第6話ㅤピンク色は青春をフラッシュバックさせる

 ──それから2年が経った。

 2年の月日は長いようで短く、でもその間に生活のほとんどが変わっていた。学校も変われば一人暮らしもしてたし、お金が無くてバイトもしてたし、それでも変わらなかったのは写真だけだった。もちろん、毎日飽きずに撮っている。


 私は郵便物を確認して、家に入った。

 今はアマチュアの写真家でブログを作ったりSNSにあげたりしている。

 ついこの間、【春の写真館】に展示用の写真を送ったばかりで、小規模ながら仕事も頂く事ができたのだ。


 そして、この通知は写真館主催者から届いたものだった。


『萌芽の候、この度は写真館を開催するにあたって、展示のご協力をいただき誠にありがとうございます。

 会場準備が済みましたので、会場案内図と展示者一覧を同封させていただきました。

 関係者の皆様は、本日から閲覧可能ですので、ぜひ写真館に足をお運びください。

 お待ちしております。』


 同封されている紙に目を通す。

 私の写真が展示されているブースに丸印をつけて、2枚目の展示者一覧を読み下ろした。


“赤西 一輝”


 目に飛び込んだ名前。それが懐かしさと同時に、私の胸はきゅうっと締め付けられた。

 3年前の役員名簿を開いた時とはまったく違う私。もう一度会いたい、その思いが確かに心拍数を速めていた。


 少し落ち着いて考えたあと、同姓同名の別人かもしれないと思った途端、私の足は会場に向かっていた。

 私は写真を見れば、赤西くんかどうかわかると思ったのだ。




 会場に着いて、カバンから会場案内図を取り出した。

 赤西くんの写真が展示されているブースに向かう。

 そのブースに入ると、辺り一面がサクラの写真で埋め尽くされていた。そして、その淡いピンク色の世界は、急いでいた私の足をゆっくりにさせる。1枚ずつ撮った人の個性を感じながら進んでいく。

 赤西くんのことをすっかり忘れているころ、一枚の写真が目に飛び込んだ。


「この写真……」


 あまりの衝撃に声を漏らした。なぜなら、私はこの写真を知っている。

 そう、あの時赤西くんが私のカメラで撮った写真。

 あのサクラが、このピンク色の世界の1部になっている。あの時と変わらず柔らかな雰囲気を纏っていて、思わず見とれてしまう心落ち着く1枚。私はその絵の前で、昔話に花を咲かせるかのように嬉しい思いで立っていた。





 閉館の放送が私を現実に戻した。帰ろう、そう思って来た道を戻る。同時にまた来よう、そしたらまた会えるかもしれない、なんて夢のようなことを思って写真館を後にした。

館外に出るとちょうど真っ赤な夕日が落ちるところだった。

 その時、


「佐倉さん」


 懐かしい低い声が私を呼んだ。振り返らずとも誰だかわかる。もう一度なんて、夢のようなことだと思ったのにな……。そう思ったら自然と頬が緩む。


「久しぶりだね、赤西くん」


 なんとなく今年の春は暖かくなる気がした――。





-END-

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サクラ越しに君に恋した 雨宮 苺香 @ichika__ama

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