MeTuberしていただけなのに⑩




走っている途中リュカが突然立ち止まった。


「どうした?」

「一応警察に連絡しておこうと思って」


ピンチの時でも冷静に対応できる頼りになるリュカだった。 確かに正確な場所が分かったなら伝えておいた方がいいに決まっている。


―――見た目では歳はあまり変わらないと思うのに。

―――・・・俺とは全然違うんだな。


「あ、もしもし。 先程も電話をした者なんですが」


事情を伝えると通話を切った。


「すぐにこっちへ来てくれるって。 警察もどうやらツウィッターを見てあたりをつけていたらしい。 案外、凄いんだな」

「まぁ一応、俺たちの国の治安を守ってくれているから」

「とりあえず警察に先を越される前に急ごう」

「あぁ」


二人は走って心当たりの場所まで向かった。 そして夕香里が捕らえられた場所へとやってきた。


「ここは廃工場か・・・?」

「倉庫といい廃工場といい、拉致するのにぴったりな場所だな」

「逆に分かりやすいだろうけどな」


二人で協力して扉を開け夕香里の姿を探した。 先程竜希が捕らわれていた場所とは違い、古くなった機器が散乱していて少々足場が悪い。


「夕香里ー! おーい!! 聞こえるかー?」 


廃工場内に竜希の声が乱雑に響き渡る。 すると奥から甲高い声が聞こえてきた。 


「あ、ドラキくんの声! やっと来てくれたねー!」

「向こうからだ!!」


その声に反応し二人は声がした方へ近付いていく。 明らかに夕香里のものではない女性の声に焦りが高まる。


「夕香里!! ッ・・・!」


奥では夕香里がぐったりと横たわっており若い女性が五人くらいそれを囲んでいた。


「キャーッ! ツウィッターに投稿されていた写真、そのまんま!! やっぱりドラキくんカッコ良過ぎー!」


はしゃいでいる真ん中の女性をよそに他の女性が訝しむよう言う。


「・・・隣にいるその人は?」


その問いを無視しリュカが答えた。


「君たちもドラキのファンか?」

「その声!! もしかしてリュカ!?」


竜希は咄嗟にリュカを見る。


―――もう吹っ切れているのか。

―――さっきの奴らだけならまだ身バレは防げそうだったのに。


「うっそー! 身を隠しているミーチューバー、一気に二人に会えるとか最高なんですけどッ!!」


二人の登場にはしゃぐ女性たち。 そんな彼女たちに竜希は言い放つ。


「君たちの目的はなんだ? 彼女を解放してほしいんだけど」

「えー。 タダでぇ?」

「というか彼女に何をした?」


ぐったりしている夕香里を見て言う。


「まだ何もしていないよ?」

「まだ?」

「ただちょっと電気を浴びさせて、気絶してもらっただけ」

「ッ・・・!」


怒りそうになったのをリュカが制御してくれた。 電気を浴びさせて意識を奪っただなんて危険なことをしといて、何もしてないんていけしゃあしゃあというのが許せなかった。


「まだだ。 冷静になれ」

「・・・悪い」


とはいえ、猪突猛進に突っ込んでは今度は竜希がそれの餌食になる。 何とか落ち着きを取り直し再度尋ねた。


「君たちの用件は?」

「用件はただ一つ。 この彼女と別れて私たち五人の彼氏になってほしいの」

「はぁ?」

「そしたらこの子を解放してあげるよ」

「そんなのできるわけがないだろ!」

「そーぉ? なら仕方ないかぁ・・・」

「・・・何をする気だ?」


女性たちは夕香里を囲い始める。 ぐったりしている夕香里の腕を伸ばすと肘のところに厚い底のブーツをあてがう。


「ッ! おい、何をすんだよ!!」

「せーのッ!」 


それは見ていられない光景だった。 飛び出そうとしたところをリュカに止められる。 女性たちは夕香里の腕を躊躇う様子もなく折ってみせたのだ。 夕香里は声にもならない叫びを上げる。


「駄目だドラキ!!」


制止を振り払って飛び出しそうになったところをリュカに止められた。 おそらく彼女たちはそれを待っているのだ。


「流石に我慢できねぇッ! 頼むから放してくれ!!」

「駄目だ! ここで人に手を出したら、それこそドラキはもう戻ってこれなくなる!!」

「でも!!」

「彼女さんがやられた気持ちも痛い程分かるけど、ドラキの未来もかかってんだぞ!!」

「ッ・・・」


その言葉に少しは落ち着いた。 それを見ていた女性が言う。


「・・・それでどうするの? 私たちの彼氏になってくれるの? くれないの?」

「・・・」

「くれないならもう片方も折っちゃおうかなー」

「・・・何度聞かれても『ならない』って答えるぞ。 それにそれ以上手を出したらアンタたちもただでは済まない。 警察に捕まりミーチューブも見ることすらできなくなる」 


そう言うと女性は寂しそうな表情を浮かべた。


「そんなのもう今更でしょ。 ここで止めてもこれまでしたことの罪が水に流れるわけじゃない」

「ッ・・・!」


追い詰められたような表情で女性たちは夕香里のもう片方の腕を掴む。 まだ反対側の手が痛むのだろう、意識は朦朧としているようなのに小さな呻き声が上がる。

それを見て竜希は居ても立っても居られなくなった。

 

「ドラキ、止めろ!!」



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