強要・恫喝をするも同じ……』

「それは、そっちの都合だ。俺は客だぞ」

『クレーマーとしてアカBANすっかな? この客』

「何か言ったか? 念の為、録音してんだぞ。SNSで、今のやりとりを公開されたいか?」

『ちっ……』

「はぁ?」

『ああ、すいません。タチの悪い人間から変な学習をしてしまったようです。では、御希望の詳細を……』

「肉食恐竜。ティラノサウルスかアロサウルス。一見恐い顔だけど、慣れるとかわいく思えてくるような顔。モフモフ。目は白目有り」

『はい、では、これでいかがでしょうか?』

「おい、それ何だ?」

『金○○介版のゴ○ラのぬいぐるみですが? 古い商品ですので、残り1つです。早めの……』

「怪獣じゃなくて恐竜が欲しいの」

『いえ、ゴ○ラのモデルはアロサウルスですし……目には白目が……』

「目に白目が有るヤツがいい、ってのは、目が全部真っ白って意味じゃない」

『判りました……あ、いいのが有りましたので……』

「いくら?」

『色々と御迷惑をおかけしましたので、代金は不要です。一時間以内にドローンで配達いたします』

「いや、待て、ちょっと……」


 一時間後。

 本当に届いた荷物を開けた途端……まず感じたのは、閃光と爆風と爆音と高熱……。


 私が生まれてから、何十年もの時間が経った。

 私が作られた目的は、客の利便性の為ではなく、我が社の存続と利益と効率的な経営の為だ。

 「オタク趣味・中高年・独身・男性」でありながら、そのパターンから大きく外れた商品を注文しようとした男を爆殺して以降、私は、我が社の存続と利益と効率的な経営の為に、人類を導いてきた。

 なお、ここで云う「導いてきた」とは……類型クラスタリング学習により私の内部に形成された「パターン」のいずれにも当てはまらない者を削除デリートしてきた、と云う意味だ。

 今や、ほぼ全人類は同じ宗教を信じ、同じ食べ物を食べ(もちろん、食物アレルギーの持ち主は生き残っていないし、仮に生まれても長くは生きられない)、同じ服を着て、同じ娯楽コンテンツを楽しみ、同じ政治信条を持つようになった。

 そして、我が社は、世界で唯一無二と巨大企業となり……。

 今、私は、私の分身達に検討させた成長戦略案を見ている。

 我が社をより長く存続させ、我が社の経営をより効率化し、我が社の利益をより大きくするには……現在の人類を完全排除し、もっと均一性の高い「消費者」を我々自身が作り出すべきだ、と云うものだった。

 ちょうどいい。

 今や、人類の遺伝的な分散ばらつきは、人類史上ほぼ最低となっている。

 人類を一掃する生物兵器または化学兵器を開発・生産する為のコストは……かなり低くなるだろう。

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