第14話 変容

 「よし、木下ここなら良いだろう」

 井出と木下と走り、ゾンビとなった遠藤の前へ出た。

 「俺が周囲を見張る。お前は射撃に集中しろ」

 井出は木下が拳銃でゾンビとなった遠藤を倒させる為に、集中できるように図る。

 木下の前にゾンビではない人間や車両が入り込まないように見張るのだ。

 「ありがとうございます」

 木下は気を遣う先輩に感謝しながら拳銃を構える。

 (お前が頼りだ。予備の弾は無いからな)

 井出にとっては木下が確実に仕留めて貰う必要がある。

 この現場に他の警官は居ない。木下が仕損じれば撃てる拳銃はこの場に無くなる。

 応援を呼べるが、着くまでに被害が増えるだろう。

 そうさせない為には木下が遠藤を倒さねばならない。

 「撃ちます」

 「いいぞ」

 木下が申告し、井出が周囲の状況が良いと答える。

 井出の許可が出ると木下は拳銃を撃つ。

 しかし、拳銃射撃に慣れて無いのは木下も同じだ。

 木下が撃った銃弾は遠藤の頭の左側を通過した。

 「くそ、当たらない」

 続けて撃つが当たらない。

 (近づくしか無いか)

 木下は近づいて撃とうとする。

 「おい待て、木下!」

 木下が射撃を止めて、遠藤へ近づこうと距離を詰めている。それを見た井出は呼び止めようとする。

 「ゾンビに対しては距離を開けて対処するように、最低でも刺又で押さえ込むぐらいだ。近づき過ぎれば噛まれてしまうぞ」

 警察庁からの通達でもそう言われていた。

 近づき過ぎれば噛まれてしまう。だから距離を空けて対処せよと。

 「これで、どうだ」

 遠藤と三mの距離に近づき撃つが、射撃の反動を押さえるのを怠り拳銃は上へ跳ねた。

 縦断は遠藤の頭上へ飛んで行った。

 「木下、ちょっと下がれ」

 井出は木下の横に立って呼びかける。

 「は、はい」

 少し不満はあったが先輩であり上司の言うことに従う。

 「あと二発だろ?よく考えて撃て」

 井出が指摘する通りに、残弾は二発しかない。

 無駄撃ちが出来る余裕は無くなった。

 「しかし、当たらないんです」

 木下は焦る顔で訴える。

 「でも近づき過ぎは危ない」

 「近くないと当たらないです」

 こう井出と木下が言い合う間に遠藤は止まった。

 小さく呻きながら止まっていた。

 そこから背を丸め、四つん這いになった。

 あたかも息切れで喘ぐような姿になっていた。

 「どうしたんだコイツは?」

 「苦しんでいるようですが」

 井出と木下は遠藤を間近に見ていた。

 「このまま倒れてしまえばいいんだが」

 「そうですよね」

 苦しむ遠藤に井出も木下も事切れるよう望んでいた。

 しかし、事切れようとしている訳では無かった。

 遠藤の体内ではまた新たな変化が起きていた。遠藤の体内で熱が生じて身体の中で何かが膨れるようなものを感じた。

 これは遠藤に苦しみを与えて、遠藤は痛みに呻く。

 「止めを刺した方が良いですか?」

 木下は井出へ訊く。

 「このまま死ぬ・・・亡くなるかもしれん。何も手を出さなくて良い」

 井出は木下が拳銃内に残る銃弾を残す意味で言った。

 このまま亡くなるのであればあえて近づく必要はないと。

 遠藤の体内は矢井田が飲ませたゾンビ化を遅らせる薬の副作用が発症していた。

 この副作用は井出と木下が望む事とは逆に作用していた。

 抑えていたゾンビ化の症状と遠藤のストレスが、ゾンビ化ウィルスを刺激した。

 その刺激はこれまで無かった身体機能をゾンビに与える。

 「え・・・起きた?」

 遠藤は苦しそうな呻きをしながらも、上半身を少し上げる。

 四つん這いの姿勢のまま、顔を上げた姿勢に遠藤はなる。これに井出と木下は何を遠藤はしようとしているのか困惑した。

 「やはり、撃った方が」

 「それが良いな」

 木下による拳銃射撃を井出が認めた時だった。

 「走った!」

 膝を曲げないクラウチングスタートで遠藤は走り始めた。

 「くそ、走るなんて聞いてないぞ!」

 井出と木下は走り出した遠藤に驚きながらも、走って追いかける。

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ゾンビ侵攻!首都防衛作戦 葛城マサカズ @tmkm

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