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畜生はまるで、お馬さんごっこに興じるガキのように無邪気な表情を浮かべると、ゴミ屑を仰向けに組み伏せ、実際にその上に馬乗りになったのであります。
「ああぁあ! くそったれぇ!! この人でなしがあ! ああ!! このくそがあ! 人間味の欠片さえないではないか!!」
人間味? いったい人間はどんな味がするのだろう? と馬鹿で呑気者なゴミ屑は、自分で発した言葉であるのにもかかわらず、そのようなことを頭に
ゴミ屑は
人間は、さぞかし美味で、奥深く濃厚な味がするのだろう、当然だ、人間の叡智や可能性の、その全てが詰まっているのだから、うんぬんと。
「ええ。はい。そうですね。ご指摘の通り、僕は人間ではございません。それはそうと、大変に心苦しいのですが、ご
そのお行儀の良い挨拶のどこが不満なのか分かりませんが、ゴミ屑は何の
しかし、ゴミ屑の様子は見ていて吐き気を
そしたらもうズタズタだよ。だって、さっきまであんなに仲良く話していた相手なのでありますから、畜生の心が痛むのは当然であります。しまいにはグチャグチャだよ。だってさ、急に食欲が起こってどうしても我慢できなくなったとはいえ、話の分かる相手を食わなければならないとなれば、畜生の心が張り裂けそうになるのは
え?
人を叩いちゃう人は、自分の心を叩いているのと一緒なんだね。
分かるかい? 自分のあったかい両手と、相手のあったかい笑顔は、ラブラブなお友だちなのさっ!
ダメさ、いけないよ。人はぜったいに叩いちゃダメさ。自分のためにも。もちろん、相手のためにもね。
ノンノン! 叩くなら、胸を張って、友だち思いの自分の胸をねっ!
え!?
畜生は我に帰り、
するとどうしたことでしょう。記憶をまさぐるその一瞬
詳細は分かり兼ねますが、おそらく事の
あのゴミ屑は趣味人でありましたから、手品、あるいは何かの競技のイカサマにでも通じており、何か小細工し、
そうとしますと、先程までの、ゴミ屑のあの様相の見方も変わろうというもの。
これほど見事な真似ができるのです。ただガブリと首や肩をやられるとは考え難い。何か策を講じていて、実際のところは無傷でありながらも、痛がる演技をしておったのです。それは何故かといえば、畜生の顔を立てるため、もしくは、驚きでもって畜生の心を遊ばせるためだったのです。畜生の
あのゴミ屑は
あのゴミ屑は誠の紳士であったのです。
この驚くべき事実に、考えが至っているのかそうではないのか分かりませんが、畜生は
人でいうところの顔の辺りでは、ぶんぶんとうるさく蜂の
先程から、中で蜂共が騒ぐためなのか、人でいうところの手足がびくびくと
この畜生は、蜂蜜が大好物なのであります。
びくんと我に帰った畜生は、口の周りを可愛らしくぺろりんと舐めると、さっそく事に取り掛かりました。
畜生は、両手をわくわくさせながら人型の蜂の巣に腕を伸ばし、そして、人間でいうところの腹部を、爪で強引にこじ開けました。
すると中には、
それは極めて濃厚と見え、それがあまり
まるで色気を
やがて、最後に畜生の顔をひとつ引き
さて、これよりからは、実地の時間であります。
そこからの畜生は、もう無我夢中です。全てのことに、
あ。という間に平らげたせいかしらん。畜生の息は上がり、はあはあと息を吐いております。やがてそれが落ち着き、人心地と相成りました。
「うーん。なんだか食った気がしないなぁ」
森の中での食い違い 倉井さとり @sasugari
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