第4話ㅤシャッターを押させる君は

 それからというもの、赤西くんとのトーク画面は進むことはなく、学校でも話すことは無かった。

 ――それもこの日、体育祭の日までは。




 開祭式が始まる直前。全校生徒は校庭に集まった。青い空の下、朝の空気を吸い込む。

 そんな時、聞き覚えのある低い声が聞こえた。


「佐倉さん、見て!ㅤカメラ買っちゃった」

「え!ㅤどうしたのそれ」


 見ると、黒くて手に収まらない大きさの一眼レフカメラが赤西くんの首に掛かっていた。


「あのサクラの写真撮ってからまた写真撮りたいなって思って、バイト頑張って買ったんだよね」

「かっこいいね!ㅤ似合ってる!」

「ありがとう。1番に言えてよかった!ㅤそれじゃまたね」

「うん!」


 赤西くんと別れて、私はクラスの列に並んだ。すると、私は友達にこんな事を聞かれる。


「ねぇ、今の人だれ?」

「えーと、役員の人だよ」

「へー、珍しいね。男子と喋るの」


 そう言われて、今喋っていたのが赤西くんだということに気づく。好きなものについて話してたから全然意識してなかった。変じゃなかったかな、と考えるも、少しして何を考えてるんだろう、疑問を持った。今まで誰に対してもこんなことを考えたことがなかったのだ。こんなこと考えるのやめやめ、とせっかくの体育祭を楽しむために自分を切り替えた。


 競技がはじまって私は友達の隣でカメラを起動した。

 普段人物写真は撮らないものの、高校生活の思い出作りとしてクラスメイトの写真を撮る。

 たまたま撮れた1枚の写真に赤西くんが映った。何回目の笑顔だろう。彼自身もだが、彼の周りも楽しそうに笑っている。


「いいの撮れたの?」


 友達に問いかけられる。


「え、普通だよ」

「そう?ㅤなんか笑ってたからいい写真が撮れたのかと思った」


 笑ってた……?ㅤ彼の笑顔に私もつられていたってこと……?ㅤでもこの子が嘘つくわけないし、本当だと思うけど……。

 なぜか心に引っかかる。その引っかかりから1つ疑問に思った。

 私は彼にピントを合わせる時、何を思ってるだろう。そう思ってもう一度カメラを覗いた。赤西くんにピントを合わすと、思わずシャッターを押してしまった。

 彼を写真として収めたい、そういう気持ちがシャッターを押してしまったのだ。

 でもこの感じに心当たりがある。――風景写真に初めて惚れ込んだ時と同じ感じだ。あの時はたまらなくシャッターを押したくなって、気が済むまで、日が暮れるまで写真を撮ったっけ。

 それと同じ感じ。なんというか、目を離したくない、という感じなのだ。


「……ねぇ、視線を逸らせないってどんなことだと思う?」


 私は隣にいる友達に聞いてみる。


「それはどういう状況で?」

「カメラを覗いたら思わず写真に撮っちゃうような、フレームアウトさせたくないような感情」


 友達は少し困った顔をした。


「それじゃわかんないや」

「とにかくその人から目を離すのがもったいないって感じなの」


 友達はんー、と少し悩んでこう質問してきた。


「それって男の人?」


 私はうん、と答える。


「じゃあ、それなら恋だと思うよ」


 その言葉を聞いてもなんとなくピンと来なかった。恋なんてしたことがなかった。好きな人は出来たことないし、ずっと写真ばかりの人生だったから。

 わかるために続けて質問した。


「ねぇ、恋って何?」

「なんかその人がいると嬉しくなったり、恋すると世界が一変するっていうよ」

「世界が一変……」


 その言葉であの時を思い出す。サクラの日の放課後、なんとなく辺りが明るく見えた。色彩が濃く感じたあの日。もうすでに恋に落ちていた……?


「なんか恋してるね」


 考えをまとめてる途中、友達の一言で思考を遮られる。


「え?」

「だって顔真っ赤だもん。好きな人のこと考えてたんでしょ?」


 そう言われてほっぺたを触った。特に変わった感じはなくて赤くないでしょ、と反論するものの、胸はうるさくリズムを刻んでいた。



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