MeTuberしていただけなのに⑪
―――リュカの言いたいこと、頭で理解はできる。
―――だけど感情が爆発するのは止められないし、止める気もない。
―――ごめん、リュカ・・・ッ!
リュカが止めようとするのも振り払い夕香里のもとへと走った。 もう相手を女性とは見ていない。 犯罪者に性別は関係ない。
「ドラキくん!?」
誘拐犯たちも突然の行動に驚いてしまったのだろう。 気付けば竜希の拳が夕香里の腕を折るよう促した女性の顔面を捕らえていた。
「将来だとか未来だとか今はもう関係ない! 今この時、彼女のために拳を震えないなら男じゃねぇッ!!」
一人を殴ると他の女性が怯えるように言った。
「ド、ドラキくんはミーチューバーでしょ・・・!? 他にもドラキくんを愛している人はたくさんいるのよ!?」
「だからどうした? その中でも俺はこの彼女を選んだんだよ!!」
「ミーチューバーをやっている人でこんなに恋愛をまっとうに考えている人はいない!」
「ミーチューバーだから彼女を大事にできないだって? そんな偏見糞食らえだ!! 俺はお前らを絶対に許さねぇッ!!」
次の拳が更に一人の顔を捕らえる。 相手が女性だとか一般人だとかそういったことはもう頭になかった。
―――許さねぇ・・・。
―――俺はともかく、夕香里を傷付けた奴は容赦しねぇ!!
ただひたすらに目の前の悪を打ち倒すためだけに動いていく。 それでもやはり女性たちの中には変わっている者もいた。
「ドラキくんにやられるならそれも本望! でもやっぱり主導権は私たちが握りたいよねー!」
「ッ・・・」
女性は手にスタンガンを構えていた。 バチバチと揺れる電流が竜希に冷静さを取り戻させる。
―――・・・どうする?
―――このまま突破しても大丈夫だという保証はあるか?
このまま正面からいっても分が悪い、だが逃げるわけにもいかない。 夕香里は未だに女性たちの手の中なのだから。
―――くそッ・・・!
絶体絶命だと思われた状況を打開したのはまたしてもリュカだった。
「なッ!? ちょ、リュカくん! 何をするのよ!!」
密かに後方から回り込んでいたリュカは、スタンガンを持つ女性の手を捻り上げ後ろから羽交い絞めにしたのだ。 その光景を見て竜希は唖然としていた。
「リュカ・・・。 あんなに俺を止めていたのにどうして」
「後先考えないのはゲームだけにしてくれよ。 まぁ、いつも通り俺がサポートするからドラキは存分に暴れな?」
「・・・あぁ!」
その言葉に安心し、気の済むまでここで暴れた。 その数分後パトカーの音が聞こえてきた。
「・・・終わったか。 これで少しは騒動が収まりそうだな」
これで女性たちは捕まり夕香里は解放されるだろう。 竜希は正当防衛ということでとりあえず逮捕されるようなことはなかった。
「女性が倒れている! 早急に救急車にも連絡を!!」
慌ただしく警察が駆け回る。 そんな中二人は外へ出て空気を吸って気持ちを落ち着かせていた。
「・・・このまま彼女さんの救急車に乗っていくのか?」
「・・・そうだな」
リュカは深く息を吐く。
「ネットでもリアルでも本当に俺の言うことを聞かないんだから。 ・・・まぁでも、あれでよかったと思うよ」
その言葉にゆっくりとリュカを見る。
「・・・本当にそう思うか?」
「あぁ。 俺もドラキと同じ状況だったら止まらなかったと思う」
「・・・ありがとな。 でもやり過ぎてしまったのかもしれない。 流石に顔面を殴ったのはマズかったかな・・・」
「やられた側に言うなら自業自得としか言いようがないけど。 おそらく鼻の骨でも折れたんじゃないか?」
「うぁー・・・」
「まぁ、鼻って簡単に骨が折れるから」
「・・・え」
「ふふ」
何だか意味深だがこれ以上踏み込まないことにした。 実はあれだけ暴れてスッキリもしていたりする。 ただ拳に残る感触だけは嫌な感じで、複雑な気分だ。
「・・・ドラキはこれからどうするんだ? ミーチューバーとして」
「・・・そうだな」
―――身バレもしてしまった以上、配信者としてミーチューブに戻りたくはない。
―――これからももっと噂が広まって、家族や友人にも迷惑をかけることになると思うから。
―――だから今後はそのフォローをしないと。
チラリとリュカを横目で見る。 軽く目が合った。
―――・・・でもそしたら今日のリュカの活躍を全て無にすることになる。
―――俺のことを助けて手出しもしてくれた。
―――今までやってきたリュカとのミーチューブでの歴史も全てなくなってしまう。
―――俺は・・・。
何気なくスマートフォンを取り出しツウィッターを確認する。 どこから情報が漏れたか分からないが、どうやら騒動は収まったようだ。
“ドラキは監禁されていたらしいけど、リュカが助けにいったみたいだよ”
“やっぱりドラキとリュカのコンビは最高!!”
“自分が危険な目に遭っても彼女さんを助けにいくとかカッコ良い”
“ファンの子を殴ってでも止めたらしい。 男らしいなー”
“これからドラキはどうなるんだろうね? 彼女にも被害がいっちゃったし、ミーチューブを続けるのは厳しそう”
労わるような言葉を見ても竜希の心は浮かなかった。
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