第5話ㅤ瞬く間に過ぎていく青春を思い出に
その日の夜、私は今日撮った写真を見ていた。赤西くんの写真を見る度、胸がいっぱいになる。
今日は、赤西くんのことが好きってわかった日。夜が更けるほど、赤西くんに早く会いたいなと思い、じたばたしていた。
それからの日々は、赤西くんを見れるだけで嬉しかった。たとえ話したりしなくても、カメラを開けば赤西くんに会えた。ただ、それだけで満足していたため、この恋が実る気配は全くなかった。
気がつけば季節は巡っていて、あの椿の写真は1年前の日付になっていた。
懐かしいな、そう思いながら昔の写真を見ていた。
あの時は風景にピントを合わせていたのに。そう思うと、自分が変わってきていることを自覚した。
自分がはっきりと赤西くんに思いを寄せてることも、今となってはこれが“恋”だということも理解している。気持ちを伝えたい、と思いはするが足が動かない。あの時のような生徒会のトラブルがあれば話せるかも、なんて自ら面倒ごとに巻き込まれることを考えたりもした。
それでも尚、自分から動くように変われはしなかった。
――あのサクラの日もそうだ。赤西くんから私に話しかけてくれた。そして体育祭の日も。
私から手を伸ばすことは無かった。多分、卒業してもそれは変わらない。
自分のじれったさにため息をついた。白くなった自分への呆れは、空に向かってゆっくり消える。
それが解けた後、もうすぐ終わる冬をカメラに収めた。
高校最後の冬の、冷たく静かな写真を。密かに、隣に彼が居たらいいのに、と思いながら……。
瞬く間に椿の花は落ち、春が訪れた。
まだ少し寒さはあるものの、優しい春の匂いが香る。この春の匂いは1年ぶりに花たちに会えるという嬉しさの反面、その香りは勇気を持たない私を赤西くんに会いたいと思わせるから少し複雑だ。そしてこの香りは別れの匂いとなるから……。
――私は今日受け取った卒業証書を片手にあのサクラの木の下に向かった。
蕾は確かに膨らんで、赤西くんが私のカメラで写真を撮った日をはっきりと思い出させる。でも、これも終わりにしよう。
パシャッ。
まだ花びらが落ちないサクラを私は収めた。
そしてその1枚を最後の思い出に、もう来ることのない校舎を後にした――。
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