第19話 人質救出
■作者のねらい:猛獣に食べられたのはカイトの弟。
ユーリの父と同じく、身分の低いカイトの両親もお城に拉致されてしまい、カイトと弟だけで生活していた。しかし、子どもだけで生活していくお金もなく、すぐに住む場所を失ってしまった。同じような境遇のストリートチルドレンと暮らしていたが、野宿は危険が多く、弟を失ったことをきっかけに盗賊の世話になることに。
カイトは、失った弟の代わりに他の子どもを大切にしたいと思っている。自分も子どもなのに。
「正しいことだけでは生きていけない」という言葉には、弱い立場の辛さ、不本意さ、悔しさが詰まっている。(イーヴォとちょっと似てる)
子どもの権利が認められる世界になって欲しい、という願いを込めている。
もちろん大人も。
■登場人物
シエラ
シエラ(N)
ユーリ
トワ
カイト
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
◯盗賊のアジト(夜中)
ユーリ「あれが盗賊のアジトだな」
シエラ「けっこう大きいね。あの中にお母さんたちがいるのか……」
シエラ(N)『すっかり日が暮れて涼しさが増したころ、木と
トワ「あの二人が今日の門番ね。作戦通り、大人の方は私が気絶させるから、シエラちゃんとユーリ君は子どもの方をお願いね」
ユーリ「うん!」
シエラ「わわわわ……わかった!」
トワ「それじゃ行くわよ」
シエラ(N)『トワはわたしたちを見て、緊張を和らげるように柔らかな微笑みを向けた。そしてアジトの方を向き、キリっと表情を引き締める。初めて見る真剣な横顔は、サミュエルの
ユーリ「俺たちも行くぞ」
シエラ「うん!」
シエラ(N)『わたしとユーリも塀の影に隠れ、襲撃のチャンスを伺った。思ったよりも近い。大人の門番の大きなあくびが見えた時、緊張感が一気に押し寄せ、心臓が暴れ出して口から飛び出そうになった』
ユーリ「シエラ、大丈夫だ」
シエラ(N)『カチコチのわたしを見たユーリが、耳元で静かに
SE 殴る・倒れる音
シエラ(N)『トワが鮮やかな手つきで大人の門番を気絶させると、男を担いですぐにいなくなった。襲撃に驚く子どもの門番はトワに気を取られている。チャンス。わたしが後から口を縛り、ユーリが武器を奪った。逃れようともがく子どもを、わたしとユーリが必死に引きずって門を離れる』
トワ「うふふっ。上手くいったわね!」
シエラ「ふぇぇ、よかったぁ……」
シエラ(N)『木陰に隠れると、男をどこかに捨ててきたトワが鮮やかな手つきで子どもの手足を縛りはじめた。会話ができるように、子どもの口に巻いてある布だけをはずす』
カイト「ぷぁっ! なんだよお前たち! な、何をする気だ!」
シエラ「あれ? この顔どこかで……」
トワ「あら、可愛い盗賊さんね。おさるさんみたい」
カイト「うるさい! この縄をほどけ!」
トワ「悪いけどもう少し静かにしてね。あんまり騒ぐと気づかれちゃうから」
カイト「ひぐっ……」
シエラ(N)『トワが子どもののど元にナイフを突きつけウィンクした。キラリと月明りを照り返す
カイト「お、思い出したぞ、お前! 何日か前に手紙を持ってきた女だな!」
トワ「あら、覚えていてくれたの? 嬉しいわ」
カイト「覚えてるも何も、なんで捕まえなかったんだって親方からこっぴどく叱られたんだ。忘れるわけないだろ!」
トワ「あら、それはごめんなさいね。痛いことされたの?」
シエラ(N)『トワはナイフを降ろすかわりに、子どもの顔を両手で挟んでグニグニ揉みながらのぞき込んだ。どうやら反応を楽しんでいるようだ』
カイト「ひぃぃ」
シエラ(N)『暗闇の中、トワが満面の笑みになり、子どもが脂汗をにじませて体を縮こませた。黒くてツンツンした髪の毛の間から汗がしたたる。きっとトワの笑顔に恐怖を感じているんだろう。ん、待てよ。……ツンツン頭……?』
シエラ「そうだっ!」
ユーリ「うわっ。おっきい声出すなよ」
シエラ「思い出した! あなた、山でわたしのことを見ていた子どもでしょ⁉」
ユーリ「なんの話だ⁉」
シエラ「わたしが村の男に襲われた時、この子どもがわたしたちのことをジッとみていたの。あの時は気に留めてなかったけど、まさか盗賊だったなんて」
ユーリ「本当か? お前、まさかシエラのことをずっと狙ってたのか!」
カイト「ひぃぃ! おおおおお、俺はただ、親方に命令されたから見に行っただけだ。うわさの白い子どもがいるか見て来いって」
トワ「……それで、本当にいたから孤児院を襲いに来たってわけね」
シエラ「わたしが狙いだったの……⁉︎」
トワ「シエラちゃんを狙うなんて許せないわ。ねぇ、この間連れてこられた孤児院の子たちの詳しい場所、教えてくれる?」
カイト「助けに来たつもりか? でも、親方はレムナントで強いんだぞ。お前たちなんか簡単にやられるに決まってる」
トワ「んー、それはどうかしら?」
カイト「たとえ逃げれたとしても親方が仕返ししに行くはずだ。そうしたら、今度はもっとひどい目に合うぞ!」
トワ「それは困るわね。仕返しに来れないくらい叩きのめしちゃわないと」
カイト「そんなこと、できるわけないだろ」
トワ「やっだー。できるに決まってるじゃない。私は足が速いだけじゃないのよ?」
シエラ(N)『トワは近くに落ちている石ころをつまみ上げた。わざと子どもの目の前に持ってくると、まるでぶどうをつぶすように、いとも簡単にプチンと石ころを砕いて見せた。華奢な指の間から砂になった石ころがポロポロ落ちる。子どもはまたしても体を縮めて恐怖におののいた』
カイト「うわぁぁ……」
シエラ・ユーリ「おぉぉぉ!」
トワ「うふふふ!」
シエラ(N)『これは本当に盗賊を叩きのめせそうだ。隣のユーリも、キラキラと尊敬の目でトワを見てる。さらに追い詰められた子どもは、顔中に脂汗をダラダラ流しながらわたし達を交互に睨んだ』
カイト「そうなったら、俺たちはどうするんだよ」
シエラ「え?」
カイト「行くところが無くって、猛獣に怯えながら野宿する生活に戻っちまうだろ! せっかく屋根のある所で寝れるようになったのに。逃げれなくて、喰われちまった子どももいるんだぞ。俺たちをまたそういう生活に……戻す気かよ……! うっうっ……」
シエラ「……どう言うこと?」
カイト「俺たちだって、好き好んでここにいるわけじゃないんだ。正しいことだけでは生きていけないから、しょうがなくここにいるだけなんだ」
トワ「ふーん、事情があるのね。じゃあ、みんなで孤児院に来ればいいじゃない!」
シエラ「えぇっ⁉ トワ⁉」
トワ「屋根があればいいんでしょ? じゃあ孤児院で良いじゃない。むしろなんで最初から行かないの! こんな盗賊のところなんかに来て、ダメじゃない」
ユーリ「おいおい、トワ……」
カイト「屋根だけあったってダメだ! ご飯もないと」
シエラ(N)『空腹の辛さなら、わたしも多少は分かるつもりだ。孤児院ではお腹がいっぱいになることはほとんどない。でもここ数日は、サミュエルのおかげでお腹いっぱいだった。そんなことを思ってたらつい口をついて出てしまった』
シエラ「またジャウロンが食べたいなぁ」
カイト「ジャウロン⁉︎ ジャウロンを倒せるのか?」
シエラ「う、う、うん。わたしじゃないけど……」
シエラ(N)『子どもの目が、徐々に尊敬の眼差しへと変化していく。
トワ「私も、倒せるわよ」
カイト「本当か! ジャウロンを倒せるなら、親分もなんとかなるかも知れない。……そこまで言うなら、協力してやっても良いぞ」
シエラ「えっ! 本当?」
カイト「あぁ。その代わり、俺以外の子どもたちも頼んだぞ」
トワ「分かったわ」
ユーリ「トワ⁉︎」
トワ「大丈夫大丈夫。そんなことより、まずはみんなを助けに行かなきゃ」
ユーリ「はぁ、とりあえず細かいことは後だな」
トワ「決まりね!」
シエラ(N)『トワが縄を解くと、子どもが自由になった手首をさする』
トワ「お名前を聞いても良い?」
カイト「カイト!」
トワ「よろしくね、カイト君」
【朗読台本】ライオットオブゲノム 中村 天人 @nakamuratenjin
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★40 エッセイ・ノンフィクション 連載中 19話
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