第8話
「あの日の数日前に、レッドリア様からお手紙が届いたのです」
それには、リュミエラ嬢に取り入り、飲ませるようにと、白い粉が同封されていた。
「まさか、毒薬だなんて…お腹を壊す程度だと思ってたんです」
カスティラ嬢はそう言って泣き出した。
「私はそんな事知らないわ。私のグループから勝手に抜けて、裏切った、この女が言っているだけでしょう」
カスティラ嬢は、ポーチから手紙を取り出した。
「これが証拠です」
「これ、レッド嬢の筆跡に見えるけど…」
可愛子ちゃんが俺の方を見て頷く。
「そんなはずないわ!私は、そんなもの知りませんわ」
手紙を奪い取ろうとしたレッド嬢の腕を、レイトが掴んだ。
「申し訳ありませんが、これは、証拠品として、押収させていただきます」
全員の目が、レッド嬢に注がれている。レッド嬢は、レイトの手を振り払い、
「私は何も存じ上げません。これは、私を陥れる罠」
そして、憎々しげにカスティラ嬢を睨みつけると、
「誰も信じられませんわ」
と言って、去っていった。
「いいんですか?行っちゃったですよー」
可愛い子ちゃんが、椅子に寄りかかりながら言った。
「うむ。これは、問題じゃろうが、なぁ、殿下」
熊が腕を組んでうなづく。
レイトに目をやると、彼は首を振った。
「証拠にはなりません。魔力痕がありません」
だろうな。毒薬を飲ませようとするやつが、そんなヘマをするはずがない。
「判ったのは、実行犯だけですね」
レイトが言うと、カスティラ嬢が震え上がった。
「すいません。この子弱いんです。強い人から言われると断れないんです」
今まで黙っていたスカル嬢が、いきなり頭を下げた。
「毒薬だと判ってたら、絶対に出来る子じゃないんです」
必死な表情だ。
「私が止めなかったからいけなかったんです。親の言いつけとは言え、レッドリア様の取り巻きになるなんて」
カスティラ嬢とスカル嬢は幼馴染の友人らいしい。この学園に来るまでは親友だったそうだ。親の言いつけで、カスティラ嬢は、レッド嬢のグループに入り、スカル嬢はそれを良しとしなかった。
「レッドリア様のグループを抜けて、リュミエラ様と仲良くすると聞いた時は、本当に嬉しかったのに」
スカル嬢は涙ぐみながら
「このバカが!」
と、カスティラ嬢を殴った。
「リュミエラ様こんなことになって申し訳ありません。さ、あんたも」
スカル嬢に促されて、カスティラ嬢は涙と鼻水でぐちゃぐちゃにの顔をあげた。
「ごご、ごめんなざい。わだじ…わだじは…、なんでごどを…」
リュミエラ嬢は、そっと、カスティラ嬢の手を取った。
「辛かったでしょう」
カスティラ嬢が目を見開いた。
「あなたは、私と一緒にいる時、とても辛そうにしていましたから。何か理由があるとは察していました」
「ごめんなざい…」
「いいえ、それを止められなかった私がいけないんです。聖女と呼ばれながら、あなたの苦しみに寄り添うことが出来なくて、ごめんなさい」
「リュ、リュミエラざま…」
「リュミエラ様、カスティラを許して頂けるのですか?」
スカル嬢もおどろいた様子だ。
「ええ、それに。私がケーキを食べようとする度に、不自然なくらいカスティラ様が急いで話しかけてくださってましたもの。あれは、私が食べないようにしてくださっていたのですね」
カスティラ嬢はポロポロ泣きながら頷いた。
「だって、申じ訳なぐで…リュミエラ様はお優じぐで…いっそのごど、私が食べてしまおうかと…」
リュミエラ嬢は首を振った。
「カスティラ様が食べなくて良かったですわ。私のお友達がいなくなってしまうところですもの」
「「リュミエラ様ー」」
カスティラ嬢とスカル嬢が泣きながらリュミエラ嬢に抱きついた。
うんうん。いい話だ。いい子達だよ本当に。リュミエラ嬢は俺を見つめて言った。
「殿下、カスティラ様をお許し下さい。紆余曲折ありましたが、最後は私の命を救ってくれました」
俺は、パイプをテーブルに置き、リュミエラ嬢の手を取った。
「探偵の仕事は、謎を解くこと。真実を解き明かすこと。犯人を捕まえる事じゃないんだよ」
「「「「殿下ああー」」」」
感動して可愛子ちゃんや熊も泣く中、レイトが肩をすくめて、「やれやれ」とため息をつくのを、俺は聞き逃さなかった。
この、冷血漢め!
悪役令嬢を断罪する王子に転生してしまったが、探偵として、この謎を解きます! @povu
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。悪役令嬢を断罪する王子に転生してしまったが、探偵として、この謎を解きます!の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます