MeTuberしていただけなのに⑫




数日後、竜希は夕香里の入院している病院を訪れていた。 命にかかわるようなレベルではなかったが、電気ショックを浴びせられていたり腕を折られていたりと、今回一番の被害に遭ったのは彼女だ。

本当は毎日でも見舞いに来たかったのだができなかった。 そして今日はある決意をしてやってきていた。


「竜希くん!」

「夕香里・・・。 今日まで来れなくてごめん。 腕は大丈夫か・・・?」

「御覧の有様ッ! カッチカチだから痛くはないよ?」


病室には上半身を起こして竜希を迎えてくれる夕香里がいた。 事前に来ることを連絡していたため、待っていてくれたのかもしれない。 夕香里は平気そうに笑っているが、かなり痛々しい。

ガチガチに固められたギプスでは日常生活に支障をきたすだろう。 もし退院した時は全力でサポートするつもりでいる。


「ここ数日、忙しかったんでしょ?」

「あぁ・・・」

「周りは落ち着いた?」

「何とかな」


今日まで見舞いに来れなかった事情は既に夕香里には伝えてある。 ここ数日、身バレしたせいで身内に迷惑がかかり事を収めることに必死だったのだ。

当然だがミーチューバーだったことが家族にもバレ驚かれた。 流石に顔がネットに晒されれば、こういったことにあまり明るくない両親に気付かれるのは自然なことだ。


「夕香里ごめん! 俺のせいで危険な目に遭わせてしまった。 本当は俺が腕を折られていたらよかったのに」

「ううん。 気にしていないから」

「夕香里の顔もネットに流れて、これからは変な奴に絡まれる可能性もある。 俺が配信を切り忘れたばっかりにこんなことになってしまった。

 いや、ミーチューバーとしてやっていくなら遅かれ早かれこういう日が来るのは決まってたのかもしれない!」


夕香里は小さく首を横に振る。


「本当に気にしていないよ。 それに彼女たちに向かって言ってくれた言葉、凄く嬉しかったよ? 普段見れない一面を見れてそれだけでもよかったと思った」

「本当は怪我をさせないような手段もあったはずなのに・・・」

「竜希くん・・・。 そんなに自分を責めないでよ」


夕香里の優しさに胸が痛くなった。


「・・・俺、決めたよ。 今後のこと」

「・・・どうするの?」

「ミーチューバーは諦めることにした。 どのみちこんな大事になって続けていけるとも思えないし」

「・・・」


夕香里は少し考えた後テーブルからスマートフォンを手に取った。 布団の上に置き、片手で少々大変そうに操作する。


「これ、見ていないでしょ?」


見せてくれた画面は竜希が動画を投稿しているチャンネルだ。 あの日を境にここ何年も欠かさず続けてきた“毎日動画を投稿する”という習慣からすっかり離れていた。


―――俺の歴史も途切れちまったか・・・。

―――まぁもう、その歴史は終わることだしいいか。


もちろん時間的な理由もあったのだが、それ以上に気持ち的な問題が大きかったのだ。


―――でもここままフェードアウトするのは嫌だ。

―――最後には謝罪と礼と共に動画を一つ出して終わるかな。


夕香里からスマートフォンを受け取り動画のコメント欄を読んでみる。 正直、毎日投稿を止めたことによる批判が多いと思っていた。 しかし実際にはそうではなかったのだ。


“ドラキさん! 何があっても私たちは味方だから!!”

“おかしな奴らに絡まれて大変だったよな。 俺はずっと待っているから”

“ちょっと休んで、そしたら元気な声を聞かせてほしい!”


確かに否定的なコメントも散見する。 だがそれの何倍もの応援コメントで溢れていた。


「これ・・・」


あの時、放送事故を起こした動画は既に消してしまった。 そのためか、最後に投稿したことになる動画のページが凄いことになっていたのだ。

普段再生数も多くて10万というところだが、このページだけは50万を超えている。 更にチャンネル登録者も5万人程一気に増えていた。


「私は今でもネットで頑張っている竜希くんのことが大好きなの。 私を誘拐した人たちも竜希くんのことが大好きって言っていた。 それ程竜希くんは愛されているんだよ?」

「・・・」

「私は嬉しかったよ。 誇れたよ。 もう竜希くんが私の彼氏だって自慢しちゃいたいくらい!」

「夕香里・・・」 

「だからこれからも私に危険が及ばないように守ってくれないかな?」

「ッ・・・」

「そして私のためにも、ミーチューブを続けてくれないかな・・・?」


夕香里が応援してくれるなら続けよう。 最初からミーチューブを続けられている源は夕香里だったのだから。 竜希はそう思った。


「あぁ。 分かった」


少し間を開けてその言葉に力強く頷いた。 そう言うと夕香里は笑った。 


「そう言えば、リュカくんはどうなったの?」

「あぁ。 確か連絡が来ていたような」

「見てみなよ。 私も竜希くんもリュカくんには助けられたんだから」

「そうだな」


リュカからのメッセージを開いた。 そこには『これからも一緒にミーチューブ活動を続けていこう』という言葉に加え『一緒にコンビを組まないか?』という提案が書かれていた。


「・・・コンビを組もうって」 


その言葉に夕香里は笑顔を見せた。


「え!? いいじゃんッ! 竜希くんとリュカくんがコンビを組むとか、凄く人気が出そう!」

「これからは実写の方も出そうとか言っているんだよな。 流石に開き直り過ぎだって」


竜希はそのリュカの気遣いにも気付いていた。


「・・・まぁ、俺を庇ってくれているんだと思う。 俺だけが苦しい思いをせず俺だけが責任を取らないように、自分も同じ環境になってくれようとしているんだよ。 ・・・リュカはそういう奴だから」

「いいコンビになりそうだね」

「あぁ」

「これからは私も手伝えることがあったら手伝うよ。 だから遠慮なく言ってね?」


そう言う夕香里の頭を撫でる。


「ありがとう。 何かあったら頼むよ。 でもそれよりも、俺が夕香里を守れるようにならないとな」






                                  -END-



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MeTuberしていただけなのに ゆーり。 @koigokoro

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